第14話:救い
オードリーは懇々と眠り続けていた。
身体は完全に癒されたはずなのに、全く目を醒ます気配がなかった。
人間の世界で起きていたくない、そんな風に見えるほど深く眠っていた。
それでも、オードリーの優しさ良心が人間の救いとなっていた。
何の罪のない人達を巻き込みたくないという想いが。
「ギャアアアアア、助けてくれ、助けてください。
ゆるしてくれ、許してください。
俺が悪かった、見て見ぬふりをしていた俺が悪かった」
結界を通ってやって来た魔獣と魔蟲が各国の王都に押し寄せた。
大賢者ルーパスの封印を破っただけなら無差別に人を殺している。
だが魔獣と魔蟲は無差別には人を襲わなかった。
市街を避けて王城だけを狙って移動していた。
それは全てオードリーの力だった。
オードリーの良心は一般市民の虐殺を嫌っている。
オードリーの恨み辛みは王侯貴族と家臣使用人だけに向けられていた。
それが無差別虐殺を回避させていた。
魔獣と魔蟲は王侯貴族を殺した喰らいたいという想いがとても強かった。
だがそれでも全ての善人を助ける事はできなかった。
王侯貴族と家臣使用人の中に善人がいれば殺されてしまうだろう。
「死ね、死ね、死ね、死ね。
俺様が魔獣ごときに殺されるモノか。
俺様を殺せるのは大魔王だけよ」
思い上がった男爵家の令息がイタチ型魔獣を斃したくらいで粋がっていた。
魔王との戦いの日々など知らない世代だった。
魔王との戦いに一度も出陣せず、領地や領民を見捨てて王都で震えていた卑怯で憶病な父親の、嘘偽りの自慢話を信じていた。
だから父親の強さから魔獣や魔蟲の強さを根本的に間違っていた。
「ギャアアアアア」
男爵家令息は山猫型の魔獣の一撃を避けられなかった。
至極あっさりと首を跳ね飛ばされていた。
だがそれは男爵家令息だけではなかった。
王宮を護るはずの騎士や徒士が次々と殺されていった。
中には前回の魔王との戦いを生き延びた古強者もいた。
だからろくに抵抗する事もできずに殺された。
それもそうだろう、彼らには支援魔術がかけられていないのだ。
治癒魔術で回復してももらえないのだ。
大賢者ルーパスの支援魔術なしで戦えるほど魔獣は弱くない。
今は亡きオードリーの母親の治癒魔術がなければ、ケガをしただけで戦闘力が激減してしまい、戦い続ける事など不可能だった。
それに大賢者ルーパスの本当の戦友は怒り狂っていた。
初めて知ったオードリーに対する王侯貴族の行いを唾棄していた。
そんな連中のために命懸けで戦う気を完全に失っていた。
だから魔獣と魔蟲が襲いかかって来た時には大切な家族を最優先した。
ここで命を捨てて戦っても、残された家族はオードリーと同じ目に遭わされるかもしれない、そう思うとまともに戦う気など沸き起こるはずもない。
彼らは早々に配備場所から脱出した。
家族を護るために家に逃げ帰った。
敵前逃亡と言われても何の痛痒も感じなかった。
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