第20話:満身創痍

 迷いがグレアムにスキを作ってしまった。

 犀人間、ライナサラスマンの突進をまともに受けてしまった。

 吹き飛ばされ激しく壁に叩きつけられた。

 何とか受け身はとったが、そんな事でなくせるダメージではなかった。

 それでもオードリー嬢を助けるという強い想いで何とか立ち上がった。


「これくらいで諦めるわけにはいかない。

 俺を殺したいのなら首を刎ねてみろ」


 グレアムは血反吐を吐きながら啖呵を切った。

 口を切った血ではなかった。

 内臓を損傷した事による血だった。

 放置すれば致命傷になるかもしれない傷だった。

 それでもグレアムには撤退する気持ちはひとかけらも起きなかった。


「ブッウゥウウウウ」


 ライナサラスマンが怒りの雄叫びをあげて突進してきた。

 グレアムの予定通りだった。

 内臓を損傷した事はグレアムにも分かっていた。

 時間がない事を悟っていた。

 だから命を的にしてライナサラスマンを誘ったのだ。


 グレアムはライナサラスマンをギリギリで避けて首を刎ねる心算だった。

 渾身の力を込めた剣をライナサラスマンの首に叩きつけた。

 だが剣が蜘蛛の糸で切れ味を失っていた。

 剣の衝撃で突進は止まったが命は絶てなかった。

 素早く短剣をライナサラスマンの首に突き刺した。

 二度三度と突き刺して、ようやく絶命させた。


 グレアムは一階から順番に全ての部屋ドアを開けて確認した。

 クローゼットまで開けてオードリー嬢を探した。

 だからどうしても時間がかかってしまった。

 時間がかかればモンスターに襲われる回数も跳ね上がる。

 その度に戦ってモンスターを撃退した。

 自分の武器が使い物にならなくなり、落ちている鈍剣を使うような状態だった。


 屋根裏部屋のある最上階にようやくたどり着いた時、グレアムは満身創痍だった。

 激しい戦闘を重ねるほど内臓の傷が広がった。

 その度に血反吐を吐き血液を失い戦闘力が低下した。

 鋼鉄製の完全鎧を着ているので、最初は切り傷ではなく打撲ばかりだった。

 だが徐々に鎧が損傷して切り傷を受けるようになっていた。


 そんな所をスズメバチ人間、ホーネットマンに狙われた。

 五体のモンスターに囲まれ、ホーネットマンが放つ毒針を避けきれなかった。

 致命傷になるような場所は避けたが、毒に犯されてしまった。

 もう本当に時間が無くなってしまっていた。

 屋根裏部屋にオードリー嬢がいなければ、もうどこを探していいかもわからない。


 絶望と毒と貧血で意識を失いそうになったいた。

 それでも気力を振り絞って屋根裏部屋のドアを開けていった。

 そこでようやく倒れている女性を発見できた。

 公爵邸に押し入ってから初めて見る人間だった。

 期待と不安で心が一杯になったが、躊躇うことなく助け起こした。


 オードリー嬢だった。

 探し求めていたオードリー嬢をようやく見つけることができた。

 だがオードリー嬢を抱き起した事で武器を手放し大きなスキを作ってしまった。

 グレアムは、ミノタウロスの放った強烈な斬撃を背中に受けてしまった。

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