第36話 動き出すヴィラン

 魔法ヶ沢市から遠く離れた場所に『ウバウンデス』の本拠地はあった。

 空中に浮かぶまるで城のように巨大な戦艦。それが『ウバウンデス』の本拠地だった。

 その中の一室で、幹部怪人達による会議が行われていた。


「フレザードが失敗したようだな」

「っ……はい。申し訳ございません」


 会議室の最奥。そこに座るのは『ウバウンデス』の首領ロブオブヴァーミリオン。漆黒の外套に身を纏っているため、その姿をはっきり確認することはできなかったが、座っているだけでも周囲にいる他の怪人と比べても倍以上の大きさがあった。

 座っているだけで周囲を威圧する存在感。その場にいる幹部たちは一様に頭を垂れ、嵐が過ぎ去るのを待つようにジッとしていた。

 なかでも一番の怯えを見せていたのは四人いる幹部のうちの一人、レプトデスだった。


「レプトデス。今回の作戦を立案したのはお前だったな」

「は、はい……」

「フレザード、最近貴様が雇った新しい怪人だったな。潜在能力の高さと怪人らしい野心の強さ。それを見込んで迎え入れたと」

「フ、フレザードは少々性格には難がありましたが、それでも潜在能力の高さは本物でした。やがては上級怪人にも届くのではないかと考えていたのですが……」


 魔法ヶ沢市への襲撃。その作戦を立案したのはレプトデスだった。

 新たに雇い入れた怪人の実力を測ること、そして人間を攫って首領への手土産とする。そうすることで首領にさらに気に入られ、他の幹部と差をつける。それが今回のレプトデスの目的だった。

 しかしその目論見はいともたやすく覆されてしまった。魔法ヶ沢市に新たに現れた魔法少女、ラブリィレッドの手によってフレザードは魔法少女統括協会に捕まり、捕まえていた人間は全員解放されるという考えうる限り最悪の事態に陥ってしまったからだ。

 そして当然のことながら作戦を立案したレプトデスの責任は追及される。


(くそ、なんなのだあの魔法少女は。少し前まであんな魔法少女は存在しなかっただろう! クソクソクソッ! 新米魔法少女ごときに私の作戦が防がれるとは……)


 ギリッと歯を食いしばるレプトデス。レプトデスが魔法ヶ沢市を選んだのは、魔法ヶ沢市を拠点としている魔法少女がいなかったこと。そして土地に満ちる魔力の純度が高かったからだ。

 絶好の穴場を見つけたと考えていたレプトデスだったが、それが一転今のこの状況だ。

 レプトデスとしてはラブリィレッドのことを恨まずにはいられなかった。


「お前も今のオレの状態は知っているだろう」

「は、はい……」

「忌々しい魔法少女共のせいで、この体は傷つき、復活には多大な力が必要だ」

「っぅ……」


 首領ロブオブヴァーミリオンから放たれる圧力が重さを増し、レプトデスはその重圧で潰されてしまうのではないかと思ったほどだった。


「そして今もまた魔法少女に目論見を邪魔された……どこまでも忌々しい存在だ。魔法少女というのは」

「つ、次こそは必ず成功させてみせます! ヴァーミリオン様の期待に応えてみせます!」

「次こそは……か。まぁいいだろう。しかし次はないと思え」

「は、はい……」


 己の心臓がバクバクと脈打つのを感じながら、必死に頭を下げるレプトデス。

 この場ですぐに切り捨てられなかったことにレプトデスは心の底から安堵していた。


「ふむ……しかし、レプトデスは心配したが。あの地を見過ごすのはあまりにも惜しいか……魔法少女共にしてやられたままというのも癪に障る。ヴァンプメア。次はお前に任せるとしよう」

「ふふっ、お任せあれ♪」


 もう一人の幹部であるヴァンプメアはたおやかに一礼すると、その場からスッと溶けるようにして消え去る。


「さて、他の者達にも動いてもらうとしよう。ようやく体の調子も戻ってきたんだ。それを魔法少女に横槍を入れられることほど面白くないことはない。邪魔な魔法少女達は叩き潰す今度こそ必ずな。そのためにはお前にも役立ってもらうぞ——」

「む……」


 そう告げる首領の視線の先にいたのは、最初からずっと扉の位置にもたれかかっていた怪人。


「怪人猟兵『血鬼壊戦』の団長オウガ。せっかく雇ったのだ。その力、存分に振るってもらおうとしよう」

「いいだろう。俺の求める、血沸き肉躍る戦場が得られるのであればな」


 オウガはそれだけ言うと、部屋の中から出て行く。


「さぁ、魔法少女共よ。私は戻って来た。今度こそ……今度こそ必ず貴様らを叩き潰してくれる」

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