第7話 初陣のユウキ


 決戦の前日となって、ネーロ帝国のロボット、破壊神グラースは、もうそこまで来ていた。彼らは、北海道を戦地とは出来ない為、ユウキが訓練を行った無人島を決戦地に選んだ。グラースをおびき寄せる為の発信機をその島に設置し、準備は整った。


 決戦の日、ステラ達四人は出撃前に作戦会議を持った。戦闘隊形は、レグルスとサルガスが前面に出て攻撃し、ステラは、状況を見ながら臨機応変に動き、ユウキは後方から援護する事になった。

 ユウキは、皆のお荷物にだけはなりたくなかった。せめて、自分の事は自分で護ろうと心に決めた。

「じゃあ、行きましょう!」

 ステラの言葉と共に、必要な武器を持って四人は出撃した。


 五分程で無人島に着くと、付近の地形や戦いの位置等を確認したあと、サルガスがグラースの位置を調べる為に海へと潜っていった。

 サルガスは、二分もすると戻り、グラースはすぐそこまで来ていると告げた。

 四人が臨戦態勢をとっていると、ほどなく、グラースの赤茶けた巨体が波を割って現れた。

 身長は五メートルを超える大きさで、頭の真ん中の大きな目が、目でもあり、レーザー砲なのだ。グラースの頭が上下左右に動き、しきりにターゲットを探していた。

「来るわよ!!」

 ステラの甲高い声がスーツの中で響いた途端、グラースの凄まじいオレンジ色のレーザービームが、四人を襲った。「ズズーン!」轟音と共に、周りの岩や木々が吹き飛んで、岩の破片が彼らに降り注いだ。

 ユウキは、初めての戦いに恐怖を感じて、足がすくんだ。

「ユウキ、もう少し後方に下がって!」

 ステラの叫びに我に返ったユウキは、後方へと下がった。

 グラースは続けざまにレーザーを発射しながら近づいて来る。その、レーザービームの間をかいくぐり、レグルスとサルガスのエネルギー弾が、次々とグラースを捕らえた。爆音と共に噴煙が舞い上がって、それが収まり視界が戻ると、グラースは傷一つなかった。

「シールドも半端ないわ。同じ場所を狙って撃って!」

 ステラの指示で、レグルス達がグラースの足に集中して攻撃をすると、破壊出来ないまでも、転倒させる事に成功した。

 グラースは立ち上がると、狂ったようにレーザー砲を連謝してきた。その合間を縫うように、ステラ達も懸命に反撃したが、特殊合金とシールドに守られたグラースに大きなダメージを与える事は出来なかった。


 そんな戦いがしばらく続く中、ステラは、相手の弱点を見つけようと、スーツのセンサーをフル活用して懸命に探っていた。結局、レーザービームを撃つ瞬間に、シールドが解除されるレーザー口を攻撃するしかないと結論したが、グラースの頭は前後左右にクルクルと動く為、狙いが定めにくいのが難点だった。ステラ達は山の後方へと一旦退いた。


「グラースを破壊する為には、あのレーザー口に、ビーム発射の瞬間を狙って火力を集中するしかないと思うの」

「そのようですね。誰かが囮になり、引き付けるしかありません。それを攻撃する瞬間を狙いましょう。三人の火力を集中すれば勝てるかもしれません」

 レグルスが少し興奮気味に言った。

「彼も必要なの?」

「火力は二人では足りません。攻撃は一ミリの誤差も許されない。となると、囮はユウキ殿しかいません」

 ステラが難色を示したが、選択の余地はなかった。

「やらせて下さい!」

 ユウキが満を持して答えた。彼は、恐怖に震える自分を鼓舞して、ステラ達の役に立てるなら死んでもいいという気持ちになっていた。

 そうこうしている内にも、「ドーン! ドドーン!」と、グラースの攻撃は止まず、激しく地面を揺らし、山をも崩す勢いでそこまで迫っていた。

「ユウキ、シールドをMAXにして!」

 ステラに言われるままに操作すると、全パワーの八十%がシールドに、残りがスーツの動作にと設定された。

 ユウキは、グラースの百メートル位の前まで行くと、グラース目掛けて全力で走り出した。グラースが、動いていたレーザー口を、グングン近寄ってくるユウキに照準を合わせ、両足を踏ん張り、前傾姿勢になった。レーザー口の温度が上がり、今まさにビームが放たれようとした瞬間。

「今よ!!」

 ステラの声が響き、グラースの視界からユウキの姿が瞬時に消えて、三つの閃光が走ったと思うと、「ズドドドドーン!!」轟音と共に、グラースの頭は吹き飛んだ。


 ユウキの後ろにステルスモードで隠れていた、三人の渾身のエネルギー弾が、グラースの顔面に炸裂したのだ。更に止めの一撃を受けると、グラースは、あえなく大破し炎上した。


 ユウキが、上空からゆっくり降りてきて、カシャカシャとマスク部分が格納されると、緊張した顔が現れた。

「怪我はない?」

 ステラが、そう言いながらユウキに近付き抱きついた。

 興奮状態にあったユウキが、その緑の優しい瞳に見つめられて我に返り、ステラを抱きしめると、甘い髪の香りが彼の心を落ち着かせた。

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