第2話 罰ゲーム
「後、2週間でゴールデンウイークか……」
4月中旬。俺――
この学校に入って2度目のゴールデンウイーク。その長期休日を共に過ごしてくれる友達など誰1人としていない俺としては、正直楽しくもなんともない。それは学校生活にも言える事だけど。
でも別にこの現状が不満って訳じゃない。他者という存在は非常に面倒くさい。まず第一に何を考えているのか分からない。表面上は笑っていても心の中では相手を平気で見下し馬鹿にしていたりする。それを俺は煩わしいと感じるから他者とは一定の距離を保つようにしている。
本当なら誰とも関わらないようにするのが1番良い。でも学校というのは嫌でも他者と関わらなくては行けない時がある。それは授業中に隣の席同士で答え合わせをする時や、担任の教師に何かしらの用事で呼び出されたりなど様々だ。
なら高校になんて通わず引き籠り(ニート)でもすれば良いって思うだろう。でもそれは出来ない。そんな事をしたら親に迷惑を掛けるからだ。ただでさえ迷惑を掛けているってのに……。俺が憂鬱な気分になりかけた瞬間
「「――アハハハッ」」
聞いてて嫌な気分になる高笑い――それも2人分の声がこれから俺が入ろうとしてる教室から聞こえてきた。俺はまだ誰も来てないと思い込んでいたから少し驚く。一体誰だよ……。俺はそう思いながら扉窓から中を覗き込む。すると中に見覚えのある3人の女子生徒がいた。
「奈津の負け〜」
黒髪の一部分に赤のメッシュを入れている女子が、楽しそうに騒ぐ。
「じゃあじゃあ罰ゲーム何にしよう〜?」
赤のメッシュを入れた女子の言葉にこれまた楽しそうに反応する金髪の女子。よく見たら彼女達の囲んでる机の上に大量のトランプが置かれていた。
「あ〜、そういうことか……」
俺はその光景を見て小声で納得の声を上げる。彼女達は罰ゲームを掛けてトランプで遊んでいたんだろう。おそらく今も1枚のカードを握りしめているオレンジ色の髪の女子が負けた……種目はババ抜きか?
とにかく、それであの2人は罰ゲームの内容を何にするかオレンジ色の髪の女子を放置した状態で盛り上がっている。罰ゲームを課せられる事になるオレンジ色の髪の女子はどこか遠くを見るような目で自身の握りしめているカードを眺めていた。
俺は彼女達の事を知っている。というか同じクラスなのだから知っていて当然なのだが、彼女達は校内ではかなりの人気者だ。さっき説明した髪色から分かる通り彼女達はギャルという人種だ。
ギャル……いつでも明るく騒ぎ立てる存在。いつも何が楽しくて笑ってるのか神経を疑いたくなる。「バエ〜〜〜ッッッ」ってなんだよ、バエって!?
「あっ、イイコト思い付いた〜〜っっ」
俺がそんな事を思っていると赤のメッシュを入れた女子――
彼女の容姿は150cm台の小柄で顔立ちが整っている。遠目から見ても可愛らしくて大抵の男子は守ってやりたいと思うのだろうなと思う。それに加えあのショートカットの黒髪の一房に入っている赤のメッシュ……、あれが一部の女子の間ではワイルドでカッコいいと受けていたりする。俺は今度は木下聖羅に目を移す。
木下聖羅……、こちらも顔立ちが整っていて美形さんだ。身長は確か160の中盤辺りだったか? 彼女は容姿も優れているばかりか生徒だけでなく教師からも好意的に見られている。
その理由はこの校内のギャルの中で最も聞き分けが良いからと言う事らしい。まぁそれだけじゃなく木下は人付き合いが上手い。それもまた彼女の人気に拍車を掛けているのだろう。
「あ〜。それいいじゃん、そうしようよっ」
井上からの耳打ちを受けた木下が嬉々とした態度で手をバタバタさせながら言う。木下はテンションが上がると何故かいつも手をバタバタさせている。
「なら罰ゲームの内容はそれで決まり〜っっ」
そう言って井上はさっきから1枚のカードを片手で握りしめたまま固まっているオレンジ色の髪の女子――
「奈津っ、アンタは誰かと1か月誰かと付き合ってもらうわ〜っ」
ほう……。つまり嘘の告白をするって訳か。そりゃ彼女に嘘とはいえ告白されて喜ばない奴は居ないだろうな。俺はそんな事を思いながら井上が指を差している女子へと目を向ける。
久川奈津……、ここまで紹介した2人と最も仲のいい存在……いや、3人で1グループみたいなものだからリーダーと言ったほうが良いのかも知れない。
彼女は身長は俺より少し低めの160の後半。先に紹介した2人と同じく顔立ちが整っている。2人が目バッチリ二重に対し彼女は細目が特徴の一重だ。そのせいか彼女は年齢の割に落ち着いて見える。周りの女子や男子も久川奈津はクール系だと噂されている。実際彼女はあまり人と話してる姿を見た事がない。
久川奈津は他人に対し一歩引いてるような感じがする。それは俺も全く同じなのだけど。
「……は?」
久川は井上に言われた言葉に対し数秒遅れて反応する。言ってる意味が良く分からないらしい。
「だから、これから誰かと1か月付き合うのっ」
「……誰が?」
久川がキョトンとした顔で尋ねる。いつもそうだが彼女の声は常に感情を感じさせない無機質な声が教室に響く。
「なっつんがだよ〜」
その問いかけに対しイジワルな笑みを浮かべながら答える木下が答える。その答えに久川は尚もキョトンとした顔を続ける。
「……誰と付き合うの?」
その問いかけに井上と木下は無言になる。
「そうね。それは考えてなかった……どうする香那〜?」
「ん~そうだなー」
井上と木下の困ったような声を聞いた瞬間、これ以上聞いていてもしょうがないと判断し俺は教室から目を離し元来た道を引き返す。まさかたかがトランプのババ抜きで負けたくらいで嘘の告白とか……やらされる方もその告白を受ける方も大変だな。
でも少し興味がある。いや、その嘘告白の相手に選ばれる人じゃなくて告白をする方……久川にだ。彼女は校内では表情1つ変えない事で有名だ。そんな彼女が告白をする時どんな顔をするのか。あーでも嘘告白だから緊張なんかしないか。
それに俺には関係ない。俺はクラスでは常に目立たない陰キャ。対して彼女達はどこにいても目立つ陽キャだ。人種が違うのだから関わる事なんて学校生活では同じクラスになる事はあっても関わりを持つ事は一生無いだろう。俺はそう思いながら朝学活が始まるまでどこかで時間を潰すために廊下を歩く――。
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