第44話「ネフライト」

 入学式のあいさつはレーナ・フィリス殿下がおこない、祝いの言葉を生徒会長の女子生徒が話す。


 ブルックリナーという家名だったことから、ブルックリナー侯爵家の一員だと推測できる。


 初日それもほんの数時間でアデルより格上の王女殿下、同格の生徒会長を見るんだから王都の学園は違うなと感心してしまう。


「次に担任教師の紹介をおこないます」


 昔は退屈なセレモニーだったけど、今回は誰が担任になるのか興味深い。


 王女殿下と侯爵令嬢がいるクラスだから、普通の人間には手に余るだろうからね。


「一年Aクラスはネフライト教師」


 ざわっという声が起こったのも無理ないと思う。


 俺たちのクラスの列の前に立ったのは、クールで気難しそうな印象を与える髪も瞳も水色の美女教師だ。


 侯爵家の勉強で学んだ「王国三大戦力」のひとり、リーン・ドゥ・ネフライト。


 学園在学中に三位階魔法に到達し、ひとりで千を超すモンスターの群れを撃破したあげく、すこしも疲労していなかったという伝説を持つ。


 二十代ながらいくつもの功績を立てていることから、国王陛下から永代子爵を授かって実家から独立して家を興したという。


 最強を目指すなら避けては通れない女性だ。


 そのネフライト先生の視線がまずはレーナ・フィリス殿下、次に俺、最後にアデルの順番に走る。


 どうして俺がアデルよりも先だったんだろうか?


「では担任について移動して」


 あ、一年Aクラスは他の担任紹介を待たなくてもいいのか。

 アデルとレーナ・フィリス殿下のおかげかもしれないが、感謝しよう。


「大物が来ると思っていたけど、まさかネフライト先生とはね」


 と俺の右隣にさりげなく移動したアデルが小声で言った。


「ネフライト先生はもともと貴族令嬢だったんだよね?」


 あやふやになっている部分を彼女に確認する。


「ええ。ネフライト家は子爵位よ」


 つまり実家と同格の家を興して当主になったというわけか。


「実力があれば家の格なんて関係ないわよ、ダーリン?」


 アデルはふと気づいたように言ってくる。


「いや、その点を気にしたわけじゃないよ」


 子爵家令嬢が別の家を興したら、実家との関係はどうなるんだろうと疑問に思っただけだ。


 平民でも伯爵になれるという点については心配していない。

 もし実現できなければこの国にこだわる必要もないだろう。


 ……こっちの考えはまだアデルには言えないけど。

 

「まさかネフライト様とはね」


 という声は他にも聞こえてくる。

 レーナ・フィリス殿下だけは驚いている感じはしないな。


 あの人だったら学園長や国王陛下から話を聞かされていても不思議じゃないので、参考にはならないか。

 

「ところでボネは王国の大会で優勝したって言ってたよね?」


「ネフライト様とは戦ってないはずよ」


 俺の言いたいことを察したらしいアデルが、先回りして答えをくれる。


「ネフライト様は強すぎて大会に出場禁止なのよね。三大戦力は全員がそう」


 つまりボネはどう考えても王国で四番以下ってことか。


 まあさすがに王国最強だったら、アガット侯爵家の手元に置いておくのは難しいだろうしね。


 いつの日か三大戦力に挑戦したいね。

 五年後か十年後かわからないけど。


 実力はもちろん、相手が挑戦を受けてくれるかどうかという問題がある。

 向こうにしてみれば十代の学生と戦う理由もメリットもないからね。

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