3 AIに支配された系の映画とかって怖いじゃん?
たけちゃんと、オタ⭐︎ロードと呼ばれる主にオタク達の好む店舗が並んだ道筋をブラッチングする。見事にマコたんのくじを大人買いしたたけちゃんは、先程の出来事が嘘かの如く満足げだ。
俺は蓄積された疲労と戦いながら、フィギア化された美少女達を目に焼き付ける。はあ、癒し。
高ランクの奴等が何故か低ランクの箱庭に足を踏み入れるという非常事態。愚民の巣窟とか出来損ないの集りとか、好き放題言っては滅多な事が無い限り近づいてこない奴等なのに。なにが怪しい出来事だ。ちょっとかっこいいとか思ってないからな。
ふと、薄暗い細い通りに、Eクラスの男子数名の姿を発見する。気づいてないたけちゃんには報告せず、気づかれぬよう早足でその通りから離れた。
チラリと見えたのは物凄い形相の彼等。すごいおっかない顔してた。眉を寄せて、苦しみと‥そして歓喜噛みしめるような‥。
ゾッと鳥肌の立つ腕をさする。
もし、先程のあの廊下に‥Eの連中が居たら大変だっただろうな‥。きっと突っかかって乱闘に‥
ランクによって、人としての扱いが変わる世界だ。悪く言えば差別に等しい。Eだからと、日々どんな扱いを受けているのかなんて、容易に想像できる。俺達Dのように、低ランクだからと諦めて大人しく過ごす者が少ないのは、
それがとてつもなく辛い事だったからーーー。
きっと彼等は高ランクの連中を、そしてこの世界を、心の奥底から恨んでいるのだろう。
そう考えると俺は恵まれているのかもしれない。比べる気なんてないけど、でも、世界と戦うよりも俺は、奥さんと子どもに囲まれて温かい家庭で幸せに過ごす未来が良い。その為には平和に平凡に、
そう思っていた矢先だ。
ゴーン‥ゴーン‥ゴーン‥ーーー。
「?箱庭の鐘の音でござるな。また政治家の交代でござるか?」
「‥?」
ふいに町中に響き渡る鐘の音。
【箱庭の鐘】政府が作り出したAIの核゛マザーが、自らあみ出し管理している一部。空に続くように高く設計されており、あらゆる文字記号がその白い塔に映し出されている。
各地方に設置され、謂わばニュースの速報のようなものだ。
主に重要な席の政治家が交代したり、災害だったり‥人間よりも速く情報をこうして伝えてくるものだから、まるでAIに乗っ取られてるみたいで俺はあまり好きでは無いのだけど‥。
とにかく、AIの核であるマザーが判断して、こうして時々鐘を鳴らすのだ。
立ち止まり、動きを止める人々。
俺達も足を止め、乱雑に移動する文字列を眺めた。
ゴーン‥ゴーン‥ゴーン、、。
『ーーー皆様。こんばんは。マザーからのお知らせです。マザーからのお知らせです。
只今、ランク制度の測定基準に属さない新たな能力゛を確認致しました。マザーはこれを実在するものと判断ーーー早急にーーつき、ま、しては、皆様のランクのアップデートをーーます。最新のAIドールが派遣されま‥ま、ま、マ‥ジジッーーー』
ノイズの音がキーンと響き渡る。
「ッひい、なんでござるかこの不協和音ッ!?ぬ!?まさかの回線落ち!?古ネタすぎますぞッ‥一体どういうことでござるか?全くもって理解不能‥。ぐふう‥なんだが不吉な予感ですな‥。ここは拙者の邪眼で‥」
塔を見上げながらタケちゃんがぶつぶつと何かを唱え始める。
俺も同じように、エラー画面なのか殺害予告の怪文書みたいになっている箱庭の鐘を見上げながら、聞き取れた文章を必死に繋ぎ合わせていた。
こんな事初めてだ。マザーの故障?電波妨害?
唯一頭に残る言葉。
゛新たな能力を確認致しましたーーー。
それって‥どういう、意味なのだろう。
「ふむ、掲示板チェックっと」
タケちゃんが、空中に手をかざし、そこから現れた電脳画面を操作していく。
たぶんマザーからの情報が最速でアップされる掲示板サイトやSNSを確認しているっぽいけど。
画面と睨めっこするタケちゃん。
文章の続きやら情報やらを検索しているようだが、あの表情からすると皆んな同じ反応なのだろう。
新たな能力‥新たな能力、か‥。もしその能力値が高ければ、俺上のランクに上がっちゃったり?はは、最高。
なんて悠長に考えながら、通常通り動き出した街の人々を見て、俺も塔から視線を外す。
どうせまたすぐにニュースでやるだろうし、今気にしたって仕方ない。もう行こうよ。そうタケちゃんに声をかけようと口を開いた‥
刹那、
「あああッ!?!?ひいいい」
「たすけてええええ」
「誰かッ」
人の悲鳴と、大きな爆発音ーー
それにより、開きかけていた俺の口は閉ざされるーーー。
「っ!?!?」
「なぬっ!?何事っ!?」
心臓が止まりそう。なんだ?何が起こった?!
騒音の元を探ろうと、辺りを見渡す。が、それよりも目に入る異様なものに、俺は唖然と空を見つめた。
逃げてくる人々の先で、真っ黒な煙が上がっている。空には二体の‥龍が‥ッ!?!?はぁあ!?!?
「ネギー‥これは現実なのだろうか‥夢でも見ているんじゃ‥」
「り、りゅう‥え、あ?」
たけちゃんがボソボソ呟いている。たけちゃんにも見えてるんだ‥じゃあこれは‥集団幻覚とか?
唸り声を上げて空を舞う二体の黒龍。ありえない。なんだこれ。夢ならばリアルすぎ。大きな口。飲み込まれそう。鱗まで繊細で‥牙なんか‥おぞましすぎッ
だめだ。しっかりしろ。逃げないと。
「ッ!!!」
「うおわッ!?ね、ネギー?」
呆然とするたけちゃんの腕を掴んで、龍がいる方角と逆方向に引っ張っていく。
驚きながらもそのまま大人しくついて来るたけちゃん。俺は必死で早歩きする。出来るだけ遠くへ避難しないとッ
「あ!?まってネギー!?マコにゃんのくじがッ」
「っへ!?」
刹那、そう叫んだたけちゃんに払われる腕。爆発音に驚いてたけちゃんが落とした紙袋‥マコたんのくじの存在を思い出したようだ。慌ててスタート位置に戻って行くたけちゃんに、俺は唖然とした。
嘘だろおい。
もうそこまで来てるのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます