第195話 突然の襲撃

突然撃ち抜かれた怪人の姿にオレ達は弾かれるように後ろを振り向く。

気づかなかった。気づけなかった。つまりこいつを撃ち抜いた奴は、オレらに全く気取られることなく撃ち抜いたってことだ。

でもありえねぇ。オレらは……少なくともオレは気を抜いてなかった。万が一に備えて常に気を張ってたからだ。

それなのに……どこだ。いったいどこから。


「レッド、ブルー! あそこです!」


そいつの存在にいち早く気づいたのは意外にもイエローだった。同じ後衛の狙撃を担っている者として勘づく所があったのかもしれねぇ。

イエローの指差すその先はビルの屋上。今居る位置からじゃ豆粒ほどの大きさにしか見えねぇが、そこには確かに誰かが立ってた。

『望遠』の魔法を発動してそいつの居る位置を見る。


「……女の子?」


スナイパーライフルのような銃を持って構える女が居た。

パッと見の年齢はオレらと同じか少し下か……目元が隠れてるせいで正確な年齢はわからねぇ。でも、あの距離で一発でぶち抜いたってのか?

直感的にわかる。あいつは魔法少女じゃねぇ。でも、なんだ。この離れてても感じる妙な感覚は。


「ボサッとしてないで行くわよレッド! イエローはここで待機、彼の応急処置を!」

「わ、わかった!」

「はい!」


 いち早く動いたのはブルーだった。あまりに突然のことでオレも一瞬戸惑っちまったが、確かに今やるべきなのは撃ったあいつを捕まえることだ。

 先に動き出したブルーはすでにオレのはるか前を飛んでいる。だがオレはそれに追いつくどころか距離を離される一方だった。

 クソッ、魔道具があればもっと速く飛べるってのに! 

いや、今はそんな泣き言言ってる場合じゃねぇ。


「今度から魔道具無しでも飛べるように練習しとかないとね。あぁもうこうなったら!」


 飛ぶだけならなんとかなる。でも今のオレじゃスピードが出せない。それなら無理矢理スピードを上げるだけだ!


「『炎想の愛ラブオブファイア』!!」


 足裏に魔法を展開。それを無理矢理起爆して一気に加速する。

 まぁ多少はダメージがあるが、それでもあいつに追いつくため。あそこにいる妙な奴を苦さねぇためだ。割り切るしかねぇ。

 

「っ! あなた、どんな方法で加速して。失敗したらただじゃ済まないわよ」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ。あの子絶対に捕まえてみせる!」

「……えぇそうね。それならせいぜい建物にぶつからないように気をつけて着いてきなさい!」


 なんとか追いついたと思ったらさらに加速。ふざけんな、置いてかれてたまるかよ!

 だがそこで気づいた。ビルの上にいる奴が今度はオレらに向けて銃を構えていることに。


「ブルー!」

「わかってる!」


 あいつ、逃げるどころかオレらを迎撃しようとしてんのかよ。

 照準はオレじゃなくブルーの方だ。だがもちろんブルーもそれには気づいてる。もうすでに剣を構えてた。


「ふっ!」


 音速を超える速さで飛来する銃弾をブルーは何の動揺も無く斬り落とした。その後も二度三度とブルーを撃ち抜こうとするが、どの銃弾もブルーに掠りすらしない。

 なんつーか、さっきアルマジブラザーズを斬った時にも思ったが、剣の腕にさらに磨きがかかってねーかあいつ。銃弾斬り落とすくらい、いや、それもくらいってもんじゃねぇんだが。ともかくそれくらいのことなら前までもできたはずだ。だがこっちもかなりの速度で飛んでる状態でとなれば話は別だ。

 並大抵の技術じゃねぇだろう。まぁ教官当たりなら同じことを……いや、あの教官なら銃弾を斬り落とすついでに撃ってきた奴に向かって攻撃とかしそうだな。

 まだそこまではできねぇってことか。もしかしたらできるのを隠してる可能性もあんだが……って、んなこと今はどうでもいいか。

 ブルーに銃弾を防がれたのが予想外だったのか、なんとなく動揺してるのが見て取れる。

 さすがに剣で斬り落とされるとは思わねぇよな。当たり前だ。もしオレがお前の立場だったらオレだってそうは思わねぇだろうよ。

 お前のミスはオレ達がそっちに向かってる最中に逃げようとしなかったことだ。

 なんとしても捕まえて、なんであんなことしたのか吐かせてやる!


「撃墜失敗。しかし、課せられたミッションは達成。戦域からの離脱を開始する」

「っ、逃がさない!」


 まだ多少の距離はあるが、この距離ならもう十分だ。


「『愛の鎖ラブチェイン』!!」


 虚空から伸びる真紅の鎖が逃げようとしたそいつに向かって飛ぶ。

 気づいた所でもう遅ぇよ。迎撃は間に合わねぇ。いや、間に合わせねぇ。

 襲い来る鎖を避けながらオレ達から逃げようとしてたが、全ては避けきれるわけもない。


「捕まえた!」


 鎖が腕に絡みつく。姿勢を崩したそいつに向かってオレは爆炎による加速を使って一気に距離を詰める。

 

「逃走失敗。迎撃態勢に移行する」

「っ!? まだ銃持ってたの!?」


 鎖が縛ってない左腕で懐から取り出した銃をオレに向ける。

 避ける? いや、間に合わねぇ。それにここで下手に距離取ったらそれこそあいつの思うつぼになるかもしれない。

 

「だったら――『愛炎着焔フレイムアーマー』!!」


 オレが編み出した新しい魔法。炎を直接見に纏って鎧代わりにする。もちろん攻撃にだって使える攻防一体の魔法だ。

 オレに向かって飛んで来た銃弾はオレに着弾するよりも早く熱で溶けきった。

 ブルーみたいに器用に斬り落とすなんて真似はできねぇからな。こっちだってそれなりに色々考えてんだよ!

 

「そこまでだよ!」


 さらに懐から何かを取り出そうとしたのを見て、それよりも速く飛びついて組み伏せる。

 もう完全に動けねぇはずだ。

 

「ちょっとヒヤッとしたけど、さぁどうしてこんな真似したのか話してもらうよ。というか、私達と一緒に魔法少女統括協会まで来てもらうから」

「彼女を連れて行かれるのは困るな」

「え」

「レッド、下がりなさい!」


 突如聞こえて来た声。

 その直後、オレの目の前の空間が裂け、そこから腕が伸びてきた。

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