第128話 敗北

 オウガの体から発せられる熱が急に膨れがあり、攻撃し続けていたオレのことを吹き飛ばした。

 驚きながらもなんとか着地したオレだったが、オウガの変異を見て再び驚くことになる。

 オウガの全身が赤く染まっていた。それこそまさに赤鬼のように。


「っぅ、この距離でも熱が伝わってくるなんて」

「レッド、大丈夫?」

「うん、大丈夫。それより、今の攻撃で決め切れなかったのはちょっと痛いかも。次はたぶん対処してくる」

「その魔道具の力ですよね。すごい勢いでしたけど」

「手甲の方はともかく、足の方は本来の用途とは違うけどね」


 魔道具の力でパンチやキックの加速。不意を突くにはもってこいだが、こんなのが通用すんのは一回だけだ。二回目が通じるような相手じゃねぇ。

 それになんか……今のオウガはもっとヤバい気がする。


「ラブリィレッドそしてホープイエローよ。構えるがいい」


 オウガの様子は発する熱とは対照的に冷静に見えた。

 そしてまっすぐとした目でオレ達のことを射貫いていた。その目に射貫かれた瞬間、まるで蛇に睨まれた蛙みたいに体が硬直した。

 本能的恐怖が、原始的な捕食者への恐怖が、オレ達の体を縛っていた。


「っぅ、イエロー!!」

「きゃぁっ!」


 恐怖を意思の力で無理矢理押さえつけ、隣にいたイエローを蹴り飛ばす。言葉でどうにかできる状況じゃなかった。

 

「ぬんっ!」

「くっ」


 オレがイエローのことを蹴り飛ばした直後、オウガが目にも止まらぬ速さで突進してきた。そしてそのままオレの腕を掴んで走りだした。


「レッド!!」


 叫ぶイエローの声すら遠くなりながら、連れ去れたオレはそのまま校舎の壁に向けて投げ飛ばされた。


「あがっ!」

「うぉおおおおおおっっ!!」

「っ、このっ!」


 ダメージくらって呆ける時間もくれねぇってのかよ!

 壁に叩きつけられた衝撃でチカチカする視界の中、こっちに向かってくるオウガをなんとか避ける。

 その手にはやはり大剣が握られていた。オウガをその大剣をまるで子供が木の枝を振り回すように簡単に振り回していた。

 これじゃ安易に近づくこともできねぇ。

 だが、オレがいつまでもビビって逃げると思うなよ!

 オウガの剣の動きは速いし、強力だ。だが目が慣れてくればわかる。

 あいつの剣の腕は教官よりも下だ。だったらいつもあの剣をくらってるオレなら対処できる!


「てりゃっ!!」


 オウガの斬撃をギリギリで躱しながら懐へと潜り込む。

不思議な感じだ。最初よりもずっと体が動く。いつも以上に魔力が体に馴染んでる気がする。

オウガの力を見て危機にさらされた本能が底力を引き出してるかもしれない。

いや、理由なんかなんでもいい。今この瞬間こいつと戦えるだけの力を、少しでもこいつに近づくだけの力を引き出せるなら!


「とりゃああああああっっ!!」


 地面に手をつき右足で蹴りを入れた後に今度は左足、そのまま勢いをつけて両足でオウガの鳩尾に蹴る。カポエイラの真似事のような動き。それでも魔法少女としての身体能力に頼れば再現可能な動きだ。


「良い蹴りだ。だがその程度では足りん!!」

「うわぁっ!」


 嘘だろ、ただの剣圧だけでオレのことを吹き飛ばしやがった!

 オレの動きがよくなってるのと同様、オウガの動きも少しずつ速くなりはじめていた。

 ようやく力の差を埋め始めれたと思ったのに、ここに来てさらにあげてくるのかよこいつは!

 だがそれだけじゃねぇ。オレの本能的な部分が告げていた。こいつはまだ本気を出していないと。この赤くなった姿。それだけがオウガの真の力じゃないと。

 こいつにはまだ底がある。深くて、深すぎて見えない底が。

 オウガはオレが力を出せば出すほど、それに呼応するように力を増してる。ったく、冗談じゃねぇぞ。


「くらうがいいっ!!」


 オウガが大剣を地面に向けて振り下ろす。それだけで地面が揺れた。

 当たりはしなかったが……って、違う!

 後ろに跳んでオウガの一撃を避けたオレだったが、すぐさま気づいた。

 地面の中を巨大なエネルギーの奔流が走っていることに。しかもそれはオレに向けてどんどん近づいていた。

 まずい、空中じゃ避けようにも満足に避けることもできねぇぞ!


「もう遅い。『鬼我天翔撃』!!」


 オウガの言葉と共に地面から飛び出した赤い力の奔流が襲いかかってくる。

 ヤバい、避けれねぇ!!

 とっさに防御の姿勢をとる。


「あぁああああああああっっ!!」


 全身がバラバラになりそうなほどの衝撃が全身を貫く。


「あ、ぐ……」


 なんとか耐えきった。でも、着地の姿勢をとらねぇと。

 このままじゃ地面に叩きつけられる。

 でも、その判断はあまりにも遅すぎた。


「っ!」

「沈むがいい」


 目の前にオウガがいた。しかも拳を振りかざした状態で。

 全身を悪寒が貫く。だが、今のオレはまともに動くことすらできない状態だった。


「『焔想の――』」

「遅いっ!」


 オウガの拳が体にめり込む。

 その次の瞬間にはオレの体は校舎の壁を突き破って空き教室の中へと吹き飛ばされていた。


「あ……ぐぅ……ぁ……」


 や、ヤバい。指一本動かせねぇ。

 全身……バラバラになったかと思ったじゃねぇか……。


「がふぅっ!」


 たぶん今ので骨がいかれた。まだ繋がってるだけラッキーと思うべきなのか?

 クソ、死ぬほど痛ぇ。つーか、やばい。意識が……。

 視界が白んで……。

 起き上がろうとするオレの意思に反して体はまったく動いてくれない。


「こんな……ところで……」


 そして、そのままオレの意識は闇の中へと沈んでいった。

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