野兎転生~無気力兎が行く異世界攻略。転生したくなかったけどもう遅い。とりあえず優しくてお金持ちなご主人様に飼われて悠々自適な兎生を送りたい~

@DayDreamRabbit

第1話 転生


「うぅ……」




そこは白く歪な空間。


朧げな視界を目で擦りながら私は目覚める。




ある程度擦ると視界も澄んできて……




「うん、わからない」




思わず言葉に出てしまう。


だってわからないのだ。


どこを見渡しても白く透き通った清潔な空間。


この世のものと思えないほど澄んでいて奇麗で……。


息をする空気さえとても美味しい。




「……だる。私なにしてたんだっけ」




自分が何でここにいるのか、どうやってここに来たのか必死で頭を動かしてみるけれど。




「うぅ、わからん」




ごろん、と横たわる。


どうして私がこんなところにいるのかわからない、ほんとにわからない。




拉致?誘拐?




だとしても閉じ込められるならもっと薄汚い空間だろう。




うんうんうん、と寝転がりながら唸っていると




どすん、と私の足元の方向から音がした。


それは、どすん、どすん、とどんどんと近づいてくるようで。




「うぅ……いったいな、に……」




だるい身体に鞭打って。起き上がらせて視線を向けた其処に居たのは。




『目覚めたか、稲葉兎子よ』




「うわ……でっか……」




でっかい兎。


普通の兎の何十倍もあるモフモフの兎が、私の名前を呼びながら。


その真っ赤な瞳で見下ろしていた。




その瞳の上。


でっかい兎の頭の上にちっちゃな茶色い兎。




「あ……」




その子を見て私が思い出したと同時に。


再びでっかい兎は口を紡いだ。




『我は兎神。告げる。稲葉白子よ。貴殿は死んだ。我が愛し子の命を助け、貴殿の尊い命を散らした。貴殿の行いに感謝する』




兎神様に衝撃の事実を告げられる私。


そっか。私は死んだんだった。




――――――――――――――――――――――――




私、稲葉白子を語るのに難しい言葉なんていらない。


わたしを知ってる誰からも、私はこう紹介される。




ものぐさで、無気力なダメ人間。




訂正しようとも思わない。真実なんだから。




何をするにもめんどうくさくて、何をするのも億劫で。


なるべく最小限で物事を済ませて。




省エネ。なんて好意的な言い方をしてくれる人もいればダメ人間と酷い言い方をしてくる人もいる。




そんな、無気力な私がした最後の善行。




思い出した。


でっかい兎の上に載ってる茶色い兎を。


ものぐさでダメ人間な私が気まぐれで、轢かれそうになっていたその子を助けたんだ。




その結果、私が代わりに死んだみたいだけどね。




「って、なにじゃあその子もここにいるってことは死んでるの?私死に損?だる……」




なにさ。


最後にした善行が無い遂げられてないとかショックだよ……別にいいけどさ。




『否。愛し子は死んでおらぬ。ただ貴殿に礼が言いたいと申す故、ここに一度招き入れただけに過ぎぬ』




私の言葉にでっかい兎は首を振りながら呟く。


助かってたんだ。ふーん、よかった。




安堵のため息と同時に、茶色い兎が私目掛けて飛び降りてきたのでキャッチ。


モフモフがモフモフしてる。




うん、良いかもしれない。


生きることが嫌じゃなかったけど、わりかしだるかったのも事実。


惰性で生きてるってやつ。




ほら、歳取ってくと受験に就職に結婚に子育てに……わりとめんどい行事いっぱいあるし


好きなことだけして生きていくなんてできないし。




私はここでこのかわいい子をモフモフしながら魂が浄化されて終わるのが最高の終わり方なのかもしれない。


ありがとう、とでも言いたいのかペロペロと私の指を舐める。愛い奴め。




少したって、モフモフお礼を十分に堪能した私は、もう十分だと、その意味を込めた瞳を兎神様に向けて。


目があった兎神様もこくん、と頷いた。


あぁ、享年17歳。


稲葉白子は消えます。お父さんお母さん、ダメ人間な娘でごめんなさい。


私は先に人生を終えます。天国でぐーたらします。


私は目を瞑って、きっと私の身体は段々と泡沫に……。




『貴殿の行いに我は感動した。故に、ギフトを授け、神の愛し子として貴殿を異世界へと生き返らせよう』




「うぇ?」




変な声が出た、と同時に、私の身体が光り輝いた。


この場所から消えるは消えるけど、これ意味合い違うよね!?




「ちょ、まって兎神様!?」




『貴殿のような心優しき少女。近く見ておらぬ。感動した。我の権能が許す限りの祝福を貴殿に』




「祝福よりも私天国に行きた……」




私の必死の懇願は空しく、光の粒子に代わる私の身体じゃ声も発せなくなって。


最後にペロリ、と茶色い兎ちゃんのベロの感触だけが私の思考を埋め尽くした。




――――


―――


――





「うぅ……」




再び私は目覚める。


今度はあの空間ではないようで、木々のざわめきや何かの匂いが鼻をつく。




「ここ、どこ……」




目がよく見えない。


私は、モフモフの前足で目を……




「もふもふ?」




前足を見た、


私の立派なモフモフの前足を。




脱兎のごとく。


一気に覚醒した頭と視界で、傍にあった池を見つけた私は駆け寄って水面を覗き見た。




「あぁ……」




そこに写っているのは可愛らしい兎ちゃん。


雪毛のような真っ白もふもふに真っ赤なくりくりおめめ……うん、私です。




「だっる……」




兎転生とか、人間よりもハードじゃない?






―――――――――――――――――――――




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