第183話 待ち合わせは得意じゃない
「……暇だな」
パッションパープルはビルの屋上から街を見下ろしながら呟く。
そこにいる理由は特になかった。ただ周囲を見渡しやすかったから。ただそれだけ。
見下ろせば思わずクラッとするような高さにいるにも関わらず、パッションパープルは表情一つ変えはしない。
その様はまるで人間にあるべき恐怖という感情が欠落しているかのようですらあった。
はるか下、地上を行き来する人々をパッションパープルはその尋常ならざる視力でもって見つめていた。
もちろん怪人を探すためだ。探知などという比較的簡単な魔法すら使えない彼女は、己の目で見て全てを判断するしかない。
「オレンジからも連絡はないし」
パッションパープルの仲間であるキュリオスオレンジ。そんな彼女は今この場にはいなかった。用事があるからとどこかにノインとどこかへ行ってしまったのだ。それがどこであるかはパッションパープルには知らされていない。
だがそのことは特に気にしていなかった。必要なことであれば話されるだろうし、そうでないなら聞かないだけだ。
頭を使うのが苦手なパッションパープルはそういったことは全てキュリオスオレンジに丸投げしていたのだ。
「そろそろ移動した方が良いかな」
怪人の気配の無いこの場にいても意味はないと判断し、別に場所へ移動しようと立ち上がったパッションパープルだったが、同じタイミングでパッションパープルの電話が鳴る。
「? オレンジからじゃない。でもじゃあ誰が……あ」
連絡してきたのはラブリィレッドだった。
意外な人物からの連絡に驚きながらも、パッションパープルは電話に出た。
「もしもし?」
『あ、繋がっちゃった……いやまぁいいんだけど。えーと、パープルであってるよね』
「あってる」
『そっか。じゃあ良かった。実はちょっとお願いしたいことがあるんだけどいいかな?』
「お願い? 怪人でも出たの?」
『いやそういうわけじゃないんだけど。というかある意味怪人よりも厄介なことなんだけど……えっと、今時間あるかな?』
「問題ない」
キュリオスオレンジからもノインからも特に何をしろとは言われていない。移動しても問題は無いとパッションパープルは判断していた。
『そっか。じゃあさ、ちょっと【グリモワール】まで来てくれるかな。えっと細かい場所は――』
「わかった。すぐに向かう」
『え、あ、ちょ、まだ場所言ってな――』
何やら慌てているラブリィレッドの様子など気にもせず。パッションパープルはすぐに電話を切って【グリモワール】へと向かうのだった。
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「いない」
【グリモワール】に着いたパッションパープルはラブリィレッドの姿を探す。
しかしいるのは見知らぬ魔法少女達ばかり。そこにラブリィレッドの姿は無かった。
「あ、そういえば【グリモワール】のどこで集合かは聞いてなかった」
ひとえに【グリモワール】と言っても、その大きさはちょっとした街ほどある。細かい場所を決めていなければ集合するのは難しかった。
「……ま、いっか。その来るだろうし。適当に待ってたらいいかな」
悩んだ末にパッションパープルが出した答えは待つことだった。
ラブリィレッドに連絡するということも考えたが、結局面倒くさいという思いが勝ってしまったのだ。
そうして待つことしばらく――。
「あぁっ! やっと見つけたぁ!!」
知った声がしてパッションパープルの意識が夢の世界から戻ってくる。
「あ、ラブリィレッド」
「あ、ラブリィレッド。じゃないから! なんで何度も連絡したのに出ないの?」
「連絡?」
パッと手にしたスマートフォンを見てみれば、そこには確かに怒濤のようなラブリィレッドからの連絡。しかしいつの間にか夢の世界に居たパッションパープルはそれに気づかなかったのだ。
「ごめん寝てた」
「寝てたじゃないよホントにもう。探すのめちゃくちゃ大変だったんだから。昨日も学校で――」
「昨日?」
「あ……いや。なんでもない。まぁ呼び出したのはこっちだから今回は大目に見るけど気をつけてよね」
「わかった」
「パープルのわかったは信用できないんだけど。まぁいっか。これ以上問答しても疲れるだけだし」
これまでの経験でパッションパープルの扱い方を少しずつ学んでいたラブリィレッドは、文句を言っても意味がないことを知っていた。
「それじゃあとりあえずついて来てくれる? 目的の場所に案内するからさ」
そう言ってラブリィレッドは、魔鉄鋼の採掘場へとパッションパープルを連れて行くのだった。
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