第192話 得意な手法で

「待て!」

「待ちなさいっ!」

「このっ!」


 逃げ出したアルマジブラザーズを追いかける。

 丸まって転がるその姿はまるでタイヤだ。いや、あいつらの硬さを考えたらタイヤなんかよりもずっと厄介かもしれねぇ。

 転がるスピードも速すぎてなかなか追いつけねぇ。飛んでる俺らよりも速いってのもとんでもねぇ話だ。あの速度で人や車にぶつかりでもしたら確実にぶつかった相手が死ぬ。

 今は上手いこと躱してるが、それもいつまで続くかわからねぇし。なりふり構わなくなったら最悪どころの話じゃねぇ。

 しかもあいつら、わざと人通りのある所を選んで通ることでこっちの攻撃を牽制してやがる。

 だが早く捕まえねぇと。少しずつだが距離が離されてる。このまま逃げ切られたりするわけにはいかねぇ。

 このまま素直に追いかけるのは得策じゃねぇな。なんとか策を考えねぇと。

 オレは手早くスマホを起動して地図を開く。


「なにしてるの? 追いかけるのに集中しないと」

「待って。ちょっと調べてるから」


 極力追いかける速度は落とさず、見失わない距離を保ちながらこの周辺の地図を頭に叩き込む。今通ってる道と、この先の道を。だとしたらあいつらが目指す場所は……。

 よし、この道なら使えそうだ。後はなんとか誘導して……決めた。


「ブルー、イエロー、ちょっと作戦考えたから聞いてくれる?」


 オレは手早く考えついた作戦を二人に話した。まぁ、そう大した作戦ってわけでもねぇんだが。やることは単純だ。

 オレが作戦を話し終えた後、ブルーは若干呆れた様子で言ってきた。


「あなた、いつもいつもよくそんな小賢しい作戦を思いつくわね」

「こ、小賢しいって言わないでよ!」

「ま、まぁまぁ落ち着いて。わたしは良い作戦だと思いますよ。合理的ですし。今わたし達が取れる作戦の中では一番捉えられる可能性が高いと思うし」

「まぁそうね。せっかくなら確実性の高い方で行きましょうか。その作戦に乗るわ」

「最初から素直にそう言えばいいのに」

 

 いちいち突っかかってきやがって。まぁいい。

 決まったなら即行動だ。

 オレ達は二手に分かれて行動を始めた。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「なんだ? 魔法少女の奴らどこに行きやがった?」


 逃走を続けていたアルマジブラザーズは追いかけてきていたラブリィレッド達の姿が無くなっていることに気づいた。


「もしかしてもう諦めたんじゃねぇのか?」

「くははっ、俺らの速さに根負けしたってか?」

「馬鹿なこと言ってんじゃねぇお前ら! あのキモい魔法少女共がそう簡単に諦めるわけねぇだろうが!」


 アルマジブラザーズ。その長男である彼だけは知っていた。魔法少女という存在のしつこさを。それを知っているからこそ長男は決して油断はしていなかった。

 そしてその懸念通り、姿が見えなくなっていたと思っていたイエローが曲がり角から姿を現した。

 そら見たことかと長男のアルマジは他の兄弟達に方向の転換を命じる。

 

「お前ら、目的地はわかってるな? そこまで逃げ切れば俺達の勝ちだ!」

「「「おうっ!!」」」


 一斉に直角九十度方向転換。車道も歩道も関係なくもし人がぶつかれば死ぬであろうほどの速度で。その後も後ろから追いすがるイエローのことを振り切ろうと飛んでくる矢を避けながら目的地に

だがそこで先頭を走っていた長男はふと違和感に気づいた。

 想像していたよりも人が少なかったのだ。この時間帯、もっと歩行者も車も多くて良いはずだった。しかし、まるですでに避難が済んでいるかのように人の姿は見えない。


「どういうことだ……っ! しまった! 誘われた!」


 そこでようやくアルマジブラザーズの長男は気づいた。自分達が誘導されていたという事実に。しかし気づいた所でもう遅かった。そこはすでにラブリィレッドが作り出した囲いの中。

 そしてアルマジブラザーズの進行方向に現れたのはラブリィレッド。ビルとビルをの間に鎖を網のように張り巡らせている。


「追い込み漁ってこんな感じなのかな? 前回はパッションパープルの横やりで中途半端だったけど、今回は上手くいきそうでよかった」


 アルマジブラザーズがやってくるのを見つめながらラブリィレッドは内心でほくそ笑む。

 イエローの追跡はあくまでアルマジブラザーズの進行方向を誘導するためのもの。気づかれないよう少しずつ遠回りさせている間に周辺にいた人々の避難も完了させた。

 誘い込んだのはラブリィレッドの作り出したフィールド圏内だった。


「さぁ、今度は逃がさないよ」

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