第112話 トライアドバリスタ

「喉元が弱点か。まぁわかりやすくていいけど」

「あの場所に魔力の流れが集中してる。というより、あそこに何かあるって感じかしら。あそこを撃ち抜けば倒せるかどうかはともかく、確実にダメージを与えれるはずよ」

「あの一撃が命中したらさすがに倒せると思いたいんだけど」


 でも、さっきの魔法少女達の一撃……『アップル流星群』だったか? あの一撃は相当強力だった。たぶん、個人で出せる火力としては相当高い部類に入るだろう。

 教官とかあぁいうぶっ飛んだ火力を持ってる奴を除けばっつう話だが。それでも今のオレが普通に出せる火力よりは高い気がする。

 それでも、あの怪獣が倒れるほどの火力を出せても倒しきることはできてねぇ。ダメージは確かにありそうだが、倒すにはほど遠いって感じだ。


「さっき試しにちょっと斬ってみたけど、やっぱりあの体相当硬いわよ。滅多な攻撃じゃ通用しないでしょうね。物理はもちろん、魔法もね。動き自体はそこまで速いわけじゃないのが救いかしら」

「耐久力に全振りしてるけど、あの巨体だから破壊力も馬鹿にできないってのが厄介というか……」


 たぶん弱点については他の魔法少女達も気付いてるんだろう。さっきからちょくちょく狙ってる奴らもいるからな。だが、さすがに弱点部位だけあって硬さも相当なのか全部弾かれてばっかりだ。

 あそこを貫ければいいってわけなんだが、そう簡単にはいかねぇよなぁ。

 やっぱり当初の予定通り合わせ技に賭けるしかねぇか。


「私達がこの場にいる全員を出し抜くには、やっぱりあの技にかけるしかないんでしょうね」

「そうだね。みんなが手をこまねいてるうちに仕留めよう」


 この場にいる魔法少女達は目的こそ一緒だが、決して仲間ってわけじゃない。もちろんわざと邪魔するような真似はしねぇが、誰が倒せるかっていうのを競ってる部分もある。


「やろう。今しかチャンスはないよ」


 もうそろそろ戦い始めて結構な時間が経つ。他のチームも対抗策を考えてるだろう。もたもたしてたら合わせ技を使う前に倒されちまう。

 オレとブルーは頷き合って、後方から攻撃し続けていたイエローのもとに向かう。

 イエローは最初に言った通り後方から弓で攻撃し続けていた。だが、あの表情を見る限りあまり芳しくなかったみたいだな。


「あ、二人とも。どうでしたか?」

「とりあえず弱点部位は見つけてきたわ」

「そうですか。やりましたね! でも、こっちの方はあんまりでした。色んな攻撃を試してみたんですが、どれも効かなくて」

「やっぱり普通の魔法じゃあんまり効果ないみたいだね。それじゃさっそく印つけようか。任せちゃっていいよね」

「はい。場所さえ指定いただければ。これに魔力を込めてください」


 そう言ってオレとブルーに手渡してきたのはイエローの作りだした矢だった。

 なるほど。これで印つけるわけか。あの距離だと直接つけにいくのも危ないからな。みんなが弱点を狙ってるのに近づけるわけねぇし。


「できた」

「私もできたわ。これでいいの?」

「はい。十分です。行きます」


 三つの矢を同時につがえたイエローが怪獣の喉元に向けて矢を放つ。そしてその矢は寸分たがわず狙った場所へと当たり、怪獣の喉元に印が刻まれた。


「おぉ、お見事」

「三つ同時に当てるなんて。流石の腕ね」

「あはは、あれだけ大きいと流石に狙いやすいですから」

「それでも三つ同時は流石だと思うけどね。でもこれで準備は整ったよね」

「はい。やりましょう」


 オレ達三人の合体技。最初に言い出したのはイエローだった。オレ達は一人一人の戦闘力を掛け合わせることができれば、絶大な威力の一撃を生み出せるのではないかと。

 もちろん最初はオレもブルーも断った。そこまで協力する気はなかったからな。だが、あいつはそれを見越してたのか、グロウのことを引き合いに出してきた。

 あのレベルの怪人と相対した時、逆転の一手は必要じゃないのかと。

 確かにグロウと戦った時、もっと強力な魔法が使えればトイフェルシュバルツに助けられるような無様な真似は無かったかもしれない。

 そう考えたオレ達は、手段の一つとして持っておくのは悪くないかもしれないと結論づけて、合体技の練習を始めた。

 だが、問題はそこからだった。口でいうほど技を合わせるというのは簡単じゃなかったし、三人の魔力を綺麗に合致させないとうまく撃てなかった。ブルーはともかく、精密な魔力操作が苦手なオレはとにかくやりづらかった。

 まぁそれもあって最近魔力操作に精を出してるわけなんだが。


「レッド、あなたにかかってるということを忘れないでね」

「わかってるって。今度こそちゃんと合わせるから」

「それじゃいきます。トランスフォーム!」


 イエローの声に合わせて、弓がその形状を変化させ始める。より大きく、弓からバリスタに近い形状へと。


「私もいくよ、トランスフォーム!」

「トランスフォーム」

「「「ウェポンコンバイン——『トライアドバリスタ』!」」」


 イエローに続いて、オレとブルーも武器の形状を変化させる。

 オレの杖が、ブルーの剣が姿を変えてイエローの武器と合体する。

 そうして出来上がったのがオレ達三人の合体武器。

 その大きさはオレ達三人がかりでようやく持てるほど。オレが持ち手の部分を掴み、イエローとブルーが板ばねの部分を支える。


「お、おも……」

「この重さだけは本当に課題ね」

「でもやるしかありません。私達が狙いをつけるので、タイミングを見て撃ってください」

「おっけい、任せて!」


 オレ達は狙いをつけながら慎重に魔力を注ぎ込む。誰か一人が間違えたらバランスが崩れ、武器ごと崩壊しかねない。

 想像以上に繊細な魔力操作を要求される。


「レッド、ズレてるわよ!」

「わかってるから焦らせないで!」

「ぐ、ぐぐ……」


 後は狙いをつけて撃つだけなのに、なかなかうまく矢が装填できない。オレ達三人の魔力がズレてるからだ。

 そして、息を合わせるのに四苦八苦してるオレ達の前で再び怪獣が動き出した。どうやらさっきくらったダメージはもう大丈夫らしい。


「あの方向……マズいわよ!」

「あの方向ってまさか……学校のある方じゃ」

「っ!」


 急に進む向きを変えた怪獣の先にあったのはオレ達の学校だった。まだ少し距離はあるとはいえ、このまま進まれたら遠くない内に学校に辿りつくだろう。

 もうとっくに避難してるだろうが……それでも、


「そうは……させない!」

「えぇ、絶対に止めてみせるわ」

「学校には行かせません!」


 その瞬間、何かがカチッとハマった気がした。それまで何かに防がれるように詰まっていた魔力の流れが動き始める。

 そして、オレ達三人の魔力が込められた必殺の矢が完成した。

 

「今よ!」

「今です!」

「いっけぇええええええええええっっ!!」


 オレがトリガーを引くと同時、凄まじい勢いで矢が発射された。

 

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