第17話
ずっと見られるのって疲れる。
自分が本物のアニスではないから余計に。
それにドラゴンが侵入した日を境にリュウとディランの視線や言動が妙だ。まるで何かを探っているかのようだ。
私が偽物だって疑っているのだろうか?
今まで以上に気が抜けない。因みに今日の護衛はディランだ。彼の鋭い視線がビシビシと背中に突き刺さる。
「お隣、いいかしら?」
聖女の威光にあやかりたい連中ばかりに囲まれたアニス。
偽物にすげ代わり、一切会話に加わって来なくなってもあまり気にしない彼女たち以外、私に話しかけて来る人はいない。
けれど、今聞こえてきた声の主は取り巻きではない。
毛先が丸まった赤毛の髪に金色の目をした女子生徒
「どうぞ」
「ありがとう。初めましてね。私はブランジァン・ロドリーよ。よろしくね、聖女アニス」
親し気に話しかけるブランジァンにアニスの取り巻きたちは出方を伺う姿勢になっていた。
ブランジァン・ロドリー侯爵令嬢。
ガイオンのはとこにあたる女性であり、現在は最終学年生だからアニスの先輩にあたる。
「初めまして、ロドリー先輩。アニス・アドリスです。どうぞ、アニスとお呼びください」
私の言葉にブランジァンは笑みを深めた。けれど、目の奥は全く笑っていない。私という存在を見極めようとしている。
「ありがとう。私のこともブランジァンと呼んでね」
「はい、ブランジァン先輩」
「爵位はあなたの方が上なのに敬語を使うのね」
「ここは学校です。そしてあなたは私の先輩にあたるので」
「いい心がけね」
ブランジァンの言葉にアニスの取り巻きたちが殺気立つ。アニスを貶されたと思ったのだろう。別にアニスの為に怒ったわけではない。
彼女たちにとってのアニスは装飾品と同じ。
貴族の令嬢が身に着ける装飾品やドレスは権力の象徴。上質なものであるほど財力があると周囲に知らしめる。見栄の為の道具。
アニスを貶すということは自分たちを貶すということだ。
ブランジァンはアニスの取り巻きの様子に気づき、声を潜めることもなく言った。「付き合う友達は選んだ方が良い」と。
アニスの取り巻きたちは怒りに体を震わせたが自分たちよりも地位の高いブランジァンに逆らうことができないので黙って耐える。
その代わり目で私に何とかしろ、言い返せと訴えてくる。
公爵令嬢であり聖女である私だけがブランジァンを諫めることができるからだ。私はその視線を無視した。
本物のアニスならここで激怒するだろう。私もアニスである以上はそうすべきなのだ。でも王と繋がりのある彼女を敵に回すのは得策ではない。
私はブランジァンの忠告に何も答えず、笑みを返した。
ブランジァンも返答を期待していたわけではないようだ。すぐに別の話題へ切り替えた。
「生徒を守る為にドラゴンと戦ったそうね。とても勇敢だわ」
この人は私のどんな反応を期待しているのだろう。
「そんなことありませんわ」
「ご謙遜を。陛下の褒美も両親に任せ、自分は何も望まなかったと聞いたわ。少し前までのあなたならあり得ないわよね。一体、何があなたをそこまで変えたのかしら」
揺さぶりをかけてきた。
誰の指示?リュウ?ディラン?まさか陛下ってことはないわよね。それとも彼女の独断?
どうする?どう返す?
間違えば命はない。陛下が許してもアドニス公爵家が許さない。
落ち着いて。私が偽物だという証拠はないわ。大丈夫。上手く切り抜けて見せる。
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