第55話「変わらなかったポイント」
みんなが言われた通り付与魔法を発動させ合いはじめると、ネフライト先生が俺に声をかけてくる。
「せっかくですし、デュノくんの付与魔法もゆっくり見たいのですが」
採点されるのは何か恥ずかしいけど、彼女の言葉に従った。
「《風の息吹》」
一番なじみのある魔法を発動させる。
「すごいですね」
ネフライト先生は凝視しながら感心した。
「まるで数十年分の鍛錬をこなしたかのような滑らかさ、美しさです」
前世で鍛錬してきたことを体が覚えているからね。
ばれたわけじゃなくてもちょっとぎくりとする。
「そ、そうですかね?」
照れたふりをして横を向いた。
「む」
どういうわけかアデルが不機嫌になった気配を感じる。
「あわわ」
そしてなぜかユーリがあわあわしているようだ。
「ただ手本にするにはレベルが高すぎますね。生徒たちでは参考にならないと思います」
ネフライト先生はすこしがっかりしている。
何だか申し訳ない気になってくるな。
「《風の祝福》が使えるなら、《風のささやき》もいけますか?」
とネフライト先生に聞かれる。
「使えますよ」
上位の魔法を使えるのに下位の魔法は使えない、ということはかなり珍しい。
だからこの人は確認のために聞いただけだろう。
「なら申し訳ないですが、下位の魔法をお願いできますか?」
とお願いされる。
……ああ、なるほど。
魔法使いとしての先を見せたいってことかな?
「そのほうがいいかもしれませんね」
と答える。
「《風のささやき》」
そして魔法を発動させた。
「ええ。ひとつの到達点、あなたたちが目指すべき先にこのデュノくんはいると言えます。目標としてとてもすばらしいですね」
とネフライト先生はみんなに言い聞かせる。
「あれが到達点……?」
「まあ先生とレベルが近いってことなんだろうし。さっきの攻防すごかったよね」
「すごいね。同い年なのに」
「本当に同い年なのかな」
俺は完全に見世物になってるな。
手本や目標になるなら仕方ないか。
シリル嬢やレーナ・フィリス殿下たちもじっとこっちを見ている。
アデルだけは得意そうにどや顔をしてるな。
「では次に《火のささやき》は使えますか?」
とネフライト先生の指示が出る。
「ええ。《火のささやき》」
俺は一瞬で魔法を切り替えた。
「はや!?」
「何、あの速さ!?」
「普通、属性の切り替えはもっと時間がかかるだろう!?」
「そもそも魔法の発動速度が尋常じゃなく速いような」
「あれだけ速いなら、相手の動きを見てから魔法を切り替えることができるわね」
同級生たちの間ではさっき以上の騒ぎになっている。
言われているようだが、魔法の発動の速さこそ魔法使いの生命線だ。
これができないと戦士の恰好の獲物になってしまう。
……できる人が減ったから魔法職は最弱扱いになったのかもしれないな。
「ええ。魔法の切り替え速度は戦闘の基本、そして極意でもある技術です」
とネフライト先生は語る。
たしかに接近して殴り合いながら魔法も発動させるというこの時代の戦闘スタイルだと、切り替え速度はすごく大事になりそうだ。
時代は移り変わっても、変わらなかったポイントはあるわけか。
「アガット侯爵に取り立てられただけはあります。デュノくんはちょっと見ないほどずば抜けていますね」
とネフライト先生は称賛してくれる。
魔法使い職は殴られないように立ち回り、殴られそうになったら耐久用の魔法に切り替える、というスタイルが普通だったからな。
前世で死ぬような思いをしてきた経験がいまでも生きている。
慢心せずに頑張っていこう。
偉そうにするつもりはないけど、いまの時代になるまでに失われた技術を復興させるのが俺の役目……なーんてな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます