第167話 猫と遺産 前編

 オレと青嵐寺が退院してからしばらく経って気づけば六月となり、オレ達の制服も冬服から夏服へと替わっていた。

 黄嶋達と始めた部活動も順調と言えば順調だった。黄嶋もあの戦い以来はトラウマを乗り越えられたのか、怪人とも普通に戦えるようになった。

 まぁオレと青嵐寺は入院してる間にあった中間テストの追試とかで色々大変だったりもしたんだが。

 そしてそんなオレ達は今――。


「イエロー、そっち行ったよ!」

「えぇ、任せて! えいっ、ってあぁ!?」

「ニャッ」

「あぁもうなんで逃がしてるの!」

「ご、ごめんなさい!」


 依頼を受けて猫を捕まえようとしていた。とは言っても普通の飼い猫の捜索とは訳が違う。なんでも富豪の飼い猫だったとかで、その隠し財産の在処を猫の首輪に記したらしい。一番最初に猫を捕まえた者に財産を譲渡するとか言って死んだらしい。

 そんで残された家族が死に物狂いで猫の捜索をしてるらしいんだが、オレ達はそんな家族……じゃなく、死の間際までその富豪の世話をしてた執事の依頼で猫を探していた。

 だが猫の捜索は一筋縄ではいかず、ようやく見つけたと思ったら思いのほか俊敏な猫に逃げられ続けていたってわけだ。まさか魔法少女二人がかりでも捕まえられないとは、恐るべし猫。

 でもようやく、見つけた猫だ。ここで逃げられたらまた見つけるのに時間がかかる。なんとしてもここで――。


「まったくあなた達、二人揃って何してるのかしら。ほら、怖がらなくていいからおいで」

「ニャァ」

「あ、ブルー! いつの間に!」

「来てくれたんですね」

「あなた達がいつまで経っても捕まえないからでしょう。ほら、怖がらなくていいからね」

「♪」

 

 こいつ……オレらが捕まえられなかった猫をあっさり捕まえやがった。


「わぁ、すごい零華さん。さすがですね」

「このくらいどうってことないわ。というよりもあなた達が下手なだけでしょ。鬼気迫り過ぎなのよ。この子だって怖がるに決まってるわ」

「うぐっ、それは確かにそうかも……」


 確かに捕まえるのに必死で猫の様子なんてか気にしてる余裕が無かった。そんなオレらが怖かったと言われたらそれはそうなのかもしれねぇ。


「とにかく、この子で間違いないのね?」

「……うん、写真とか教えてもらった特徴とも完全に一致してる。首輪についてる名前も同じだしね。後は依頼主さんに渡したら依頼完了かな」


 捕まえたらすぐに連絡して欲しいってことだったからな。さっさと連絡するか。

 猫を捕まえたことを依頼主に連絡すると、かなり安堵した様子だった。そのまますぐに渡す場所を伝えられ、オレ達はそのままの足で伝えられた場所へと向かった。





 待ち合わせ場所として伝えられたのはあまり人気の無い場所だった。

 誰に見られているのかわからないからってことらしい。全く用心深いこった。いや、そんだけ警戒しなきゃいけねぇってことか。

 待ち合わせ場所に行くと、身なりの良い男が周囲を見回しながら立っていた。かなり落ち着かない様子だった。


「お待たせしました」

「あぁっ! 本当に来ていただけたんですね。今回はなんとお礼を言っていいやら」

「いえいえ。その前にこの子で間違いないか確認していただいていいですか? こちらでも確認しましたけど、念のために」


 そう言ってイエローが猫を入れていたキャリーバックの中を見せる。執事は間違いないかを入念に確認した後、安堵したように息を吐いた。


「はい。間違いありません。ありがとうございます!」

「これで依頼完了ですね」

「はい。報酬はキチンと振り込ませていただきますので」

「うん、じゃあこれで……って言いたい所なんだけどさ。隠れてないで出てきたらどうかな?」


 オレは執事の後ろ……背後の建物に隠れてる奴らに向けて言う。この場に来た時からずっと気配を感じてた。もちろんブルーもイエローもそれには気づいてた。


「あら、気づかれてたのね」


 建物の影から出てきたのは豪奢な服に身を包んだ派手はおばさんと、明らかに柄の悪い男達が数人。なんていうかもうあからさまだな。


「お、お嬢様!? どうしてここに!」

「ご苦労だったわね寺井。猫を見つけてくれて感謝するわ。さぁ、猫を渡してくれるかしら」

「そ、それは……できません」

「へぇ、どうしてかしら」

「そりゃあんたがどう考えても猫じゃなくて遺産目当てだからでしょ」

「……なに、あなた達」

「どーも、猫探しの依頼を受けた魔法少女です」

「へぇ、魔法少女ってそんなことまでするのね。魔法少女って暇なのね」

「おかげさまで」


 全然暇なんかじゃねぇけどな!

 ぶん殴りたくなる気持ちをグッと抑える。この手の奴は意識してか無意識か知らねぇが、平気で煽ってきやがるからな。相手にするだけ無駄だ。


「それでその魔法少女がどうして口を挟んでくるのかしら? あなた達の受けた依頼はその猫を探すことでしょう? だったらもう依頼は終わってるじゃない。後は私達の問題。よそ者が邪魔しないでくれるかしら」

「私達が受けた依頼はこの執事さんに猫を渡すこと。あなたに渡すためじゃないし。それにこの猫もあなたのこと嫌がってるみたいだけど」

「フシャーッ!」

「……いいわ。だったら力尽くよ。幸いここは人気も少ないしね。あなた達、やってしまいなさい」


 女がそう言うと、後ろに居た柄の悪い男達は前に出てきた。


「まぁそうなるよねぇ」


 そうして、オレ達は男共と対峙することになった。


 

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