2-8.『さっさと帰れ貧乏人』
扉を開けると、重い腰を上げる老人のように
踏み入った店内は、物々しい威圧感に満ちていた。
壁に張り巡らされた金網に、
並び立つウィンドウケースに収められているのは、ハンドガンやアタッチメント、金塊のように輝く弾丸たち。
かつては有名な喫茶店だったらしいが……店主による魔改装が
ひとつ結びにした
年季の入った
丸眼鏡の奥にある
マルス・ヴァルター。
この
「景気はどうだ?」
「はろー」
出会い頭に皮肉を投げるアルバート。
気の抜けた
「さっさと帰れ貧乏人。万年不景気のお前らほど、俺ァ
ヴァルターは
「そんな
「笑わすな。その面構えと同じシケた買い物しかしねぇクセによ」
「極東の島国には、『お客様は神様です』って言葉があるが」
「そいつァ店側の心構えだ。客のフリしたクソ野郎を許すための
せせら笑うヴァルターが顎をしゃくった先にあるのは、店の一番目立つ位置に飾られたバカでかい
表情筋をひくつかせるアルバートの前で、ワイスは『おー』と感嘆の声を上げる。
――
「あれ良いじゃん、買いなよ。
確かに火力としては魅力的だが、
命のやり取りが大好きなワイスと違い、アルバートは
「……あたしが買ったげよっかー?」
にへら、と笑いながら、ワイスが顔を
「いらねぇよ。取り回しが面倒だ」
「なんだアルバート、いつから飼い犬の首輪のヒモになったんだ?」
「また物忘れが
「あたしを犬って呼ぶなー」
「おー、怖ぇ怖ぇ」
二人の冷ややかな視線に
一睨みくれながら、アルバートは小さく歯噛みする。
事務所兼自宅のローン、仕事に使う
仕事の売り上げは、入ったそばから湯水のごとく流れていく——悲しいことに彼は万年金欠だった。
戦闘以外は役立たずの
「で? 冷やかしなら試し撃ちの的にすンぞ」
「誰が用も無く来るかよ」アルバートはカウンターに拳銃と
「ナイフちょーだい。前と同じやつねー」
「あいよ、毎度」
カウンター奥の木棚から十数本のナイフを
「そういやァこの前、盗みが入ったんだ」
「ここに泥棒が入るとは……とんだ命知らずがいたもんだな」
「ボケて鍵掛けんの忘れただけっしょー?」
「いんやァ、鍵は開けられてねぇし荒らされた形跡も無い。商品だけが消えてやがった……どこぞのクソ〈
「「……さぁ?」」
さも二人が犯人かのように睨みを利かせるヴァルター。
どうやら中年男が〈
「別にいいじゃん、また創ればー?」
「ここの商品は全部手作りで原価タダだろうが。大した損失じゃないだろ。……てか、なんでこんなクソ高いんだよ」
〈
故に原価も無ければ、この枯れ木のような老人が死ぬまで在庫切れとも無縁。
ワイスの言葉と便乗したアルバートの文句に、ヴァルターは露骨に顔を歪めた。
「こちとら老骨に
腹立たしいことに、彼も口先だけの無能ではない。
やはり〈悪魔憑き〉としての練度が違うのか、値は張るが性能は申し分ない。
悪魔と契約した武器職人。その作品を一度でも使ってしまうと、二束三文の既製品では物足りなくなってしまう。
そうでなければ、こんな偏屈老人が仕切る店に
「老後の軍資金が欲しいのは分かるが、客から
アルバートの嫌味に、悪徳商人はにやりと口角を持ち上げた。
「実はな、新しい
枯れ枝のような指が小突いたカウンター下に、見慣れない貼り紙が一枚。
読み進めるにつれ、アルバートとワイスの眉は
「「——武器配達、始めましたぁ?」」
「おうよ。なんでも“本土”じゃ、近頃の配達は
ワイスは小難しい顔をして首を
聞いたことがある。仕事の機械化・自動化の一環として、大手物流会社が始めたサービスだ。
事前に住所を登録すると、オンラインショップで購入した商品を小型の無人機が玄関前に運んでくれるのだとか。
「面白そうなんで、俺も真似してやろうと思ってな。……こんな風に」
言って、ヴァルターは今しがた
銃身が波打つ光を放ったかと思うと、
間抜けな
一見して本物と見まごうが……羽毛には生物ではありえない鉄の光沢。
それを見止めた瞬間、輪郭が再び
「客が少なくなったら、今度は伝書鳩を飛ばして押し売りか?」
「事前予約制だ。電話一本でいつでも届けてやるよ」
親指と小指を立てて受話器のように耳に当て、ヴァルターは
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