皇国の大祭 楽しいお買い物

 いつも、中央の大広場にはけっこうな商店屋台が広がっている。


 今日は大祭で、その数が凄く増えているけれども、活気はものすごいけれど、それ自体は店の屋台からも見ていたし、割と普通だと思っていた。

 でも…


「うわあっ! 凄い!」


 私は思わず声を上げ目を瞬かせてしまう。

 城壁の壁を利用した屋台がずらりと、軒を連ねているのだ。

 屋根の布も赤、黄色、緑、朱色と様々でまるで花が咲いたよう。


「これはスゴイですね」

「これ、全部店か?」

「移動商人の店がここに並んでるのか? 見たことない物ばっかだ」


 フェイもリオンもアルも、どこか興奮気味だ。

 中央の大広場は、どうやらアルケディウスの商人達が出している店が多いらしい。


 アルケディウスは木の国。

 木材が豊富で、それを材料とする木工細工と、薪として利用する鉄工業などが主産業らしい。

 国そのものが世界全体では北の方で、木材以外の成長はあんまり芳しくないとか。 

 だから、ナイフやハサミなどの日用雑貨。

 鉄や、錫、銅で作られた工芸品、民芸品などの店が中央広場には並んでいた。


 繊細な、木に彫刻が施されたカップ。

 白樺っぽい艶のある木の皮で編んだ籠。

 鉄や錫のマグカップなど、目移りするくらいだったのだけれども、城壁沿いの店はまったく趣向が違っていた。


 ダーっと並ぶ店全てが日用雑貨や衣料品の店。

 これから夏になるからそれでも少ないようだけれども、みっちりと織られた毛織物の絨毯の店。

 手織りの赤や、青の美しい布がまるで波のように屋台の梁から梁へと渡されている店。

 色とりどりのスカーフが旗のように張り巡らされている店など、見ているだけで飽きない。ディスプレイにも工夫が凝らされている。

 帽子の店、手袋の店、マントの店などもたくさんある。


 衣料だけではなく各国から祭りの為にやってきたらしい移動商人が持ってきた品物は、本当に様々で目移りするほどだ。


 ガラス瓶や、ガラス細工を売っていたのは隣国、水の国フリュッスカイトの商人。

 ガラス瓶は一つにつき、銀貨1枚するけれど、取り寄せるより断然安いなあ。

後で買いに来よう、と思ったりもした。

 置物や飾り物のガラス細工。

 ガラスの器も見事なものだ。お高くて手が出ないけれど。


 地の国 エルディランドは生き物の育成が盛んなのか、蝋燭や牛の角などの細工ものが多い印象だ。

 蜜蝋燭に絵を描いたり、角の彫刻のアクセサリーとかが売られている。

 けっこう民芸品はレベルが高いと思う。

 現代でも通じる細かい技は匠の技と言えそうだ。



「さあさあ、いらっしゃい、いらっしゃい。アーヴェントルクの毛織物だよ」

「シュトルムスルフトのスカーフ。色の美しさは他には無いぜ。そこの嬢ちゃん。一枚どうだい?」


 屋台商人の呼びかけに私は、ふと、足を止めた。

 薄手だけれども、赤青、緑に黄色と色鮮やかで、しかも綺麗な手書きで絵が描かれている。

 もっと高価なものは、精緻な刺繍ものもあるみたいだけど私に差し出されたのは少し量産品っぽいもの。


「アーヴェントルクって隣の夜の国、だよね?」

「シュトルムスルフトは風国だよ。染色が盛んだ。これは、祭りの為に持ってきた最新作だぜ」

 ふわり、と私の頭に商人は白い、スカーフを乗せる。

 白地に、薄い水色がかかった白、花をモチーフにした絵が描かれている。


「うわ~、これキレイ~~」


 思わず吐息が零れる。

 いかにもヨーロッパの手の込んだ民芸品、といった感じだ。


「似合いますね。マリカ。

 マリカの髪は黒いから、明るい白系が映えるようです」

 素直にフェイは褒めてくれるけれど、リオンは無言。

 アルに至っては

「大人のマリカだったら似合うかもな」

 と来たもんだ。

 むー。


「どうだい? 1枚高額銅貨1枚だが…」

「欲しいなあ、買っちゃおうかな?」

 

 買ったところで使いこなせる訳ではないのだが、なんとなく欲しくなってしまうのが祭りの魔力。

 私が財布を出しかけたところで。

「おやじ。それを貰う」

「へい、まいど」

 伸びた手が、スッと私の財布を押さえた。


「リオン…。悪いよ。私のなんだから自分で払う」


 スカーフを買ってくれたらしいリオンに、私は首を横に振るけれど。

「まだ祭りは始まったばかりなんだから、お金は大事にしとけ。

 どうせ、城の皆におみやげ~って始まるだろう?」

 リオンはさっさと店主にお金を支払ってしまう。


「でも…」 

「こういう時は素直に受け取っておいていいと思いますよ」


 どこか生暖かく笑うフェイの言葉に頷いて、私は好意に甘える事にした。


「………うん、ありがとうリオン。大事にするね」

「ああ」

 

 買って貰ったスカーフはとりあえずブラウスの首元に捲く。


 なんだか、リオンに背中から守られているような嬉しいような、気恥ずかしいような不思議な気分になった。


 と、同時。

 私達はまだまだ、世界の地理とか、情勢とかも知らないんだなあ、と実感する。

 他国どころか、この国の一般生活の事もよく解らない。

 大祭は始まったばかり。

 祭り見物という名の勉強を私達は続けることにする。


 まあ、遊んでいるともいうのだけれど

 

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