第一部 第六話 無能な青年と無情な姫 その6

 宗次郎が振り向いた先には一人の少女が立っている。


 鮮やかな銀色の髪をした、美しい少女だ。その場に佇んでいるだけで、大輪の花のように艶やかで、それでいて常人を寄せ付けない知性と品性を兼ね備えていた。身につけている漆黒の羽織は銀の軽鎧をより鮮やかにし、腰につけた波動刀は芸術品のような装飾が施されていた。


「燈様!」


「第二王女殿下! 申し訳ありません!」


 烏たちが血相を変えて少女の前に移動し、平伏する。


 皇燈。女こそがこの大陸を治める王族の一人。冷血の雪姫と呼ばれ、人々から畏怖される第二王女だった。


 宗次郎は目の前にいる少女の美しさに、呼吸を忘れた。門の話は大げさな噂話だと思っていたが、それ以上だ。


 冷めた目をしながら、燈はため息をついた。


「何をしているの、と聞いたはずよ」


「はっ! 刀預神社を警備していたところ、この者たちが……」


「ふうん」


 烏の報告を聞き、少女が初めて宗次郎たちを見据える。


 大きく見開かれた、凛とした、青く輝く双眸そうぼう


 その重圧に耐えきれず、門は体の動きが止まる。第二王女が目の前にいる、というあまりの事態に思考回路は完全に止まっていた。


「あなたたちがなぜここにいるのか知らないけれど」


 燈が腰まで届く長い髪をなびかせて告げる。


 金縛りにあったように、燈以外全員の体が動かなくなる。


 燈の言葉はまさしく、人々を意のままに動かす王の言葉だった。


「私の邪魔をするのなら、踏み潰すわよ」


「申し訳ありません!」


 門は頭を地面に擦り付け、謝罪した。


 燈は門の様子を見て満足げに微笑んだ。


「……」


 宗次郎は見ほれていた。言葉を発することすらできない。目は点になり、口は半開きになり、呼吸は完全に止まっていた。あまりにも美しいからという理由なら燈も納得するが、そうではなかった。


 知っている。


 自分はこの少女を知っている。


 記憶はない。思い出せていない。


 なのに確信した。


「ぐっ」


 何かを思い出せそうになった途端、頭痛が宗次郎を襲う。


「あなた……」


 あまりの痛みにうずくまる宗次郎を見ながら、何かに気づいたように呟く第二王女が駆け寄ろうとした瞬間、


 ドン、と。


 爆音とともに、御神体を祀る本殿から閃光が煌めいた。

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