第125話 魔法の効かない体

「あの大剣、片手で持つとかあり得ないでしょ」

「なんて腕力……」


 オウガの持つ大剣はかなりでかい。下手したらオレの身長と同じかそれ以上あるんじゃないかってくらいだ。

 そんな大剣をオウガは片手で軽々と持ち上げていた。威圧感はさっきまで以上。


「ふぅ……行くよ」


 呼吸を整えて杖を取り出す。あの大剣を前にしたらあまりに頼りなく見えるけど、まぁそれでも無いよりはマシだろ。

 この杖があればさっきよりも魔法の威力を上げれるしな。


「後方からの援護は任せてください」

「前衛はブルーに任せたいんだけどね。ま、文句は言ってられないか」

「撃ちます!」


 イエローが矢を放つのと同時に駆け出す。

 放たれた矢の数は全部で四つ。時間差で放たれた矢を追うように走る。

 あいつは絶対に矢を防ぐはずだ。その隙に魔法をたたき込む!


「なるほど。そう来るか。だがそれも甘い」

「っ! 嘘でしょ!?」


 軽く大剣を一薙ぎした瞬間、イエローの放った四つの矢が消し飛んだ。

 ただ剣を振った衝撃波だけで矢を……。


「レッド、危ない!」

「うわぁっ!」

「戦闘中に悠長に考え事とはずいぶんと余裕だな。もっと本気になれ。もっと、もっとだ!」


 頭上から振り下ろされた大剣を横に飛んで躱す。地面が陥没し、破片が周囲に荒れ狂う。

 この大剣の威力、下手したら教官と同じレベルなんじゃねぇか!?

 だが、今は振り下ろした直後、隙だらけだ!!


「『炎想の愛ラブオブファイア――紅焔球プロミネンス』!!」


 前にクラカッティと戦った時に使った火球の強化版、さっきこいつにぶち当てたのより威力は数段上だ。

 魔法がオウガに直撃した瞬間、凄まじい爆発が巻き起こり視界が真っ赤に染まる。


「どうだっ!」


 確かな手応えがあった。避ける余地もなく、完璧に命中した。剣で防いだとしてもあの至近距離なら余波は受けるはず。ダメージは避けられねぇはずだ。


「悪くない火力だ。だが一つ教えてやろう」

「えっ」


 爆煙の中から手が伸びて腕を捕まれる。

 そして爆煙が晴れた時、そこにいたのは無傷のオウガだった。

 オレの魔法が直撃したにもかかわらず、その体には傷一つついていない。


「この俺に魔法は効かない。俺の体は全ての魔法を無効化する」

「なっ!?」


 それじゃあ最初の魔法が効いてなかったのも、拘束しようとした時の鎖が弾けとんだのも全部こいつに魔法が効かなかったからだってのか!?


「ふっ!」

「がふっ!」


 鳩尾に蹴りがたたき込まれる。まるで巨大な鉛の塊がぶち当たったみたいな威力。

 そのまま飛ばされたオレは地面をゴロゴロと転がされる。


「あ、あり得ないでしょ。ゲホッ、ゲホッ!」

「レッド!」


 今の一撃でも耐久力をかなり持っていかれた気がする。

 っていうかあいつ、今決めれたのにわざを蹴りだけで済ませやがったなこのクソッタレが。

 腕を捕まれてるっていうあの状況。オレの力じゃあいつを振りほどくことはできねぇし、大剣を振り下ろせばそれで終わりのはずだった。

 それだけじゃねぇ。蹴った後に手を離さなくても掴んだままにしときゃなぶり殺しにできたはずなのに。わざと手を離しやがった。

 完全に遊んでやがる。

 本気のさせてみろとか抜かしておきながら、あいつ自身はこの戦いを完全に舐めきってる。いや、こんだけやりたい放題やられてりゃ舐められて当然か。


「大丈夫ですか!」

「ゲホッ、だ、大丈夫……まだ、全然やれるから……」

「待ってください。すぐに回復魔法を」


 イエローがオレの体に回復魔法をかけて癒やしてくれた。

 おかげで少しずつ蹴りのダメージが和らぐ。ただ一発蹴られただけでこの様かよ。


「イエロー、あいつの体には魔法が効かないらしい」

「えっ、魔法が効かないって。それじゃあ」

「本当かどうかはわからないけど、まったくのはったりってことはないと思う。私の魔法も全部弾かれたから」


 なにかからくりがあるにせよ、今現状魔法が通じてないのは事実だ。

 この現状をなんとかしない限り、オレ達に勝ち目はねぇ。

 思わずぎゅっと拳を握りしめる。

 どうする、どうすりゃこいつに勝てるんだ。

 魔法が効かない体に加えてあの破壊力。しかもまだ全然本気を出してねぇと来た。

 見えねぇ、こいつに勝つ方法が。

 魔法少女として強くなったからこそ、なってしまったからこそわかる。

 今のオレとオウガとの間にある絶望的な力の差が。

 勝てない、そんな絶望感がオレの心の中に巣喰い始めていた。


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