第163話 希望を抱いて

 魔法少女を続ける理由。

 それを問われた若葉は自問し続ける。なぜ魔法少女を続けたいのか。なぜ魔法少女に憧れたのか。きっとそこにこそ晴輝の問いの答えがあると思ったから。


「私が魔法少女を好きになったのは……私が魔法少女に憧れたのは、私の魔法少女としての根本は……」


 そして若葉は思い出した。自分が魔法少女に深く憧れを抱くようになったきっかけの日のことを。





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 幼少期、ごく自然と気づけば若葉は魔法少女に興味を持つようになっていた。他の子供達がやっていたように魔法少女ごっこにも興じた。だが、若葉はそこで終わらなかった。

 他の子供達が魔法少女になれないという現実を受け入れて成長していくなかで、若葉だけは魔法少女への憧れを抱き続けていた。

 それは、他の子供達とは違う経験をしたからに他ならない。

友達と遊んだ日の帰り道だった。大事にしていた魔法少女のキーホルダーを無くした若葉は、友達と別れた後もずっとそのキーホルダーを探し続けていた。

だが、探せども探せども見つからず。いよいよ本格的に日も暮れ始めたその時、若葉の前に現れたのが本物の魔法少女だった。

その場に現れた魔法少女は若葉がキーホルダーを探していることを知ると何も言わずに一緒に探してくれた。そして若葉がどれだけ探しても見つけられなかったキーホルダーを、まさしく魔法で見つけ出してくれたのだ。

それまで怪人と戦う華々しい姿しか知らなかった若葉だったが、なぜかその姿が深く印象に残った。


「はいこれ。探してたキーホルダーだよね。もう無くしちゃダメだよ」

「うんっ、ありがと!」

「それじゃあ私はこれでって……言いたいけど、もう暗くなっちゃったね。よし、家まで送ってあげる」

「ほんとっ!」

「うん。じゃあ行こっか」


 その魔法少女は、特段有名な魔法少女というわけでは無かった。数多居る魔法少女の内の一人。それでも若葉はずっと好きだった魔法少女という存在が一緒に帰ってくれるというだけで満足だった。

 そして子供らしい好奇心でもって、気になっていたことを聞き続けた。

 そんな質問に対して、その魔法少女は困ったりしながらも一つずつ丁寧に答えていった。


「ねぇ、わたし、大きくなったら魔法少女になれるかな?」

「んー、君は魔法少女になりたいの?」

「うんっ!」

「あははっ、まぁ表向きは華々しいもんねー。実際はそうでもないんだけど……」

「? どうしたのー?」

「あ、ごめんごめん。なんでもないよ。そっかぁ。魔法少女になりたいのかぁ」

「だからね、どうやったら魔法少女になれるかおしえてほしいの!」

「うーん、それは難しい質問だね」


 若葉が出会った魔法少女は、有名ではなかったが経験豊富な魔法少女だった。だからこそ多くのことを知っていた。魔法少女として活動するということが、決して華々しいだけではないということを。

 その現実を伝えてしまうのは簡単だ。だが、子供の夢を奪うのは魔法少女らしくはないと思った彼女は、若葉に自分がずっと大事にしている信条を伝えることにした。


「希望を捨てないことかな」

「きぼう?」

「ちょっと難しかったかな? そうだなぁ。希望っていうのはね、光かな?」

「???」

「わからないかぁ。なんて言えばいいんだろうなぁ。あ、そうだ。ねぇねぇ、ピーマンは好き?」

「きらい。苦くておいしくないんだもん」

「じゃあケーキは好き?」

「すき! 甘いのだいすき!」

「じゃあ今日の夜ご飯がピーマンの野菜炒めだったらどうする?」

「えー、いやだ。ピーマン食べたくない」

「じゃあピーマン我慢して食べたらケーキあげるって言われたら?」

「それなら……頑張って食べる」

「そう。その気持ち。その頑張ろうって気持ちがね、希望なの。この場合はケーキが若葉ちゃんにとっての希望ってことになるのかな?」

「希望ってケーキなの?」

「そういうわけじゃないんだけど。あー、ダメだ。私の例え話が下手過ぎる。もういいや。いい、若葉ちゃん。ちょっと難しいかもしれないけど、教えてあげる。希望っていうのはね、明日を生きるための力なの。その希望を持ち続けられたら、いつかきっと魔法少女になれるかもね」

「??? 希望があれば、魔法少女になれるの?」

「ただ魔法少女になるだけじゃダメだよ。希望を持ち続けて、色んな人に希望を与えられるようにならなきゃ、本当の魔法少女とは言えないんだから。まぁそんなこと言うと私もまだまだなんだけどさ」

「んー?」

「とにかく、希望を忘れないで。どんな時も、どんな状況だって、きっと希望はあるから。心が折れるようなことがあっても、希望さえ忘れなければきっと未来に繋がる光になるから」

 

 その魔法少女の話は、子供だった若葉にとっては難しかった。それでも、『希望』という言葉だけは強く若葉の心に刻まれた。

 それが、若葉が本当の意味で魔法少女に憧れるようになった日の出来事だった。





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「あぁ、そうだ。思い出した」


 思い出した過去の情景が若葉の心に力を与える。


「希望。魔法少女になって人に希望を与えられる存在になりたい。いつしかそう思うようになって……それが私の根源。希望を忘れないこと、希望を人に与えること。それができる魔法少女になりたいって」


 カチリと、若葉の中で何かが噛み合った瞬間だった。

 途端、爆発的に膨れ上がった魔力が若葉の、ホープイエローの体からあふれ出す。


「っぅ! これは……」

「ありがとうレッド。おかげでやっと思い出した。私にとって魔法少女がなんなのか。どうして魔法少女を続けたいのか。答えはいつだって私と一緒あったのに」


 ホープイエローの魔力に呼応するように、その手に持つ弓が激しい光を放つ。


「私はホープイエロー! 希望の力で未来を切り開く魔法少女です!」

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