第166話 美少女達の胸の内

 始業式にて学園長より乃恵瑠さんが海外へ引っ越した件の報告があった。それを聞いた大半の生徒がどよめいたのは言うまでもない。


中にはショックで泣き出す女子生徒もいたくらいだ。その様子を見て改めて乃恵瑠さんがどれだけ人気があったのかがうかがえる。


その中で俺は何人かの知った顔を見たが伊緒奈は表情を変えていなかったが、魔冬は少し驚いた表情をしていた。少し離れたところで並んでいるケイトさん、静香さん、茂香さんの三年生トリオの様子は三者三葉だった。


ケイトさんは表情を変えずに真っすぐ学園長の方を見ている。静香さんは天を仰いだ感じで顔をずっと上げていたので表情は分かりづらい。そして茂香さんは逆にずっとうつむいていたので表情は分からなかった。


ちなみに乃恵瑠さんの生徒会長としての任期は今月末の生徒会長選挙までだったので残り一ヶ月を残しての退陣となる。また残り一ヶ月を副会長である陽菜さんが生徒会長代理を務める事も学園長より発表されその後に陽菜さんは壇上に立った。


「皆さん、突然の事で驚かれた事と思います。私もとてもショックです。しかし落ち込むのは今日だけにして、残り一ヶ月『織田元会長』の分まで精一杯、全力で会長代理を務めさせて頂きますのでどうぞよろしくお願い致します」


 あんな、真剣な表情の陽菜さんを初めて見た気がする俺であった。




 【緊急ちつてと会議】


 始業式が終わり教室に戻った俺達は黒田先生から今後の行事などの説明を聞き、初日は終わりとなる。


 そして俺達は当然の如くいつものメンバーが集まり『緊急ちつてと会議』が始まった。


伊緒奈が落ち着いた表情で乃恵瑠さん不在の生徒会長選挙について話を始める。


「という事で突然、織田会長が海外に引っ越しされたので今後の生徒会長選挙に影響が出てくると思われるわねぇ。特に三年生の武田さん、毛利さんの動向が気になるところだけど……」


 それに対して太鳳が未だ興奮冷め止まない表情で口を開く。


「ほんと二学期初日から驚きましたよぉ!! ドッキリかと思いました!! それと、伊緒奈さんが言われた通り、その三年生の二名がどの候補者を応援するかによって票数が変わってきますよね?」


 太鳳に続いて直人が話し出す。


「そうだな。俺もマジで驚いた。少し前まで織田会長も伊緒奈の家で一緒に花火をやっていたんだからな。それにあの時はそういった素振りは何一つ無かったからな」


 そうだよな。ただ、乃恵瑠さんはあの夜も少し元気は無かった感じだったけど、海外に引っ越しが決まって元気が無かったという様な雰囲気では無かったよな。


 もっと違う何かで元気が無かったんだと俺は思うんだけど……


「いずれにしても三年生の動向は華子に調べてもらえば簡単じゃないかしら? だから私達は普通に伊緒奈の票をかき集めるのが先決じゃない? ね、八雲?」


「だよねぇ。知由ちゃんの言う通りだと思うわぁ。私達は自分のクラスは勿論の事、他のクラスの人達にも伊緒奈さんの宣伝をした方が良いわねぇ」


「それでは早速、私は三年生の動向を探らせてもらいますね……」


「華ちゃん、よろしくね?」


 こうして『緊急ちつてと会議』は直ぐに終わったが、その後、クラスの女子達全員が伊緒奈達のところに集まり、引き続き『徳川伊緒奈後援会会議』が始まった。


 ただ俺はその会議には入り辛いところがあったのでソッと抜けようとしたが、教室の端に集まっている安藤達に手招きされたので近づいてみると、今から俺達も『竹中颯だけが何故モテるの会』をやろうと言われたので伊緒奈達の事を気になりながらも、安藤達の輪の中に入るのだった。


 そう言えば合宿の時に羽柴陽呂さんやカイトが次にこの会をする時は参加させて欲しいって言っていたけど……でもまぁ、今日から生徒会長選挙に向けて陽菜さんやケイトさんのグループも動き出すだろうし、陽呂さんやカイトも忙しいだろうから、参加してもらうのは生徒会長選挙後でもいいかな?





 【上杉ケイト陣営】


「カノン、何を今更、怖気づいているのよ!? 織田会長がいなくなった今、カノンが勝つ確率は上がったのよ」


「そ、そうなんですけど……」


「ちょっとカンナ? あまりガミガミ言ったらカノンが可哀想よ。カノンの話も聞いてあげましょう?」


「そうそう、カノンちゃんの話を聞こうぜ」


「あ、ありがとうございます。ケイト先輩……ついでにカイトも……」


「ついでって何だよ!?」


「カイトうるさいわよ!! そ、それで、どうして急に生徒会長立候補を降りたいって言いだしたのかな?」


「そ、それは……あのぉ……」



 


 【毛利茂香陣営】


「茂香ねぇ、どうするんだよ? 織田会長を応援するはずだったのに、これじゃぁ一から考え直さないといけなくなったじゃん!!」


「そうだね~どうしよっか~?」


「あれ? なんか茂香お姉ちゃん、元気が無いわねぇ? もしかして織田会長がいなくなったのがショックなの?」


「えーっ!? それは無いでしょ、柊? 茂香ねぇみたいな見た目と違って心が冷たい女が突然、織田会長がいなくなったくらいで落ち込むはず無いじゃん」


「ちょっと、萌絵ちゃん!? 心が冷たいっていうのは失礼だよ~ただね、あれだけ颯君の事が好きだった織田さんだったから、突然のお別れできっと悔しいだろうなぁって思ったらさ~もし私だったらどうだろうって考えたら……少しねぇ……」


「そうだよね? きっと織田会長は悔しくて悔しくてたまらないでしょうねぇ?」


「悔しいだろうなぁ……悲しいだろうなぁ……そ、それでね、私に一つ良い案があるのだけど聞いてもらえるかな~?」


「 「え? うん、聞かせてちょうだい」 」





 【武田静香陣営】


「武田さんが私を呼び出すなんて珍しいわねぇ? 一体どうしたのかしら? 私の美貌の秘訣でも教えて欲しいのかなぁ?」


「バ、バカな事を……でも美貌の秘訣も少しは聞きたいかも……って違いますよ、黒田先生!!」


「フフフ、それで私に何を聞きたいのかしらぁ?」


「は、はい……実は今度の生徒会長選挙のルールについて色々と聞きたいのですが……」


「ふーん、ルールねぇ? それは興味深いわね。では聞かせてもらおうかしら……」





 【伊達魔冬陣営】


「えっ!? 魔冬、あんた正気なの!?」


「うん、私は正気よ、小町ちゃん……」


「魔冬、あんた本当にそれでいいの!? 後で後悔しない!? 今までの苦労が水の泡になっちゃうのよ!?」


「忍ちゃん、後で後悔するかどうかは分からないけど……でも合宿の途中くらいからそう思う様になったんだぁ……そして今もその思いが変わっていないから……」


「私は魔冬さんの思う通りにされれば良いとは思いますが……」


「ありがとね、蕾ちゃん。という事で私は生徒会長選挙の出馬を取りやめて徳川さんを応援する事にするわ!!」

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