第67話 春日天音

 『春日天音かすがあまね』……三十四歳、独身……


 身長は約百六十センチくらいでスタイルは良く、髪色は黒で上にまとめている。


 キリッとした眉毛で目鼻立ちも整っており『綺麗なお姉さま』みたいな感じがする。


 黒田先生とはまた違った色気があり、見た目は二十代でも通用すると思う。



 そんな春日さんは四年前に徳川邸のメイド長になり現在に至る。


 昨日まで入院中の徳川の祖父、貴世志のお世話をしていたらしく、今日から違うメイドさんと交代し、久しぶりに徳川邸に戻って来たそうだ。



 春日さんは高校を卒業して直ぐに徳川邸のメイドとして働く事になったらしい。


 そして春日さんが働き出して数ヶ月後に徳川が生れ、元々身体の弱かった母親の代わりに赤ちゃんだった徳川のお世話を任される事に。


 数年後、徳川の母親が亡くなると春日さんは母親代わりとして懸命に徳川の世話をし、いつしか自分の娘の様な感覚になっていき、これから何が有っても一生、徳川伊緒奈のお世話をする決意をしたらしい。


 春日さんにとって徳川は目に入れても痛く無い程の大切な存在となり、『宝物』へとなっていく。


 なので、徳川が成長するにつれて、どこの馬の骨とも分からない男子が近づけば周りに分からない様に排除していたそうだ。


 は、排除って一体、春日さんはどんな事をしたのだろうか……

 考えただけでゾッとするぜ……


 ただ、直人だけは祖父同士が友人で幼馴染という事もあり渋々、家に遊びに来ることを許していたみたいだ。


 しかし直人が春日さんの前で『伊緒奈は俺の許嫁だ』と言う度に周りには気付かれない様にゲンコツを喰らわしていたという。


 なので、直人は春日さんの前では恐怖の余り、身体が硬直してしまい、いつものノリではいられないみたいだ。


 ただ『伊緒奈大好き女子』の酒井知由とだけは気が合うみたいで会うたびに徳川の可愛いところや好きなところを語り合っているそうだ。


 ってことは簡単に言えば春日さんも限りなく『百合っ子』に近い部類なんだろう。


 と、直人がコッソリ俺に教えてくれた。



「それでは竹中君、今のあなたのレベルを量りたいから早速だけど今からこのお屋敷の掃除をしてもらうわね? この屋敷内であなたに拒否権は無いと思っておいてよね? いくら伊緒奈お嬢様のクラスメイトだからといっても私は厳しくするから覚悟する様に!!」


「は、はい……分かりました。よ、よろしくお願いします……」


「か、春日……初日から颯君に対して、そんなに厳しくしないでよぉぉ?」


「ふぁああ!! な、なんという優しいお言葉!! でも仕事というのは最初が肝心なんです!! なので、いくら伊緒奈お嬢様がそうおっしゃられても私は厳しくいきます!! まぁ、私が竹中君を認めれば対応は少しずつ変わるかもしれませんけど……」


「と、徳川……心配しなくて大丈夫だから……俺、頑張るから……」


「う、うん……」


「は、颯さん!! 頑張ってくださいね!? もしお疲れになりましたら私もお手伝いしますから!!」


「太鳳さん!? そういうのは禁止です!!」


「えーーーっ!? ダメなのぉぉお!?」


「当たり前です!! っていうか、今日は皆さん、お帰り頂けませんか? 今から竹中君にビシビシ指導しないといけませんし、彼もそんな姿を皆さんに見られるのは嫌でしょうし……」


 ビシビシかぁ……まぁ、仕方無いけどな……


「わ、分かったわよ。帰ればいいんでしょ!?」


「は、颯さん!! ご武運をお祈り申し上げます」


 直人、武運ってどゆこと!?


「えーっ? 今日は久しぶりに天音っちとも伊緒奈ちゃんの可愛らしさについて思いっきり語り合いたかったのにぃぃ!!」


 あ、天音っち?


「な、何と!? そ、それはめちゃくちゃ後ろ髪を引かれる思いですが……で、でも知由さん、そのお話はまた次の機会に……」


「うーん、分かったわ。それじゃ今夜ラインするね? 伊緒奈ちゃんの最近の『キュート画像』も大量に送るわ」


「ふわぁああ!? そ、それは楽しみにしております!!」


「ちょっと知由ちゃん!? いつの間に私の写真を撮っていたの!?」


「イ、 イヒヒヒ……」


 なんちゅう笑い方だ……


「グ、グフフフ……」


 春日さん、あんたもかい!?


「た、竹中君……が、頑張ってね……?」


「あ、有難う、榊原さん……」


「骨は拾ってあげるから……」


 おいっ!?



 こうして直人達は渋々、帰宅し、徳川もとても心配した表情をしていたが、自分の部屋に行くのだった。ちなみに服部さんだけは徳川に何か報告があるという事で徳川について行っていた。


 執事長の本多太久磨さんを始め他の執事やメイド達もそれぞれの仕事場に戻って行き、リビングには俺と春日さんの二人だけとなった。


 そして春日さんが口を開く。


「さぁ、始めましょうか?」 


「あ、あのぉぉ……?」


「何かしら?」


「お、俺……学生服のままなんですけど……」


「あら、そうだったわね? それじゃぁ、メイド服にでも着替えてもらおうかしら」


「い、嫌ですよ!!」


「そうなの? それは残念ねぇ……」


 この人の性格をつかむのは大変だな!!


「学校のジャージに着替えてもいいですか? その方が動きやすいですし……」


「そうね。ジャージで構わないわ。じゃあここで早く着替えてちょうだい!!」


「・・・・・・・・・・・・」


「どうしたの? 早く着替えなさい!!」


「いや、春日さんの前で着替えるのはちょっと……めちゃくちゃ恥ずかしいですし……」


「私は全然気にならないわよ」


「お、俺が気になるんです!!」


「そうなの? それは残念ねぇ……」


 こ、この人……


 もしかすると俺が出会った人の中で一番『変な人』かもしれないぞ……





―――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。


春日天音……颯からすると綺麗だけどつかみどころの無い人……

そして今まで会った人の中で一番『変な人』に認定した颯……


果たしてこれから颯はちゃんとバイトができるのか?


ということで次回もお楽しみに(^_-)-☆



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