記憶力日本一の陰キャ、ポンコツ美人教師に記憶術を教える

青キング(Aoking)

プロローグ

「記憶力が誰でも上げることが出来ますね」


 大林 おおばやし りょうは左の前髪を留めたヘアピンをいじりながら、密着取材を受けているテレビのカメラクルーの男性に向かって、さもありなんと断言した。

 場所は雑居ビルの二階。この日、ここで記憶力を競う大会が行われた。


 記憶力を競うといってもどう競うのか。それはジョーカーを抜いたランダムなトランプ52枚の順番をどれだけ早く覚えられるかどうかで競う。

 種目でいえばスピードカードといい、大林はスピードカードで18秒の日本記録を持つ記憶力日本一の高校生だ。


「一日十時間もトレーニングしてる日もあったけど、大林君辛くないの?」


 テレビのカメラクルーが尋ねる。


「キツイですよ。でもそれぐらいしないと中々記録が更新できませんから」

「そんなストイックな生活をしてるんだもんな。テレビで一日十時間トレーニングしてるってナレーション入れていい?」

「ええ、いいですよ」

「じゃあ使わせてもらうよ。それと他に大林君からこの部分使ってほしいとか希望はある?」

「とくにはないですよ。お任せします」

「そう、じゃあこっちで編集はやっておくよ」

「ありがとうございます」


 大林が礼を言うのを聞き届けると、テレビのカメラクルーの男性は会場を去っていった。

 男性の姿が見えなくなった途端、大林は緊張が解けた息を吐く。


「やっと取材終わった」


 大会の数日前から密着取材を受け、日々のトレーニングの様子や食生活まで細かに説明を交えて大林は撮ってもらった。


「これで、メモリースポーツをやる人が増えるといいけど」


 わずかな期待を含んで呟いた。



 約一か月後、大林を取材した番組が放送され、トランプを18秒で覚える大林の姿がテレビで流れた。

 この放送をきっかけに予測もしない展開が待ち受けていようとは、この時の大林は全く考えていなかった。



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ここまで読んでいただいて、誠にありがとうございます。

記憶術やメモリスポーツに関することでご質問があれば、どうぞ気兼ねなくコメント欄にお送りください。作者がわかる範囲でお答えします。



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