幕間:154.5話 デレアル

 ※



「なあ~なあ~、ゼンはわしのどういう所が気に入ったのじゃ?好きになったのじゃ?」


 後部座席からアルティエールが、デレデレ甘々にとろけ切った顔で尋ねて来る。


「……俺、別にアルが好きになった、とは言ってないよね。大事な存在になった、って言っただけで」


「なんと!お主は大事な存在が、嫌いなのかや?」


「いや、好きとか嫌いかで言えば、どっちかと言うとそりゃあ、好きな方だけどさ……」


「やはりそうじゃろうなぁ!ゼンは照れやじゃからのう。時々そう逆の事を言ったりする。そんな所も、わしは好きじゃがな。ほんに、愛(う)い奴よのう」


 何を言っても無駄であった。


 本心を打ち明けてしまうには、場所が悪かったのかもしれない。


 この機神(デウス・マキナ)の狭い操縦席コクピットでは、逃げ場はどこにもない。


 一応いる二柱の神々は、


【適合値が、二人とも段々下がっておるのう……】


【やっぱりそれ、単なる好感度だろう。もう放っておけ……】


<プンプン~>


 何か二人でぶつぶつピコピコ点滅してるだけで、まるで当てにならない。不思議な擬音が聞こえるのは何だろうか。


「……まあ、ゼンがどうであろうとも、わしの三番目の妻の地位は確定じゃがな」


「え?」


「聞いておるじゃろう?わしの方が本気でゼンを好きになるなら、それを拒む事はないと、本妻達が確約してくれたのじゃ!」


 その約束が、あるのだった。


「とりあえず、ゼンには悪く思われてはおらんのじゃ。確定確定~」


 機嫌良く、アルティエールは鼻歌まじりに呟く。


「はぁ……」


 ゼンのつく溜息は深い。


 しまいにはアルティエールは、上から乗り出して、首にしがみついて来る。


「アル……。苦しいんだけど。何がしたいの?俺、死んじゃうよ……」


「おお、スマン。なら、そっちに行くか」


 と、ごそごそ上から移動して来て、ゼンの膝の上にチョコンと座る。


 小柄なアルティエールだから何とか出来たが、狭い座席が更に狭くなった。


「狭っ苦しいよ……」


「ほれ、お主は手をわしの腹にまわして動かない様に抱き締めるのじゃ」


「……これが、何になると?」


「人力安全ベルトじゃな。これでゼンのぬくもりを僅かながら感じられる」


「……俺には、僅かどころじゃないんだけど……」


 可愛らしい小さなお尻が腿に乗り、手が細く柔らかな腹部の感触を、これでもかと伝えて来る。


 だんだんと、変な気分になって来るゼンは男の子。


「……これじゃあ、操縦が出来ないだろ?戻りなよ」


「いやいや、これでわしが、ジークを操縦すれば、案外……ふぎゃっ!」


 アルティエールが操縦の為の同調点である、操縦桿のある穴に手を入れようとした途端、ビリっと電気が走ったのだ。


「どうしたの?大丈夫?」


 流石にゼンも、本気で心配になった。


「だ、大丈夫じゃ。成程、こやつ、焼餅を焼いている様じゃな。程々にしておこうかのう」


「え?誰が?」


 謎の発言をしてから、またアルティエールは同じルートで後部座席に戻って行ってのだが、その際、狭いので、アルの胸部、腹部、下半身、腿などの脚部で、ゼンの顔を、頭を擦りながら移動して行ったのだ。


 ゼンは真っ赤になって、必死でその感触を忘れようとした。


「ふう。行き来も結構大変じゃな」


「……なら、もう止めようね」


 そんな戦場?の一コマでした。








*******

オマケ


ア「ところで、ゼン」

ゼ「何?アル」

ア「お主、従魔の二人を思い留ませる為に、二人を妻に迎える約束をしたじゃろう?」

ゼ「な、なんでそれを?」

ア「ジークの操縦の為にわしとも繋がっておるから、そういう情報もチラホラ見えて来るのじゃ!」

ゼ「そ、そうなんだ。それで?」

ア「うむ。別に四番目以降が増える事に、ケチをつけよう、とする訳ではない」

ゼ「うん?」

ア「ただ、この戦いが終わった後、妻、婚約者がわしを含め、いきなり3人増える事になるのじゃなぁ、と」

ゼ「……そうなるのかな」

ア「どう本妻らにそれを説明をするのかが、面白そうじゃなあ、と思ってな」

ゼ「……」

ゼンは、いきなり倍以上になる婚約者、妻候補の事を、どう穏便に説明するかで頭を悩ませる。

本流の方では、こんな事はないんだろうなぁ、と他を羨んで。案外、それ程変わりないかもしれない事を、こちらのゼンは知らない……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る