第117話 晴輝と若葉

 朝、軽く運動するつもりで走ってたら黄嶋とぶつかっちまった。

 いや、軽く状況を整理するとマジでこうなんだが、やべぇ、あまりに急なことでうまく頭が回ってねぇ。

 なんでこんなとこに黄嶋がいやがんだ。こいつはこっちが地元じゃねぇはずだし、まだ学校に行くにはまだ少し、というかだいぶ早い時間だ。

 こんな時間にこいつがここをうろつく理由が見当たらねぇ。


「黄嶋、お前なんでこんなとこに……いや、そうじゃねぇな。悪い、前見てなかった」


 どんな事情があるにせよ、オレがぶつかっちまったのは事実だ。

 転んだまま呆然としてる黄嶋に向けて手を差し出す。


「え、えっと……ありがとう、ございます……」


 黄嶋は何やら困惑した様子でオレが差し出した手と顔を交互に見ていたが、ようやくオレの意図がわかったのかおずおずとした様子でオレの手をとって立ち上がった。

 なるほどな。オレが手を差し出すようなまねすると思わなかったってことか。こいつの中のオレのイメージどうなってんだよ。

 若干苛立つ気持ちを抑えるために小さく息を吐く。こんなことでイライラしてたらキリがねぇからな。


「なんでお前こんなとこにいんだよ」

「え、えっとその……ちょっとまほ、じゃなくて、その、このあたりに用事があって」

「お前が?」

「え、えっとその……うぅ、どうしよ。魔法少女関連のことを紅咲君に教えるわけにはいかないし……」

「あ?」


 なに小声でぶつぶつ言ってたんだ?

 まぁこいつは遊び倒すような性格じゃねぇことはなんとなくわかるし、何か事情があるんだろうが、別にそこまで踏み込む義理もねぇ。

 というかこいつもオレに踏み込んで欲しくはねぇだろうしな。


「まぁなんでもいいけどよ。まだ学校始まるまでは時間あるんだろ? それまでどうすんだよ」

「え、えっと、それは……」


 聞いた瞬間に若干後悔する。ただちょっと気になってた程度なんだが、聞いたうえでどうするかを何も考えてなかった。

 別にどうこうする理由もねぇんだが、こっちから聞いといて完全に無視決め込んだら性格悪すぎるだろって思うしな。

 今は時間的に七時にもなってねぇ。学校に行くには早すぎる時間だ。こんな早朝じゃどっかで時間を潰すこともできねぇだろう。


「さ、散歩でもしてようかな、なんて……」

「お前、一時間以上散歩する気かよ」

「うっ……」


 若干ばつの悪そうな顔をして目を逸らす黄嶋。まぁやろうと思えばできねぇことじゃないんだろうが、それでも学校のある日の朝からやるようなことじゃねぇ。とはいえ、コンビニやらネカフェで時間潰せとも言えねぇしな。

 だからってこいつを助ける義理も――。

 

 くぅ。


「…………」

「あ、いや、その、ち、違うんです! 別に朝ご飯を食べてないとか、そういうわけじゃなくて、あの、そのえっと……」


 顔を真っ赤にしながらパタパタと手を振る黄嶋。というか完全に自爆してんぞお前。

 何も言わなきゃ聞かなかったでごまかせたのによぉ。

 ったく、朝にあんな夢見ちまったせいだ。こんなの全然オレらしくねぇってのに。


「~~~~っ、あぁもう仕方ねぇな!」

「え?」

「お前、この辺にダチとかいるのか?」

「その……」

「いねぇんだな」


 なんとなく反応で察した。

 まぁ学校でも基本的に一人でいるようなやつだしな。地元は知らねぇが、こっちの方にダチはいねぇんだろう。

 仕方なく、これはあくまで仕方なくだ。こいつが断ったらそれで終わりだしな。

 誰に言うとでもなく、オレは言い訳しながら黄嶋に言った。


「お前、家に来るか?」

「え……え、えぇえええええええええっっ!!??」


 早朝の人の少ない通りに、黄嶋の声が響き渡った。


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