第57話「頼りにさせてもらおう」

「……お父様の反応はよかったわ」


 次の日の朝食の場で、アデルがすこし不満そうな顔で言った。


「そうなんだ。王家とのつながりを優先したいってことかな」


 と俺は予想してみる。


「ええ」


 アデルは不満そうながらうなずいた。


「レーナ・フィリス殿下の覚えがめでたいほうがいいって」


「あの方の継承順位は低いんだよね。王妃様の実子だけど」


 俺は合いの手を入れるつもりで言った。

 王家の発言力はかなりややこしい。


 王妃、王太子、王妃の子、それから側室の子という順番だが、本人の能力や人望などにもよって変化がある。


 いまの王子王女は何人もいるし、王妃の子が王太子、第二王子、第二王女といるので、レーナ・フィリス殿下の優先度は高くない。


 もちろん王妃の実子、王太子の実妹だからとても高貴な存在であり、あくまでも王家の中ではということになる。


 だが、王家の中ではというのがわりと重要だったはずだ。


「わたしもそう思ったのだけど、王妃様の実子で他のご兄弟との仲もいいことは見逃せないそうよ」


 とアデルが白いカップを口元に運ぶ。

 なるほどな、兄弟の関係性も考えなきゃいけなかったのか。


「そういう意味で、魔族の情報をレーナ・フィリス殿下にお伝えしたのはいい判断だったと、お父様が褒めていたわよ」

 

 彼女はそう言って笑顔になる。


「そっか」


「お父様もできれば伝えたかったみたいね。魔族の大物が関わっているとしたら、侯爵家だけじゃ手に負えないって」


 アデルの笑顔がくもった。

 たしかに魔族は強い個体は本当に強いからな。


 俺が倒した夢魔は弱いほうだと思うけど。


「魔族って勇者様や賢者様の時代に滅んだ、伝説上の存在ではなかったのですね」


 ここでユーリが口をはさむ。


「ええ、わたしも伝説だと思っていたわ。ほとんど見かけなかったそうだから」


 とアデルは言った。

 まだ信じられないということなんだろうか。


 俺にしてみれば何を言っているのかという気分なんだが、この時代しか知らない人の感覚はちゃんと把握しておかなきゃ。


「でも、きっとユーグがいるから平気ね」


 とアデルはニコリと微笑む。

 突然の展開だが、それだけ彼女は俺を信用しているということか。


 悪い気はしないけど、俺ひとりじゃどこまでできるかさすがに不安だぞ。


「ひとりだけだとさすがに無理があると思うから、戦力は多いほうがいいよ」


 と答えた。

 たぶんネフライト先生だったらあの夢魔に勝てるだろうし。


 ボネだって頑張ればいけるだろう。

 

「冷静ですね」


 とユーリがまぶしいものを見る目で、俺のことを見る。


「英雄願望がないわけじゃないけど、ひとりの限界はわかるつもりだから」


 苦笑とともに答えた。

 勇者様や賢者様にあこがれた時期もある。


 いまの時代、世界最強を目指してみようって野望だってある。

 だが、それはつまり俺ひとりで全部何とかできるってことにはならない。


「ふふ、わたしだっているからね? 侯爵家の力を使ってダーリンを支援するわ」


 とアデルは笑顔で言い切る。


「それはありがたいね」


 侯爵家の財力と人脈は大きな助けになってくれるだろう。

 

「もちろん私もお支えします」


 とユーリがひかえめに申し出る。

 彼女も実は子爵令嬢だったりするのでありがたかった。


「ああ。頼りにさせてもらうよ」


 人に頼ることは恥じゃないのだ。

 むしろできることをやるために、どんどん頼りにさせてもらおう。




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