第12話 越冬準備、そして追手再び
俺達はザルーダの爺さんに召喚されてエルフの隠れ里まで来た。
エルフの隠れ里で過ごすうちに水に当たった!
召喚されてエルフの隠れ里に来るまでの間、川の水は水スライムが住んでいるか古代魚が住んでいて飲むことが出来なかった。
それでエルフの隠れ里までは水魔法で水を飲んでいた。
エルフの隠れ里には井戸水がありこれを飲んだ。・・・生水だ!
この世界の水は硬水で胃腸が強いと思っていた俺が腹を抱えて苦しがった。
それに硬水で頭を洗ったら白い粉を噴いたと真が苦情を言っていた。・・・召喚される前の日本国はカルシュウム等が少ない軟水でお茶等の味が良い。
魔法を覚えたいそれも水魔法だ。
ザルーダの爺さんの家で出された朝昼晩と毎食豆類ばかりなので肉が食いたい、狩りがしたいと訴えた。
狩りをしたかったのは事実だが、どんな理由であれ、エルフの隠れ里から出れば水魔法の水を飲む事が出来て腹の調子が戻るだろう。
エルフ族の隠れ里内どころか近郊の外界は、ほとんど食料となる獣や魔獣は狩尽くされたようだ。
実はエルフ族自体が弓の名手でハンターなのだ。
狩りがしたいとザルーダの爺さんに訴えたら、もうすぐ雪でエルフの隠れ里が世間と隔離された状態になる。
雪が降る前の越冬の準備の為にも狩りも良いだろうとザルーダの爺さんが、弟のザルーガさんを連れて来た。
彼はアリアナの父親だ、ずいぶん若く見える40歳ぐらいか。
ザルーダの爺さんとは百歳以上年が離れていて、実年齢は120歳だった。
本当にエルフの社会は怖い。・・・30歳ぐらいの酒場の娘さんが実年齢は90歳なのだよ⁉
アリアナも一緒に行く事になった。・・・見た目は小学校2年生ぐらいなのだが実年齢は前世では成人式がすんだ24歳で俺達より年上だ。
それでも見た目で扱ってしまう、・・・本当にこまったものだ。
エルフ族は長命な反面、子供が出来づらくなってきている。
それでエルフ族の隠れ里の人口自体が少なくなっている。
それにエルフ族は木々の精霊が進化したもので、緑の多いエルフの国からゴブリン族の為に、あっても低木しか茂っていない山岳地帯のエルフの隠れ里に追いやられた事も種族自体の勢いが無くなったのだろう。
越冬の準備の為に馬に乗って結界を出る。・・・エルフ族がいないと結界の外にも出ることも入ることもできないのだ。
結界の外に出ると、気温が一気に20度近く下がった。
慌てて毛皮のベストを羽織る。・・・この毛皮のベストは棒手裏剣をさしてある北海道で狩猟の際に着ていた奴で暖かい。
真は何と競技用の乗馬の服装、燕尾服に白いキュロットに黒いブーツ、首には白いアスコットタイを巻いていた。・・・流石お嬢様!
それでも寒いのでショッキングピンクの羽毛のダウンジャケットを着ている。・・・狩りには目立ち過ぎだ。リバーシブルで外側は普通に黒色だったので、慌てて裏返しにしていた。それでも目立つ!
エルフ族の服装は毛皮の帽子に毛皮の上下の服装だ。・・・毛皮の塊だ。
しかし貫頭衣風で裁縫技術が無いのか革紐で縛っている。革紐で裁縫する方法もあるのだが?
俺も本当に寒いときは同じような服装になるので
結界の外は秋で、獣は冬支度で警戒が緩くなっている、その代わり攻撃的になっているようだ。
俺は北海道の爺さんの遺品の猟銃は置いてきた。
猟銃の大きな音はアマエリヤ帝国の追手を集めるかもしれない、それでアマエリヤ帝国城の脱出路の出口で倒した兵の弓矢を持ってでた。
倒した両方の弓兵は火矢を2本ずつ持っていた。
火矢は要らないがそのまま
俺の愛馬になったアラブ種のような黒馬は脱出路の出口で待ち構えていた皇太子ジンクーンの右腕ガイヤの乗っていた馬だ。
この世界に鐙が無かったので、伊賀崎流体術の乗馬で使っていた日本の鐙を木で切りだして真似て作り足裏全体を乗せれるようにした。
日本の鐙は、これで鞍から腰をあげて騎射ができるのだ。
古い日本画の中で馬に乗って完全に後ろを向いて弓を射ている絵があるが、当時の世界のどこの国にもこんな事が出来なかったようだ。
それに短弓ではなく長弓を使っていたのもこの影響かもしれない。
エルフ族の隠れ里でも鐙の無い馬具だったので日本の鐙を作って渡してある。
先頭をザルーガが小型種だがポニーより大きい栗毛の馬に乗っている。
俺と真がその後ろに並んで続く。
最後尾はアリアナが馬車で続く。・・・馬車には檻が載せられている。
しばらくするとザルーガが弓に矢をつがえる。
おれも見えた。・・・ウサギだ。見た目だけなら可愛いウサギだ。
可愛いウサギ・・・違うバカでかいウサギで、人間を捕食対象にしている殺人ウサギと言う奴だ。魔獣の一種だ。
身長は俺以上だ!・・・それも両足が曲がった状態でだ。後で聞いたがこれほどデカイ戦闘ウサギは見た事がないと言う。幸先が良いと言うのか?悪運が強いと言うのか?
ザルーガさんが殺人ウサギに向かって弓矢を放つ。
殺人ウサギの右目に矢が刺さった。
飛んだ!・・・凄まじい風圧と土煙が俺達を襲った。
殺人ウサギの影がものすごい勢いで俺達に近づいてくる。
俺は腰に下げた愛刀を抜き出すと、頭上に向かって日本刀の切先を天に突き上げるようにして止める。
俺の横を馬に乗っていた真も同様に日本刀の切先を天に向けている。
黒い影が俺の方に向かって落ちてきた。
土煙もあるが殺人ウサギの黒い影で太陽が陰る。
『グサッ』
と肉の刺さる手ごたえが日本刀を持つ手にかかる。
「ギヤ~」
と魂消るような悲鳴があがる。・・・ウサギが悲鳴を上げた⁉
殺人ウサギの右足に俺の日本刀がささる、奴は俺の頭を蹴り割ろうと左足を後ろに引いて蹴りだした。
俺は刺さった日本刀を左に捻り切る。
殺人ウサギの右足の足裏から膝辺りまでが切り裂かれ、ついでに蹴ってきた左足の膝辺りから切断された。
流石、殺人ウサギと言うだけあって、上体を倒して右目から血を出しながら、でかい前歯を剝き出しにして大きな口を開けて俺を頭から食べようとする。
俺は恐怖心でアドレナリンが噴き出した、殺人ウサギの動きがまるでスローモーションのように見える。
日本刀を振り戻す暇がない。
ベストの棒手裏剣を抜き出して、奴の顔に向かって突きだす。
奴のでかい歯に当たる。・・・でかい歯に棒手裏剣が刺さっただけだ。
ウサギに食われるのかと思った途端、殺人ウサギの頭が飛んだ。
真が殺人ウサギの頭を切り落としたのだ。
今日はウサギの鍋だな。
殺人ウサギの肉は食用に適しているが筋張っていて思ったよりおいしくない。
また殺人ウサギの心臓は亡くなると土魔法の魔石になる。
この魔石は土において耕せば肥料になる優れものだが、普段は魔法を使えなくても戦争などで攻撃された時、強くその魔石に
『落とし穴』
と念じて敵の足元に投げつけて穴を開けるのに主に使われるそうだ。
俺は試しに土の小屋と念じて魔石を投げたら、窓も出入口も無い丸い土でできた
アリアナが
「こんな使い方があったのだ。」
と感心していた。
俺がクナイで出入口を開けて、アリアナが木魔法で扉を作った。
今日はこの土でできた雪洞で泊まることになった。
ついでと言っては何だが魔石を持つ魔獣は血抜きをする必要は無い。
倒すと血液が心臓に集まり魔石になるのだ。
それに魔石の大きさで、出来上がる土の雪洞の大きさが変わるのだ。
大きな魔石を得る為には心臓を攻撃しないで、できるだけ血を流さないようにするのが肝心だそうだ。
エルフの隠れ里から馬で4日程進んだ地点に狩りをする際に使う野営場所まで向かっている。
その間に最初に出会った戦闘ウサギの小型版ばかりでなく、馬鹿でかい陸亀に出会った。
陸亀は攻撃すると硬い甲羅に首や手足を引っ込めて倒せずに、この野営地に追いやられるようにして来たのだ。・・・手も足も出ないとはこんな状態なのだ。
俺達は陸亀に手も足も出ない状態で、野営する場所まで来ている。
野営地はここだけ300メートル四方の開けた広場で、それ以上進むと急な斜面となり、向かって右側は峻厳な山々が繋がり左側は小高い丘に囲まれている。
左側の高さ約30メートルの小高い丘で、小高い丘を巡るように山道が造られその先は獣道で馬車が使えない山道が裾野へと細々と続いている。
小高い丘の上部は10メートル四方の広場で、周りは良く見渡せるが、逆に翼竜やドラゴンに襲われる可能性があるのだ。
デカイ陸亀と睨み合うようにして、小高い丘の上を避けて井戸のある広場の中央付近で夕食の火を起こす。
パチパチと煙をあげる焚火を見ながら胸騒ぎがした。
焚火に生木が多かったのか煙が盛大にあがっている。
焚火の煙を見上げた。
煙が森の木々より高く上がっている。・・・まるで
胸騒ぎの原因がわかった。
夕食の途中だがここから離れることをザルーガに提案する。
アリアナも逃げ出すことに賛成した。
俺と真はアマエリヤ帝国の帝王城から脱出する際、隠し通路の出口でアマエリヤ帝国の5人の兵士に襲われた。
当然、俺は焚火が狼煙のように
俺はこの場から逃げだすことを最初に選んだ。
しかし、逃げるにもデカイ陸亀が睨んでいるうえに場所が悪い。
デカイ陸亀は馬蹄の音を聞きながら手足を引っ込め、最後には何かニヤリと笑うように頭を引っ込めてごつごつした大きな岩のようになった。
陸亀が頭を引っ込めてしばらくすると思った通り、今では地面に耳をあてなくても、押し寄せる馬蹄の響きと多さでは逃走方向を抑えられて逃げきれない。
それにここで逃げても追手がどうせ次々と送られてくるのだ。
追い詰められて戦うよりも、多少でもこの地形を知っているので、この地を利用して返り討ちにする事にした。
孫氏の兵法にも
「地の利」
をとき
「死地には則ち戦う」
というではないか。
真とアリアナには、馬車と馬を離れた場所まで連れて行き小高い丘の上に登っていく。
俺とザルーガは別々の立ち木の上に登ってる。
今では木の上にいても馬の駆ける音が近づいてくるのがわかる。
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