第16話 お弁当大会の優勝者はだれ?

数日後が経って診療所の人たちはすくすくと回復していた。

奇病騒ぎも終息を迎えて村は一安心したようだし、賢者様たちも近いうちに次の村へ

出発することを決めたようだ。


「さあ 今日も豚肉の時間ですぅ~!残さずに食べないと治りませんよぉ~!」

「勘弁してくれ。俺はもう元気だぁ。鶏肉にしてくれないか?」

「ダメですぅ~!ふふふ」


「オーレンス、どうしてベッドで寝ている人たちは豚肉を食べさせられているゲロ?」

ああそれな。俺たちがあのツボをやっつけたあの日に

療養所の食事は豚肉だったらしい、そこで軽く焦がした豚肉を毎日食べるという

治療が開発されたらしいな。

「民間療法だ ゲロゲロ 」

そして毎日の豚肉料理にみんな嫌気がさしているので俺はこっそりと診療所に通っていた。

さて ジェフラが帰っていったな。そろそろか。


「ああ! オーレンス・・今日も来てくれたのか?」

「はい パンを持ってきましたので豚肉と交換しませんか?」

「もちろんだとも ありがとうオーレンス。また明日も来てくれよな」


「お弁当のおかずゲットでチュね」

村では食材を買うことが出来るけど、作るのがだんだん面倒になってきて

最近は 毎日がサンドイッチだった。

そこで この照り焼きのコンガリ豚肉がお弁当のおかずにピッタリだったと言うことで

交換しに通っていた。



くちた小人が動き出した原因は結局わからずじまい、

賢者様も小人がいなければ調べようがないと言っていたけど


「おはよう ジャンバル」

「うははははぁ うむ! おはよう。おお空を見るのじゃ オーレンス」


空を見上げると日の光で七色に光るアホな顔の鳥たちが飛んでいた。

「レインボーアホー鳥の群れじゃな。

今年も卵を産みに来ておるのじゃよ。

あれの卵は 邪気を吸い取る力があるのじゃ

昔この村では供物として勇者たちが卵を供える祭事があったのじゃが

今では頂きに行くことのできる者も少ないじゃろう。

おそらく小人も出るようになっているじゃろうしな」


ジャンバルと話をしていると 袋を持ったセレネがやってきた

「ここにいたのね。オーレンス。聞いたわよ!

あなた スーちゃんを助けたそうね。やるじゃない!!

それでね、オーレンスにいいニュースがあるのよ。

満月の日に飛び上がろうとするウサギの様に、私も勇気を出すことにしたの」


セレネは俺の背中をバシバシと叩いてきた。

今日は いつもよりも馴れ馴れしいな。


「それでね 助けたときにアレ・・を漏らしちゃったんだってね。

そこであなたにピッタリの話があるの。今日から私があなたの先生になってあげるって話よ! 

はい!これお弁当。全部食べるのよ。

食べたらハイタッチしてあげるからね。私行くわね 夕方にまた会いましょう。じゃぁバイバイ」


「じゃぁ バイバイ」ってジェフラみたいだな。セレネは行ってしまった。

先生になってくれるって言ってたけど もしかして魔法の先生になってくれるのかな?

お弁当の包みを開けてみると 中身はぶつ切りの草が敷き詰められており。

意外なのはそれだけではなくて、

お湯をかければお茶の出せそうなくらいに炒りに炒られた卵のそぼろが入っていた。

なんだ これ??

「それは この村に伝わる。おねしょを治す薬草と炒り卵じゃな。うははははぁ」

先生ってそっちの先生だったのか?

「オーレンス 完全に誤解されているでチュね」

「セレネの勇気にシクシク ゲロ」


でも このままではさすがに食べられない。

俺は 薬草を包みから取り出すとサンドイッチに挟んで上から卵のそぼろを振りかけた。

サンドイッチが薬草バーガーに進化した。

食べやすそうになったぞ。

んん。。だけど今度は薬草を挟んだせいで量が増えすぎたな。

これじゃ 食べきれないし、そうだ。 お弁当大会に出品してみよう。

俺は村の入り口に付くと 

ベンチのような長いテーブルに薬草バーガーを置いた。

これで誰かが食べてくれるだろう。


そして いつものように今日もトカゲに乗った戦士様がやってきた。

「みんな今日もオレのためにありがとう。

さて 今日が最後のお弁当大会だ。

村の奇病も去りこの大会の最後にも相応し日となった。

それではお弁当を選ばせてもらおうか。」

戦士マクアは すぐにジェフラのお弁当は選ばずにもったい付けるように

ウロウロと歩き始めた。

すると 長いテーブルの端っこのほうに 申しわけなさそうに置かれている包みがある。


「ん?なんだこれは?? パンにすべての具材を挟んだのか??

 なんと 無謀。乱暴な料理ではないか?がははは」


村娘たちからクスクスと笑い声が上がる。


「だが 今日は朝食を食べる時間がなくてな。手ごろなので頂くとしよう」

戦士マクアは薬草バーガーをほおばり、もぐもぐし始めた。

・・・。

もぐもぐ

・・。

「うぅぅぅぅ! うまいぞぉぉぉぉぉ!!!」

戦士マクアは 薬草バーガーを頭上に掲げて叫んだ。


奇跡が起きた。


「ありえないゲロゲロぉ」

「マジかよ」

叫ぶ戦士に絶句する村娘たちがいた。

村長の娘のジェフラなんて連勝記録をストップさせられたらしく

悔しくて悔しくて泣き出した。

「パンに負けるなんて。ヨハン。。クビにしてやるわ」

と泣きじゃくるかすれた声で怖い呪文を唱えだした。


さらに戦士マクアは 剣を抜いた。

腰に下げたヒョウタンに入っている液体を剣に吸わせると燃えだした魔法剣を使って

「スパスパスパ!」と音を立ててパンの耳をカットしてしまった。

戦士マクアは 勝利宣言をするかのように高らかに言い放った。

「はっはは!こうすることで 具材の入った場所をいきなり食べることが出来るのだ!

さあ 今日のお弁当を作った物は名乗り出るがよい!」

カッコいいけど切っているのはパンの耳だよ。

「魔法剣の無駄遣いゲロ、シクシク」


だけど俺が作った料理だから だれも名乗り出るはずはない。

「オマエ 勝ったのに 名乗りでないノカ?」

「死出のネックレス」は欲しいけど俺は娘じゃないからきっと無効になるはずだ。

面倒ごとになりそうだし、ほっといてもいいだろう。


けど 小さな村だけあって意外な方向へ話は進んでしまった。

「あの~ 私。。見ました! セレネちゃんが薬草を積んでいるところを!」

「はいはいはい!! 私も見ました。セレネちゃんがテーブルの上に置かれている包み紙と同じものをもって歩いていたところを!!」


戦士マクアもセレネという言葉を聞いて悪そうな顔つきになった。

「ちょっとまて!ホントか?あの踊るボヨンボヨンのセレネか?

うひゃひゃひゃひゃひゃ!! こりゃーーいい!!色々といいぞ。

村娘の顔を補っても余りある、あのボヨンボヨンがさわれ、、イヤイヤ

セレネの熱意は伝わった! 心遣いに感動したぞ!優勝者はセレネとする!!

だれか セレネを呼んできてくれ」


お弁当大会のとどのつまりがサンドイッチだったなんて、

そして優勝者がセレネだなんて、村娘たちはブーイングこそしないが目を覚ましたようだった。

だけど そんな中で一人だけ違う気持ちを持った者もいた。

セレネをライバル視しているジェフラだ。

「お待ちください。」と声を上げたジェフラは

ずっとコックのヨハンの力を借りて連勝し続けていた自分が

たった一回の勝負で敗北してしまうなんて納得できなかった。


ジェフラの脳裏には自分が村に来た頃に

セレネは小さなころから魔女の娘としてチヤホヤされて、

また魔法が使えるということでチヤホヤされていたころのセレネが浮かんでいた。


どこにも行っちゃダメ・・あなたは わたしの先へ行っちゃ。ダメなのよ



不満な顔をしながら強い口調で

「セレネとの一騎打ちをさせてください」と申し出たけど

一騎打ちなんて起こらないだろうとみんなが思ったそんなとき

「その勝負 ワシが預かった!」と賢者スデーモの声がした。

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