第47話「全員がそうとはかぎらない」
「う、ウソだろう?」
「魔法職ってのはデマだったのか?」
「ちくしょう、俺たちはだまされたんだ」
何やら彼らは騒ぎはじめた。
奇妙なことを言っているな。
情報と違っていたというなら「だまされた」なんて言い方はしないだろう。
「だまされた? 誰に?」
と聞いてみると、彼らは気まずそうに口をつぐむ。
貴族社会の勉強をした結果、彼らに情報を渡したのはより上位の者だと推測できた。
狙いは俺の力を測ること、だろうか?
あるいは他の目的でもあるんだろうか。
このあとでアデルに相談してみよう。
貴族同士の謀略がかかわっているなら、素直に聞いてみたほうがいい。
「じゃあ俺は行きますよ?」
と断りを入れる。
「ま、待ってもらおう」
「そうだ、骨を折っておいて、どういうことだ!?」
足を動かして立ち去ろうとしたら、呼び止められて因縁をつけられた。
「いや、さすがに通らないでしょう?」
公平な立会人とまでは思ってなかったけど、ここまでひどいとは。
「貴族としての誇りはどうなります?」
無駄だと思いながら聞いてみる。
「何のことでしょうか?」
「骨を折るほどの暴漢を成敗するだけですよ?」
五人は俺の行く手をふさぐように半円を作った。
どうやら逃がす気はないらしい。
「決闘を申し込んできたくせに負けたらこの言いがかり。これで『貴い』とか」
思わずいやみを言いたくなったので、言ってしまった。
本当なら言わないほうがよいことだが、相手のほうがひどいからノーカウントで。
「何のことかわかりませんね。あなたが彼の腕を折ったのです。我々が証人になるのだから、言い逃がれはできませんよ?」
とひとりが言う。
とことん俺を悪者にするつもりらしい。
これはちょっと面倒な展開で、素直にアガット家の力を借りるのが一番面倒がすくないかもしれない。
先方というか今回の黒幕は、その展開こそ狙っている可能性もあるけど。
「やれやれ。六対一でボロ負けしたとなれば、充分恥になるでしょうに。恥をかきたいんですか?」
挑発的な物言いを返す。
どうあっても俺に喧嘩を売りたい、へこませたいっていう意図があるんだったら遠慮したっても無駄だろう。
「成り上がりものがぁ! 運よくアガット侯爵家の寵を得たからと言って、増長しやがって!」
ひとりが憎しみのこもった叫びをあげる。
これが本音だし本性だというのはわかるが、思っていたよりは底が浅い。
まあ貴族全員、それも子どもが底知れないすごみを持っているほうが変かな?
「思い上がりを後悔するがいい!!」
「《風のささやき》」
「《水のささやき》」
「《火のささやき》」
五人ともそれぞれ魔法を付与してから、同時に飛び掛かってくる。
「《風の息吹》」
俺は風の付与魔法を自分にかけて、ただその場で棒立ちになった。
「ぎゃああ!」
「ぐあああ!」
殴ろうとした彼らの拳が壊れ、苦痛に悶える。
彼らとの力の差を考えれば充分ありえることだったが、あほらしい展開だ。
「こ、こんなことしてただですむと思うなよ……」
「そ、そうだ。我らの家が連名で抗議すれば、アガット侯爵家といえど無事ではすまないんだぞ!」
彼らは激痛に表情をゆがめながら脅してくる。
ここまでくればいっそあっぱれだと思うが、それはそれとしてどうしたものか。
「おや、そうは参りませんよ」
不意に出現したレーナ・フィリス殿下のおつきの人が立っていた。
気配の感じ方から察するに離れたところで俺たちを見守っていて、タイミングを見計らってやってきたんだろう。
「わたしが一部始終見てましたから。ユーグ殿は何も悪くないと証言できます。このトルマ家のシリルがね」
と彼女は微笑む。
「トルマ家!?」
転がっている男たちが驚いたのも無理もない。
宰相や大臣を何人も輩出している、名門法衣貴族だと教わった記憶がある。
そんな大物の紹介をすっ飛ばしたのか、レーナ・フィリス殿下は。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます