第86話 鬼教官と巻き込まれ事故

「たぶん、言ってた場所ってここ……だよね?」


 俺の聞き違いでなければ、さっき会った魔法少女の言ってた場所はこの場所のはずだ。周辺の建物の中で一番大きい場所。


「確かにでかい。というか巨人でも入るのかってくらいなんだけど」


 扉……門って言った方が正しいのかもしれねぇが、その大きさも普通じゃねぇ。俺の身長の三倍くらいはあるんじゃねぇか?

 

「……入っていいんだよね?」


 確かこの場所に教官……とかいう奴がいるんだったか。青嵐寺もここにいる可能性が高いって話だし。とりあえず入るしかねぇか。


「どうかしましたか?」


 オレが扉の前をうろうろしていると、扉の前に立ってた魔法少女が近づいてきた。


「その、えっと……ここに用事があって」

「用事? あぁ、あなたも教官の指導を受けにこられたんですね!」

「え? いや、そういうわけじゃ」

「そういうことでしたらどうぞ中へ! 今ちょうど教官が指導をされていますから」

「え、いや、だから——」


 オレの話を聞きもせずにそいつは扉を開いてオレを中へと誘導する。


「えっと……まぁいいか。中に入りたかったのは事実だし。でも案内くらいしてくれてもいいのに」


 扉の大きさに負けず劣らずというか、中もめちゃくちゃにでかい。柱が何本も立ってるし……でも何本か折れてるのはなんでだ? かなり太い柱なんだが。

 だが、そんなオレの疑問はその直後に解消された。


「っ?!」


 奥から聞こえてきた爆音に思わず身を竦ませる。

 そしてそれとほぼ同時に奥から魔法少女が吹き飛ばされてきた。


「がっ……」

「だ、大丈夫?!」

「うぅ……」

「完全の伸びてるし」


 なるほど、この柱の惨状はこういうことか。でも、魔法少女が飛ばされてくるとかいったい奥で何やってんだよ。

 飛ばされてきた奴は気は失ってるみたいだが、思ったほど重傷じゃなさそうだ。音と衝撃的に骨の一本や二本くらい折れててもおかしくないと思ったんだがな。さすがに魔法少女ってところか。


「でもだからってこのまま放置するわけにもいかないよね。えっと……」


 どっかに救護室みたいな場所ねぇのか?

 こういう場所ならありそうなもんだが。


「……仕方ない。とりあえず連れていくしかないか。奥に行ったらわかるかもしれないし」


 気絶した魔法少女を背負って飛んできた方へ向かう。たぶんそこにさっきから聞いてた教官とやらがいるんだろうと思う。


「よいしょっと」


 奥へと進んでいくと、何かがぶつかり合うような激しい音と声が聞こえてきた……って、あの扉の横の穴……あの穴からこいつ飛んできたのか。壁までぶち抜いてあそこまで飛んできたのかよ。何十メートルあったと思ってんだ。


「えっと、おじゃましまーす——ひぃっ!?」


 扉を開けて中に入った途端、真横の壁に魔法少女が叩きつけられる。

 って、こいつだけじゃねぇのか。

 周囲を見渡してみれば、さっき飛ばされてきた魔法少女と同じように倒れている魔法少女が多数。全員壁にもたれかかるようにして倒れていた。


「どうした貴様ら! 腑抜けもいいところだな! その程度の実力で怪人と戦うつもりか!」


 ビリビリと空間を震わせる怒声が響く。声の方を見て見れば、複数人の魔法少女。そしてその中心にいたのは一人の魔法少女だった。

 変身してない時のオレと同じくらいの身長か? ってか、やけにでかい剣を持ってやがんな。あいつがこの惨状の原因ってわけか。

 そしてその中でそいつ以外に一人だけ立ち上がった奴がいた。


「ほう。やはりお前はまだ立ち上がるか。良い気概だ、ブレイブブルー」

「はぁ、はぁ……っ……」


 青嵐寺……いや、ブレイブブルー。やっぱりここに居やがったか。

 めちゃくちゃボロボロじゃねぇか。

 青嵐寺はそんなボロボロの状態でも立ち上がり、戦う意思を示していた。


「いいだろう。だがその前に——そこのお前」

「え? わ、私ですか?」

「他に誰がいる。まさか突っ立って見ているだけのつもりではないだろうな?」

「いや、そのつもりだったんですけど……」

「甘ったれるな!」

「うぇっ?!」

「ここに踏み入った以上私の流儀に従ってもらう。異論は認めん」

「暴論過ぎるっ!」

「不服だと言うなら力を示してみせろ。そうすれば話くらいは聞いてやろう」

「む……」


 明らかにオレのことを挑発するような物言い。

 狙いはもちろんわかってる。わかってるが……舐められたままってのも納得はいかねぇ。

 背負っていた魔法少女を下ろして、ブレイブブルーの隣に並ぶ。


「どうしてここにいるの?」

「色々あったの。話は後でする」

「……まぁいいけど」

「準備はいいな」

「はい」

「もちろん」

「なら、存分に力を発揮するがいいっ!」

 


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