身体的不調ではなく、精神的不調。

 家を一歩出れば、視線におびえる毎日。誰も見ていなくても、誰かが見ているのではないか。僕はいつしか見えない視線、在りもしない視線にびくびくするようになっていった。口元の右側にアザがあるから、右側が見えないように、意識しながら生活していた。歩道を歩くときも、いつも決まって右側を歩いた。電車に乗るときも、壁側に移動して右側が見えないように、壁を右にしてそれとなく違和感のないように寄りかかっていた。


 食欲もなくなり、一回の食事に二時間も三時間もかけていた。身体もやせ細っていき、家族や友達からも心配された。でも僕にはどうすることもできなかった。憎悪や劣等感が日に日に増していた。この社会、この世界の全てが敵だった。


 そんな中、中学の同級生の女の子と食事をすることになった。お互いお金もないから場所は牛丼屋に決まった。彼女とは他愛もない話から近況報告までいろいろ話をした。しゃべりながら、箸をゆっくりと動かしながら口へと運んでいた。僕は身体動作までも遅くなっていた。その日は食べるのに2時間。これでも相手を待たせないようにと急いで食べた。


 彼女「全然時間あるから、ゆっくりで大丈夫だよ。」


 彼女とは夜に一週間の頻度で、この牛丼屋で定期的に会うことになった。今思えば、彼女なりに僕を心配してくれて、なんとか力になろうと寄り添ってくれたのだろう。彼女との時間は僕にとって、とても心地のいいものだった。


 それから一ヵ月くらい経ってからだろうか。いつものように牛丼を食べながら他愛もない話をしていた。すると、彼女はおもむろに話を切り出した。


 「たぶんなんだけど。私もいろいろ調べたんだよね。そういっちゃん(僕)、精神疾患か何かだと思う。鬱とか。断定はできないけど、一回精神科に行って診察してもらったほうがいいと思う。病院も調べてきてて紹介できるんだけど、どうかな?」


 突然のことで戸惑った。でも話を聴いている内に、もしかしたらという懸念が生まれた。次の日、すぐに紹介された病院に連絡を入れて予約を取った。初診では医者にまだわからないと言われた。ただ、精神に何らかの不調をきたしていて、それが病気的なものであることはほぼ間違いないと言われた。知らず知らずのうちに、僕の心は壊れていた。


 一か月後、統合失調症という診断名がつけられた。

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