バレンタイン番外Ⅳ 二人きりになるための嘘

 時は過ぎて行き、気が付けば放課後。


 クソォ、チョコもらえなかったぁぁぁぁ! と泣き叫ぶ柊也に別れを告げた後、夜は二次元部の部室へと向かっていた。


 柊也は折角のバレンタインデーだってのに部活あんのかよ……と呆れていたが、チョコをもらえなかった柊也がバレンタインデーを理由にするのは何というか……ただただ空しいというか可哀そうなだけだった。


 だからと言って、夜が柊也に出来ることなどないので、嘆く柊也をただ見ているだけだったのだが。


 だって、声を掛けたら掛けたで勝ち組がうるせぇんだよ! と逆切れしてくるのだ。一体、どうすればいいのか。


 とまぁ、そんなことはさておき。夜が部室の扉を開けると、すでにあかりと夏希、梨花と瑠璃の姿があった。どうやら、夜が一番最後のようである。別に競争とかはしていないのだが。


「遅いよナイト! 早くゲームしよ?」

「ダメだよ夏希クン。さっき言ったでしょ?」


 瑠璃にダメ出しされ、え~と落胆する夏希。


「何かあったんですか?」

「理事長に呼び出されててね、夜クンも一緒に来てほしいんだよ」


 どうやら、二次元部についての話があると慎二に呼び出されたらしく、副部長の夜にも付いてきてほしいとのことだった。


 まぁ、正直な話、部長瑠璃一人だけでもいいような気がするが、理事長である慎二は梨花の父親なので、プライベートでも多少のかかわりがある夜がいた方が話しやすいのだろう。


 夜に断る理由はないし、部活のことについてなら無関係とも言えないので、夜は瑠璃に続いて部室を後にした。


「……梨花さん、理事長から何か聞いてたりしますか?」

「何も言ってなかったけど……何か気になることでもあるの? あかりちゃん」

「……いえ、なんでもないです」




 部室を出てから数分ほど経ったくらい。徐に瑠璃が立ち止まった。


「……瑠璃先輩? どうしたんですか?」


 呼び出されたのなら、なるべく早く行った方がいいだろう。どれだけ些細な用事であろうと、どれだけ重要な用事であろうと、その心構え自体は変わらないだろう。


 それなのに、急に立ち止まった瑠璃に夜は首を傾げる。


 夜が瑠璃に立ち止まった真意を聞こうとすると。


「……ごめんね、夜クン」


 唐突に、振り返った瑠璃がごめんなさいと頭を下げた。


「い、いきなり何を謝ってるんですか、瑠璃先輩」

「……理事長に呼び出されたって言ったでしょ……?」

「言ったも何も、ここまで来たのもそれが理由ですよね?」


 夜と瑠璃が部室を後にして廊下を歩いているのも、理事長室に行くためなのだ。


 どうして、今その話を……と考えたところで、一つの憶測に辿り着く。


 すなわち。


「もしかして、理事長に呼び出されたのは……」

「……うん、嘘なの。軽蔑した?」


 瑠璃の問いに、夜は首を横に振る。


 生きていて、嘘を吐いたことのない人間なんていないだろう。


 夜だって、何度も嘘を吐いてきたし、今も吐き続けている。それなのに、嘘を吐かれたからといって軽蔑なんて出来るわけがない。


 だけど。


「でも、どうしてそんな嘘を吐いたんですか?」

「……夜クンと、二人きりになりたかったんだ。みんなのいる前じゃ渡しづらいしね」


 そういって、瑠璃は可愛らしく包装された小さな箱を夜へと手渡す。


「今日ってバレンタインでしょ? だから、夜クンにチョコレートと思って……受け取ってもらえますか?」

「当り前じゃないですか。ありがとうございます、瑠璃先輩」


 夜が受け取ったのを確認すると、瑠璃は笑みを浮かべ。


「明日、感想聞かせてくれると嬉しいな。それじゃあ、戻ろっか」

「そうですね……」


 足早に部室へ戻る瑠璃の背中を、夜は追いかける。


 それ故に、夜は気づくことが出来ない。


 羞恥心のあまり、瑠璃の顔がまるでバラのように真っ赤に染まっていたことに。




~あとがき~

 ども、詩和です。いつもお読みいただきありがとうございます。

 さて、四話目(最終話)は瑠璃でした。夜の呼び方が瑠璃先輩呼びなので、一応三章が終わった後の世界線ですね。ぶっちゃけ、どうでもいいんですけれども。

 みなさまはどんなバレンタインを過ごしたのか、触れると怖いので何も言いませんが、詩和がもらったチョコレートはゼロ個です。……別にいいもん、チョコレートあまり好きじゃないもん(ただの強がり)。

 そんなわけで、次回の番外編がいつになるかはわかりませんが、また会えることを願って。

 それでは次回お会いしましょう。ではまた。


ps.いつか、改稿前のバレンタイン番外とかもお見せ出来たらいいなーとか思ったり思わなかったり。

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