第75話:妊娠

「そんなに落ち込まないで、ルーパス。

 相手は魔族の王の中の王なのよ。

 善良なルーパスが策略で勝てるはずがないじゃない。

 むしろ勝てる方が恥ずかしい事だわ。

 だから大魔王に策略で負けた事は、むしろ誇るべき事なのよ」


「全然褒められている気がしないのだがな」


「ふっふっふっふっ、そうね、褒めているようなけなしているような」


「なんだよそれは」


 魔界から戻ったルーパスとミネルバは仲睦まじい時間を過ごしていた。

 それはオードリーとグレアムも同じだった。


「待ってくれオードリー、そんなに走ったら危ないよ」


「ふっふっふっふっ、だったら早く捕まえてよグレアム」


 オードリーとグレアムは馬達に連れられて人界の美しい場所を巡っていた。

 今日は一面に花が咲き乱れる草原を馬達と一緒に駆けていた。


★★★★★★


「ルーパス、そろそろ観念したらどうなの。

 もういい加減、オードリーとグレアムの結婚式を開いてちょうだい」


「……」


「お腹が大きくなってきたり、子供が生まれてしまってからでは、オードリーとグレアムが恥をかいてしまうのよ」


「なんだと、子供ができたというのか!?」


「愛し合う若い二人なのですから、子供ができるのが当然のことでしょ」


「グレアムめ、絶対に許さん。

 帰ってきたらぶちのめしてやる」


「ルーパス、貴男にグレアムを殴る資格があるの。

 私がオードリーを妊娠した時には……」


「やめ、やめ、やめ、もう何も言わないでくれ。

 分かったから、二人の結婚を認めるから。

 明日にでも世界中に知らせて、数日のうちに結婚式を開くから」


「駄目よ、いくらなんでもそれは早すぎるわよ。

 女には色々用意があるのよ。

 一カ月よ、一カ月あればドレスも身体も多少は形がつくわ。

 それ以上長引いちゃうと、オードリーも私のお腹が目立ってしまうから」


「ふっふぇ?

 なにを言っているのかな、ミネルバさんや」


「何をとぼけているのよ、ルーパス。

 数えきれないくらい身に覚えがあるでしょ。

 それとも、私が浮気でもしたと言いたいのかしら!?」


「いや、いや、いや、いや、そんなことは毛ほども思っていないよ。

 ただ、そう、ただ、ちょっとだけビックリしただけだから」


「本当に男はどうしようもないわね。

 男は愛し合ったらそれで終わりだけど、女は違うのよ。

 妊娠して子供を産んで育てることになるのよ。

 オードリーの時にはこの手で育ててあげることができなかった……」


「ごめん、ミネルバ、俺がもっと早く勇者の正体に気付いてをぶち殺していれば」


「いえ、それは私も同じよ。

 あんな糞野郎を正義と信じて身代わりになった私が愚かだったわ。

 だからこそもう二度と同じ過ちは繰り返さないわよ。

 今度生まれてくる子は必ず私のこの手で大きくするわ。

 オードリーも絶対に幸せになってもらうのよ。

 ルーパス!

 グレアムほど愚直に正義を貫く男は二人といないわ。

 オードリーにはグレアムこそふさわしいのよ。

 オードリーは私と違って人を見る眼があるの。

 ちゃんと二人を心から祝ってあげなさい!」


「はい、ごめんなさい」

 

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