幼馴染だった妻と一緒に高校時代にタイムリープしたんだがどうして過去に戻ってきたのか理由が分からない。そして高校生の妻がエロい。

kattern

プロローグ

第1話 見た目が高校生で中身が人妻な僕の妻がエロい

 その朝は起きた時から何か違和感があったんだ。

 いつもならスマホのアラームが鳴る六時ちょっと前に、ピタリと目が覚める僕なんだけれど、その日はけたたましい音と共に目を覚ましたんだ。

 それもいつものアラームじゃない、ジリジリという音だった。


「……あれ? アラームがいつもと違う?」


 その音が発生している元を探して手を布団の上で滑らせる。

 けど、いつもなら頭の横に転がっているスマホがどこにもない。

 どれだけ探しても、枕の反対側に手を伸ばしても、布団の中をまさぐってみても、僕のスマホが出てこない。


 どうしたんだろう。

 この音といい、何かがおかしい。

 あるいは千帆が僕にいたずらをしたのだろうか。あのいたずら奥様は、結婚してかれこれ五年になるというのに、未だにこういうことを仕掛けてくるからなぁ。


 まぁ、そういうところが、夫婦円満の秘訣だったりするのかもしれないけれど。


「ちょっと千帆。変な悪戯は朝からやめてくれよ」


 そう言って目を開ける。すると、妙に床が近い。なんでか床が近い。頭の向こうに青々とした畳の目が見えて、僕はぎょっとして目を見開いた。


 和室だ。なんでか分からないけれど、僕は和室で寝ている。

 天井も板張りだ。フローリングじゃない。


 おかしい。僕と千帆がいつも寝起きしている寝室は、洋室六畳のフローリング。キングサイズのベッドを置いて、天井は真新しいシートが貼ってある。お安い築四十年超え、郊外UR物件を借りてDIYした張本人が言うんだから間違いない。


 そして僕たちが借りた部屋には和室がない。

 どこだ、僕はどこで寝ているんだ。


 慌てて僕は眼鏡を探す。スマホと一緒に、いつもなら枕の横に置いてあるそれが、これまたどうしても見つからない。バカなどうして、なんて思っていると、妙に辺りがはっきり見えるのに気がついた。

 これはもしや、うっかりと眼鏡を付けたまま寝たのだろうか。


「え、それじゃ僕、もしかして外に泊まったってこと? 酔い潰れて誰かの家に泊めて貰ったってこと? いやけど、別に飲みの予定なんてなかったはず?」


 自問自答しながら眼鏡を拭こうと鼻先に手を伸ばす。しかし、それがまたしても空を切って僕は唖然とした。鼻の先にあるはずの、眼鏡を掴み損ねて僕は固まった。

 というか、ない。あきらかに鼻の上に眼鏡がない。眼鏡を僕はかけていない。

 なのにどうして、こんなにはっきりと景色が見えるんだ。


 おかしい。

 大学に入ってから、一気に視力が落ちた僕にとって眼鏡は生活必需品。

 なのに、かけないでこんなに見えるなんておかしい。


 そう、目がよかった高校生までならいざ知らず――。


「え? いや、ちょっと待って? ここって?」


 そんなことを思ったとき、またしても僕はあることに気がつく。そう、僕が今寝ている部屋に、僕は見覚えがあったのだ。確かに、僕たちが今寝起きしている場所とは違う。けれども、僕は昔、この部屋で寝起きしていたことがある。


 使い込まれた木製の学習机。

 畳を傷つけないようにローラーのついていないガス圧椅子。

 漫画で埋め尽くされた本棚。

 高校の制服がかけられた窓際の壁。

 そして『Fate/Stay night』2007年のカレンダー。


「嘘だろ!」


 思わず叫んで立ち上がったけれどここは間違いない。

 僕が寝ていたその場所は、かつて僕が高校までの時間を過ごした場所。

 実家の僕の部屋に間違いなかった。


「ちょっと待って、僕、実家に帰ったってこと? けど、僕の部屋って、今は物置になっていて、誰も使ってないはずじゃ? というか、2007年のカレンダーって?」


 けど、おかしい。なんだかつじつまが合わない。

 僕が最後に入った実家にある僕の部屋とこの光景は一致しないのだ。


 これは違う、物置という感じじゃない。あきらかにそうなる前の僕の部屋。それも、今まさに使われている感じだ。


 どうしてそんな状態に。

 悪戯にしたって、こんな状態にする必要性が感じられない。


 というか、こんな僕が高校生だった頃をそっくりそのまま切り取ったような部屋を、僕以外に再現できるとはとてもじゃないけど思えない。

 僕の思い出の中にある昔の僕の部屋、そのものなんだもの。


 ――いや、まさか、そんな。


 一瞬、僕の中にあり得ない想像がよぎる。

 まさかなと思って、僕はもしかしたらこれは夢かもしれないと頬をつねった。

 うん、しっかりと痛い。どうやら現実のようだ。


 ますます混乱する僕の頭に去来したのは、昨今漫画や映画でよく見るようになったあの言葉。そう――。


「もしかして、僕、タイムリープしちゃったの?」


 鉄板、時をかける少女。

 濃厚サスペンス、僕だけがいない街。

 ちょっと違うけど、STEINS;GATE。

 不朽の金字塔、魔法少女まどか☆マギカ。

 同じくラノベの星、Re:ゼロ。

 もうすぐ映画が公開される、東京卍リベンジャーズ。


 僕が置かれている状況はまさしくそれだ。

 アニメや漫画の中で何度も見た、突然タイムリープしてしまった主人公の状態だ。「あれ、もしかして僕、過去に戻ってる?」って奴だ。ちょっと台詞は違う作品だけれど。あ、けど、あれもタイムリープと言えば、タイムリープなのか。


 とにかく。


「なんで? どうして? 僕がタイムリープしてるのさ! えぇっ、ちょっとどういうことなの? 理由が分からないよ! なにもタイムリープしなくちゃいけないようなことなんてなかったじゃない!」


 鈴原篤。三十二歳。

 阪内に一大生産拠点がある大手白物家電メーカーのソフトウェア子会社勤務。システムエンジニア。

 メーカーのグループ企業内で使っている勤怠管理システム、そのハード周りの保守・点検を行うチーム所属。役職は主任。

 給料はボーナス込みで年収四百ちょっと。

 既婚。妻は同い年で幼馴染の鈴原千帆――旧姓は西嶋。結婚五年目だけれど夫婦仲は良好。

 家族や友人にも特にトラブルはない。


 どう考えても順風満帆なサラリーマンだ。


 別にタイムリープをしなくちゃいけないような不満や後悔は抱えていない。

 強いて言うなら、ちょっと給料が……ってくらいだ。

 けれどそれくらいサラリーマンなら誰だって思ってるし、タイムリープの理由になんてならないだろう。


 なのになんで? どうして僕は過去に戻ってきたの? 意味が分からないよ!


「もしかして未来で妙な事件に巻き込まれた? いや、けど、そんな心当たり……」


「あーちゃぁーん!」


「まさか魔法少女に? いや、僕は男だって! それはないよ……」


「ねぇー? 起きてるぅー? これ、どうなってるのぉー?」


「すると宇宙人が。いや、それよりも、未来人と僕が接触して巻き込まれてという方がまだリアリティが……」


「もぉー! ちょっとぉー! 聞いてるのぉー!」


「いや、リアリティもなにもタイムリープしている時点でそもそもおかしいじゃないか。宇宙人から超能力まで、ありとあらゆる可能性を……」


「……むぅ。いいやぁー、今からそっち行くからねぇー?」


「え?」


 さっきからどこからともなく聞こえてくる間延びした女の子の声。

 その声が、あまりにも僕の耳になじみのあるものなので、すっかりと僕は思考のるつぼに落ち込んでいて気がつかなかった。いや、いつもなら彼女の言葉を無視するなんてしないんだけれど、ことがことだったからね。

 けど、それがよくなかった――。


 開け放たれた窓。

 その横に画鋲でとめられている『Fate/Stay night』のカレンダーが示すは7月。

 朝から夜にかけての涼しい空気を取り込むために開け放たれた窓。

 そこに、大きな大きな影が青空を背景に浮かび上がった。


 ネット前のジャンプにより鍛えられた太くもラインが綺麗な脚。

 鍛えられた下半身に支えられたたわわな胸に引き締まった腰。

 いつもは飾り気のないシュシュでまとめられているウェーブががった長い黒髪。

 そして、そんなモデル体型にちょっと不釣り合いな優しい顔立ち。


 窓から美少女が降ってきて。

 ならぬ、窓から美巨女が飛び込んできて。


 彼女は僕の部屋の狭い窓をくぐって華麗に脚から布団の上に着地すると、そのまま僕の上に仰向けになって倒れ込んできた。ぐぅっ、このダイビング・オフトン・エントリーは間違いない。そして、この胸のたわわもまた、間違いない。


「……ち、千帆!?」


「そうだよぉー! 私だよぉー! さっきから呼んでるのにぃー! なんで無視するのぉー、あーちゃぁーん!」


「いや、けど、今ほら、タイムリープ中で!」


「関係ないでしょー! 奥さんにそんなに冷たくしちゃてぇー! そんな意地悪なあーちゃんにはぁー、明日からぁー、お弁当にピーマン入れちゃうんだからぁー!」


 僕の部屋に飛び込んできたのは、僕の妻――鈴原千帆であった。

 彼女もまた、僕の過去の記憶の姿――高校生の時の格好をしている。と言っても、彼女は高校の時から特に成長はしていないのだけれど。そして、成長していなくてもとにかくものすごい発育だったのだけれど。高校生の頃から、完成されたワガママモデルボディの持ち主だったのだけれど。


 いつもは落ち着いた緑色をしたパジャマを着ている彼女だが、今日はピンク色に白いラインが入ったパジャマを着ている。これは未来でも同じだが、無理して既製品のサイズのモノを着ているのだろう。胸の前のボタンがえらいことになっていた。


 もうほんとえらいことに。

 やめて、これ以上うごいちゃダメよってくらいに。

 あと少しでファイト一発なボタンの紐がちぎれちゃうって感じに。


 僕の妻なんだけれども、ほんとけしからん。

 とてもおエロい。朝から見ていいパジャマ姿じゃない。

 うん、こんな格好、とてもじゃないけど人様に見せられないよ。


 この頃から千帆ってばすごかったんだなぁ……。


 って、そんなこと考えてる場合じゃない! 今はなんでタイムリープをしたのか考えるのが先――むがっふ!


「やーん! あーちゃんかわいいー! 高校生の頃のぉー、ちっちゃいあーちゃんだぁー! やーん! 今のあーちゃんもぉー、素敵だけどぉー! この頃のあーちゃんもぉー、かわいくって好きぃー!」


「……もがっ! もがっふ! もががぁっ!」


 などと油断した矢先、僕は千帆に抱きつかれた。

 いつもだったら、もうやめろよと押し返すのだけれど――それができない。

 なぜかと考えて僕はすぐに思い出した。


 僕の成長期は大学生になるまで反抗期で、ろくすっぽにやってこなかったことを。高校生になっても百五十センチ前半。ぶっちぎりでクラスで一番低身長。ヒョロガリチビだったことに。そして、それに対して千帆は女子にして百七十センチ。さらにバレー部で鍛えた体でむっちむっちな、スポーツ少女だったということに。


 そう、言うなれば、三輪車とコンボイ。

 激突すればまず敗北。

 圧倒的な肉体的スペック差が、当時の僕たちにはあったのだ――。


 それをすっかりと忘れていた!

 そして、胸がもろに顔に当たっていた!

 顔だけじゃない、全身が千帆に包まれていた!

 これ僕の体全身千帆状態(謎)だった!


 すごい! なんというか、気持ちいい! 超きもちいい! 千帆のぬくもりやら体の柔らかさやら、そういうのがすごく伝わってくる! 同時に、あっ、これ夢じゃないなってめっちゃ実感する! そんな生々しい身体の感触がする!

 夫婦なので、そりゃまぁそういうことはするんだけれども――今まで感じたことのない奴! 体格差があるからこそ生まれるこの没入感!


 たまらん――って違う! こんなことしてる場合じゃない!


「あーちゃん! えへへ、あーちゃん! 高校生のあーちゃん! ねぇ、なにしてほしいー? せっかく高校生に戻ったんだからぁー、今の私たちじゃぁー、できないことしようよぉー! ねぇー、あーちゃーん!」


「もがぁっ! むぐもがぁっ! もごごごっ!」


「やーん、くすぐったいよぉー! あーちゃんてばぁー、エッチなんだからぁー!」


「もがっふふふふほはほほ!」


「んふふー! そうだぁー、せっかくだからぁー、確認しちゃぉー! 高校生の頃のぉー、あーちゃんのアレもぉー、おこちゃまなのかなぁー?」


「もががぁーっ!」


 ダメ、それはダメ! 夢でも平行世界でもやっちゃダメな奴!

 というかおこちゃまとか言うのやめて! 地味に傷つくから!

 そして実際おこちゃまだから! 見せるの戸惑う奴だから!


 貞操の危機!


 妻を相手に感じることではないのだけれど、とにかくこのままはやばい。

 というか普通に今の千帆は高校生だからしたら案件になっちゃう。

 むちむちアダルト完成されたモデルバディだけれどまだ未成年だから。

 僕はすぐさま、渾身の力を込めて千帆を突き放すと、その腕から逃れた。


 いたぁーいと、間延びした声を千帆が上げるその前で、僕は息を整えて立ち上がる。良い感じにくんずほぐれつ、乱れたパジャマに彩れた若い姿の妻に、ちょっとおこちゃまが反応したけれど、おこちゃまだから大丈夫だった。


「千帆! もうちょっと危機感を持ってよ! タイムリープだよタイムリープ! 過去に戻ってるんだよ!」


「えー! だってぇー! せっかく過去に戻ったんだからぁー、楽しまないと損じゃなぁーい!」


「損とか得とかそいういうことじゃないでしょ! 僕らどうしてタイムリープしたのか、それが分からないと――って、あれ?」


 またしても違和感。

 なんだろう、この感じ。

 いや、そう、なんて言ったらいいのか。


 これはまたタイムリープとは違う違和感だ。

 どんなタイムリープものでもない展開。


 いや、まぁ、あるにはあるけれど、こんな感じで冒頭で出てくるのはちょっとない。出てくるにしても、物語もクライマックス。いよいよタイムリープの謎が明かされるという感じの時に出てくる奴。まさしく奴。

 主人公とはまた違う、タイムリープをしている存在。


 けど、ちょっと待って――こんなのって。


「千帆、もしかしてだけど、君って、未来の千帆か?」


「未来のってー? それはもしかしてぇー、あーちゃんのお嫁さんになったばかりのぉー、私かなぁー? それともぉー、大学三年生の頃からぁー、親に黙ってぇー、同棲してたころの私かなぁー? 社会人になってすぐぅー、通い妻してた私かなぁー? それともぉー、毎週金曜日の夜にぃー、頑張っちゃう私かなぁー?」


「最新版じゃん!」


 間違いない。

 目の前の千帆は高校生の千帆じゃない。

 側は高校生の頃の千帆だけど、中身が違う。


 そう。


 どうやら僕は幼馴染の妻と高校時代にタイムリープしたらしい。


 理由は分からないけれど。


 そして、結婚して開放的になった妻が中に入っているので、高校生の妻が年齢にあるまじきエロさになっているけれど。


「見た目は高校生ぃー、中身は人妻ぁー、その名はあーちゃんの嫁ぇ――千帆!」


「やめなよみっともない!」


 妻は僕の布団の上で渾身のどや顔ダブルピースをキメた。


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○書籍版 特設サイトURL

https://fantasiabunko.jp/product/202205timeleap/322110001234.html


こちら、本作品の書籍版特設サイトです。

話の流れはちょっと違っておりますが、キャラクターのビジュアルや人間関係など把握できると思いますので、ぜひ一度ごらんになってください。m(__)m

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