第41話 カイナ村への道中
樵のアンドレの住むカイナ村への旅の途中である。
旅の第一日目
馬ならぬ巨大雌牛の上の小屋に揺られて獣道のような細い道を進む。
巨大雌牛が進めば道が出来る。
余程の巨木でない限り連れてきた巨大牛が立ちはだかる木をメリメリと音をたてて倒してしまう。
その後ろからついてくる地竜の赤子が最後の土均しをする。
歩くブルドーザーとロードローラーだ。
今更なのだがこの世界の獣のほとんどが6本足を器用に使って歩き回る。
この世界には魔獣や獣から進化した亜人種がいると聞いているが、まだ見ていないのでよくわからないが2本の足と4本の手とか、4本の足と2本の手だと聞く。
・・・・・・う~ん、いた目、目の前にいた天使族の二人だ!真中の手が背中にいって羽になったのだ。
目の前と言うのも、今その天使族のアンソワーと俺が仲良く額を合わせているところだ。
横で見ている真のこめかみの血管が浮いてピクピクしている。
実はアンソワーとアンドリューは背中の羽を使って空を飛べる、そのうえ上空から見た景色を接触テレパスで俺達に見せることも出来るのだ。
接触テレパスと言っても高度な魔法なので手と手を繋いでも景色を見せることはできない、今回のように額を合わせないと見ることが出来ないのだ。
ただ、額を合わせて精神を繋ぐという行為は余程親しく信頼していないと出来ないことなのだ。
俺とすればやっとアンソワーとアンドリューの双子の天使族と信頼関係が築けたという事なのだが・・・ただ真とすれば俺が超絶美少女のアンソワーとアンドリューの額を合わせているのを見るのが嫌だったようだ。
接触テレパスで地上を見れる事に、今回の旅のメンバーの中で一番喜んでいるのは俺だけではなくジュオンもだ。
ジュオンは魔法を使う為の器官が両眼に発現して見えなくなっていたものがアンソワーとアンドリューの接触テレパスで脳内に映像として見ることができるからだ。
ジュオンが久しぶりに景色を見れたと言って喜んでいるので真も怒るに怒れないでいるのが現状なのだ。
実は俺も超絶美少女のアンソワーとアンドリューと額を合わせれるのだ嫌なわけがない。・・・できるだけ雑念を取り払って・・・!
ところが時々アンソワーとアンドリューの
『私達とも結婚して!』
等と言う思念が流れ込む!・・・俺も無意識のうちに時々『俺も』等と返事を考えているようで・・・思念を流している。
その際アンソワーとアンドリューが頬を赤らめる。・・・う~ん真の顔がもっと赤い般若のようになった。
美人は怒ると怖い!・・・平常心!平常心‼
何はともあれ二人のおかげで方向感覚も失われそうな鬱蒼とした森林の中でも上空から地形が確認できる。
例えば、曲がりくねった道なのでほんの10メートル程藪の中をつき進むとその先の道に進める。
これで、地図上では2キロ以上進むことができる。・・・と言ってもこの世界ではまともな地図が無い。
無いどころか子供それも幼稚園児が描いたようないい加減な地図しか手元にないのが現状だ。
旅の第二日目
それにしても俺の手元には女官のシンディと共に砦付近を描いた正確な地図はあるが、ザルーダの爺さんがくれたカイナ村までの地図は幼稚園児が殴り書きしたようないい加減な地図しかないのだ。
この地図はカイナ村に行く事が決定した時、ザルーダの爺さんが自宅の図書館の隅に置かれたものを引き摺り出してきたのだ。・・・この時点でザルーダの爺さんはこの旅について行く気が無い事が判明した。
今回泊まろうとした場所は村があると記載があったが、なにも無い原っぱだった。
それで今回は野宿だ。
野宿と言っても俺の乗る巨大雌牛の上の小屋や真達の乗る3匹の地竜の赤子の上の小屋を降ろして、そこで眠るのだ。
小屋が快適になっていった理由がわかるだろう。
小屋の机の上にいい加減な地図を広げる。
問題の地図だ!
地図の北の方向が分からない?距離の長さを表すバーも無ければ、当然縮尺も無い、距離の長さが分からない。
それに山らしい子供が描いた絵とそこに山脈名が書かれているが、高度を表す等高線も表示されていない。
等高線が無いので山頂を表す▲等の地図表記も無いのだ、当然温泉の♨マークが無いので旅の途中の風呂も入れない。・・・実はこの世界、温泉宿などは無い!風呂に入る習慣が無いのだから仕方が無い。
俺が温泉を見つけて温泉宿を作ればこの世界初となるが俺達以外に温泉客がいるのだろうか?
地図表記等を知らない子供が適当に落書きのような山や川の絵を描いているようなものだ。
所々に何々村とか何々街のような記載があるが、実際について見ると今回のように廃村になり何もない原っぱになっていたり、古代の遺跡だったりする。
アンソワーとアンドリューが空を飛んで見た眼下の状況を手元にあるいい加減な地図に朱書きで訂正していく。・・・いい加減な地図は未舗装で曲がりくねった道路と同じ発想だ。
敵国の軍事行動に
掣肘を加える等と御立派な言葉を使っているが、この世界の地図については測量技術どころか統一された距離の単位が無いことからいい加減な代物になっているのだ。
前世の日本地図の作者伊能忠敬は原始的な導線法と交会法なるものによって作りだしたと言うが、こんな技術も無い。
しかしこれでは時間がかかるので俺の知る三角測量で地図を作るか。
その前に統一された地図表記と単位の設定だな。
特に単位の統一だ。
一応この世界にもアマエリヤ帝国内でアマエリヤ単位が使われているが、地方の領主ごとに距離の長さが違う、ある地方では1メートルが90センチだったり、1メートル10センチだったりするのだ。
俺は算術が出来て目端のきく少年盗賊の少年数名を商人にして、同一の単位であっても地方の領主ごとに長さが違うことに目を付けて、これで儲けることを考えたのだが、問題は支払われる通貨がアマエリヤ帝国金貨で信用が全くないことだ。
金貨自体の質が悪くて、それに偽金貨が沢山出回っているのだ。
アマエリヤ帝国内の地方での両替の問題もある。
地方領主がアマエリヤ帝国金貨以外の通貨を勝手に発行して、両替を地方領主が行うのだ。
これでは公平な両替ができない。
経済が
俺が傘下におさめたドワーフ族の里に優良な金鉱が今回の地震による地殻変動で剥き出しになった。
俺の懐には、そこから産出された金塊を入れてあるので、カイナ村での買い物の支払いはその金塊で支払うことにしている。
アマエリヤ帝国金貨ばかりではない、その前に今俺達が進んでいる道路の様に道路事情が悪く、獣や魔獣が
それに政情が不安定で盗賊団が横行しているので、安全に村々を回れない。
商人の構想は構想段階で終わった。
旅の第三日目
今回も野宿で、俺の乗る巨大雌牛の小屋の机の上に2枚の地図が載せられている。
1枚の地図は以前のいい加減な地図で、もう一枚は女官のシンディも手伝ってくれてまったく新しいものに変えたものだ。
以前の地図は参考程度だ。
この地図はメートル法を使っている。
一応この世界の度量制の長さの単位はメートル法で統一することにした。
確かに前世でもメートル法や尺貫法、ヤードのように世界で統一された単位が無くて不便なところがあった。
メートル法を使った理由は俺や真が前世から持ってきた定規は長いものでも30センチ物差しだったのでこれが基本となって取り入れたのだ。
真が裁縫が趣味で和裁用の鯨尺を持っていたが、ただでさえアマエリヤ帝国の単位と新たに導入しようとした単位で混乱するのでメートル法のみにする事にした。
真にとっては不本意かもしれないが納得してくれた。
俺達が持ち込んだ30センチ物差しを基本にしてドワーフ族と共同してメートル法の単位の基準になる金属製の物差しを作って、砦改め城塞都市とエルフ族の隠れ里やドワーフ族の里にも配ってある。
当然カイナ村へのみやげの中にもこの物差しが何本か入っている。
今日も距離を測るのに奮闘していると
「距離を測るのにいいものがある。
ゴルフ用品なのでヤード単位なのだが。」
と言って今回何と真がおずおずとある物を差し出した。
それが実は俺の趣味ではないのだが真がゴルフに使う為に持っていたという、とんでもない物を差し出したのだ。
それがゴルフ用の距離レーザ測定器だ。
これで地図作成がもっと容易になった。
問題はゴルフ用の距離レーザ測定器はヤード表示だ。
1ヤードは0,9114メートルだ。
真は電卓、俺は計算尺を持っているので換算して地図表示にしていった。
旅の第四日目
距離測量をしながら俺達はカイナ村へと進んで行く。
俺は今も地上の状態を見る為に上空から地上を見てきたアンドリューと額を合わせている。
アンドリューが目を開けて俺を見る。
俺も目を開けると銀髪碧眼の美少女と目と目が合った。・・・ピシリピシリと二人とも真に頭を
今いる地点で、いい加減なアマエリヤ帝国の単位の地図をまともに信じて曲がりくねった道を城塞都市からカイナ村まで馬でそのまま進むと一ヶ月以上の距離になってしまうことになるのだ。・・・馬は一日50キロ程歩くことが出来るので直線距離だと千五百キロ以上になる。
東京から千五百キロは日本最北端の宗谷岬になる。
曲がりくねっている道をそのまま進むと千五百キロか!
地図を信じて進みたくないのがわかると思う。
アンソワーとアンドリューが上空から見て近道を使ったので後三日、砦からだと一週間程でカイナ村に着くことが出来るようだ。・・・これでも乗ってきた馬だと直線距離に換算すると350キロになるのだ。
いい加減な地図で千五百キロを考えると、千キロ以上!とんでもない程の距離の短縮になったのだった。
距離の短縮をする為に巨大雌牛や地竜の赤子達が良く働いてくれた。
それにエルフ族の女性達が巨大雌牛が倒せないような巨木を木魔法で切り払い、ドワーフ族の女性達が地竜の赤子達で整備しきれなかった路面を土魔法で整備をしてくれた。
旺盛な食欲をみせる地竜の赤子達に乳を飲まれて巨大雌牛がやせ細ってしまう前に何とかしなければ!
その願いが天に通じたのか、何と百頭ほどの巨大牛の群れを見つけた。
俺の乗る巨大雌牛が相手の巨大牛の群れの中のボスに
「ブーモ―」
と挑戦の雄たけびを上げる。
俺の乗る巨大雌牛が巨大牛の群れのボスと対峙して倒した。
今回はあわやというところで俺が介入した。
俺の乗る巨大雌牛が押し込まれて倒れそうになったところで、俺の放った土魔法が相手のボスの足元の土を崩したのだ。
相手のボスが膝を折ってしまった。・・・う~ん膝の関節が俺の落とし穴で外れてしまったのだ。
巨大牛もまた6本足なので前脚の1本ぐらいどうということは無いと思うかもしれないが、この戦いは相手が逃げ出すか、相撲と同じで倒すと勝ちになる。
命まで取らないのがルールだ。
ボスを倒すことによって百頭近い巨大牛の群れをカイナ村まで連れて行く事になった。
・・・旅の残りの3日間
百頭以上の巨大牛の群れと3匹の地竜の赤子が
この迫力で魔獣や獣、道路を通る商人を狙う盗賊団も手も足も出なかった。
それに空腹の地竜の赤子達は夜放し飼いにする。
地竜の赤子達は狩の名手で俺達を狙って集まって来た魔獣や獣、それどころか盗賊団も跡形もなくかたずけてくれるのだ。
夜はゆっくりと休むことが出来た。
そんな事をしているうちに、とうとうカイナ村に着くことが出来た。
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