第32話
「るーくぅん。一緒にご飯を食べましょう」
お昼休み、ライラは獣人の一人の腕に抱き着く。
貴族の令嬢ではあり得ないことだ。常識のある令嬢や令息は眉を顰め、貴族らしい令嬢はここぞとばかりに攻撃をしてくる。主に、私に。
「アドラー伯爵家では随分と独特な礼儀作法を教えているんですわね。淑女が殿方の腕に抱き着くなど我が家では考えられませんわ」
「さすがはセイレーン様の妹君ですわね。男を惑わす方法に長けていらっしゃる」
くすりと嘲笑を浮かべて令嬢が私を見下す。扇で顔の半分は隠しているけどそれでも性根の醜さまでは隠せないようだ。扇の下にある醜い顔が想像できる。
きっとルルーシュと仲が良いことやディアモンの婚約者だったことを含めて言っているのだろう。
「ご自分がモテないからって僻まないでください」
「何ですって!」
すぐに声を荒げる。彼女のマナーも人のことは言えないと思う。
「おい、ちょっといいか」
令嬢たちに気をとられてライラとその取り巻きが近づいたことに気づかなかった。
あんな騒ぎを起こした後でも自分の味方を作ることのできたライラには素直に称賛する。ただ、その取り巻きはディアモンとミアのことで私を毛嫌いしていた下級貴族の獣人だけど。
「お前、ライラのことを虐めているらしいな」
「運命の番であるディアモンとミアを引き裂く性悪女だけあるな。妹を虐めるなんて」
「言いがかりは止してください」
「事実を述べたまでだ」
事実?私はその言葉がおかしくて仕方がなかった。
彼は事実という言葉の意味を理解しているのだろうか。
「では証拠を見せてください。一方だけの証言を信じて、事実など愚かにも程があります」
「あなたのような方にも分かるように言って差し上げよう。虐めはなぁ、相手が虐められていると感じた時点で虐めになるんだよ」
手を腰に当て、威張るように言う狐の獣人。周囲の呆れた表情が目に入らないのだろうか。私に突っかかっていた令嬢たちですら冷笑している。
彼女たちは身分を重んじるので下位の者が上位の者を軽んじるような態度のが気に食わないというのが前面に出ている。
「私がそのような言動をとった証拠がありますか?」
「ふん。そんなものあるわけないだろ」
威張って言うことではない。
「お姉様は私が気に入らないのよね。私が特別だから」
「あなたは特別でも何でもないわ」
私の言葉にライラは眉間に皴を寄せる。
「いいえ!私は特別です」
食堂に響き渡るような顔で言い切ったライラに頭大丈夫か?という視線が向けられている。
「平民からいきなり貴族になったからそんなふうに感じるのね」
「幾ら伯爵家の娘になれたからって、母親が平民ならその地位はかなり低いだろう」
「そうね。伯爵家っての王族と婚姻を結べる地位にはなるけど母親が平民の彼女は同じアドラー伯爵家の者でもまず無理だものね」
周囲の嘲笑にライラは目に涙を浮かべて体をプルプル震わせる。
「酷いわ。お母様が貴族じゃないからって差別するなんて」
きっと私を睨みつける。まるで虐められながらも「負けない」と叫ぶヒロインのように。
「こんな差別は間違ってる!私はお姉様やあなた達ほどちゃんとした血筋ではないかもしれないけど、それでも私には精霊の血が流れているのよ。ただの平民とは違うわ」
そう言ってライラは泣きながら食堂を出て行った。その後を取り巻きたちが追っていく。私を睨むのは忘れない。
「何だか、ごめんなさいね」
「いいえ」
さっきまで私に突っかかっていた令嬢たちが可哀そうな顔で私を見る。あんな妹を持った私に本気で同情しているようだ。それはそれでいたたまれない。
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