第28話 怪人襲来

 空花が『マウンテンファイト』で亮平をボコボコにして、罰ゲームの買い出しに行かせてからしばらく。

 オレと空花はレースゲームやシューティングゲームに興じながら亮平が戻って来るのを待っていた。


「くそっ、お前ゲーム強すぎんだろ!」

「はっはっは、私が強いわけじゃない。ハルが弱いだけだ」

「うっせぇ!」

「まぁそれでも亮平よりはずっとマシだけど。亮平は少し脳筋過ぎる。せっかくの恵まれた能力を頭が残念過ぎるせいで全く活かしきてていないからな」

「確かにな。あいつが駆け引きとかそういうのちゃんと覚えたら負けることもありそうだ。今のあいつに負ける気はしねぇけど」


 空花と亮平の勝負、確かに亮平はかなり腕を上げてたみてぇだが、それでもまだまだって感じだ。あの調子ならオレも苦戦はしただろうが、負けることは無かっただろうな。


「その点で言うならハルはずいぶんいい腕をしてるな」

「お前、全部でボコボコにしといて言うことかよ」

「いや、実際本当にそう思ってるぞ。磨けば相当伸びるんじゃないか?」

「はっ、別にそこまでしてゲーム極めようとは思わねぇよ。そんな暇もねぇしな」

「なんだ、またバイトの話か?」

「あぁ。そろそろ別のバイト見つけねぇとな」

「そんなに金が必要なのか」

「当たり前だろうが。金なんていくらあっても困ることねぇんだよ。先のこと考えてもな」

「だがお前のご両親は健在だろう。以前挨拶もさせてもらったしな。収入的に苦労してるようにも思えないんだが」

「アホか。それはそれだ。親父にも母さんにも、これ以上迷惑かけるわけにはいかねぇんだよ」

「迷惑……か。それで言うなら喧嘩を止めるのが一番手っ取り早いと思うがな」

「うっせぇ、黙ってろ。んなことはわかってんだよ」

「ふふ、どうだか。ま、私も必要以上にハルの事情に踏み込むつもりはないさ。悩みがあったらいつでも相談するといい。いつでも乗ってやる」

「誰がお前に相談するか」

「はぁ、まったく。もう少しくらい信用してくれてもいいだろうに。お前も頑固な奴だな」

「信用されたいなら自分の性格直せってんだ」

「断る。というか、これはもう生来のものだからな。直すなんて不可能だ」

「手遅れになってんじゃねぇか」

「ま、諦めてハルの方が私に順応するんだな。そうすれば万事解決だ」

「そんな日は一生こねぇよ」


 こいつは根本的な所でなに考えてるかわからねぇ。普段の授業もテストも全然本気出してねぇみたいだしな。

 正直こいつのことでわかってるのなんて、面白いこと好きってくらいだ。

 何考えて行動してるのか、全然何もわからねぇ。あ、いや違うな。一つだけわかってることがあったか。

 こいつは死ぬほど料理が下手だ。それだけは確かだな。


「ん? なに笑ってるんだハル」

「いや、なんでもねぇよ」

「むぅ……なんだか怪しいな」

「気にすんなって。っていうかよ、亮平の奴が買いに行ってから結構経つけど、あいつまだ戻ってこねぇのか?」

「そう言われれば確かに……そんなに遠くはなかったはずだが」

「あいつ一体何して——」

「おい、大変だぞっ!!」


 オレと空花が亮平について話してると、やたら慌てた男が飛び込んできた。オレらと同じように学校帰りに立ち寄った生徒っぽいな。

 なに慌ててんだ?

 訝しみながら会話に聞き耳を立ててると、とんでもない情報が耳に飛び込んできた。


「どうしたんだよそんなに慌てて」

「そ、外がやたら騒がしいからちょっと覗いてみたら怪人が……怪人が攻めて来てたんだ!」

「「っ!!」」


 その情報を聞いたオレと空花は顔を見合わせる。

 嘘を吐いてる感じじゃねぇ。本気で慌てた顔だ。クソ、店の中がゲームの音でうるさいせいで気付かなかった。


「おい空花」

「うん、リョウのやつ巻き込まれたかもしれないな。それにしても駅前で怪人が出たとなると、ここも安全じゃなさそうだな」

「ちっ、クソ。あの間抜けが」


 怪人が出たって情報が少しずつ広まり始めてるのか、にわかにゲーセンの中が騒がしくなり始める。


「どうするハル」

「とりあえず外出るぞ。この状況じゃ外のやつらがここに逃げ込んできて身動きが取れなくなる」


 実際さっきから店の中に入って来る奴が少しずつ増えてる。なんで遠くに逃げずにゲーセンに来るんだよって話だが、怪人が出たこの状況でまともな判断ができてねぇんだろうな。

 人波をかき分けて店の外に出ると、その途端に聞こえてきたのは人の悲鳴だった。

 そんな奴らの流れに逆らってショッピングモールの方までいって見つけたのは、この状況を生み出してる原因だった。


「くははははははっっ!! 怯えろ、もっと俺の力に震えあがれ人間ども! 貴様の悲鳴と絶望をもっと俺に寄こせぇ!」


 二メートルは超えてるであろう上背の、蜥蜴……いや、どっちかっていうと恐竜みたいな怪人。ギョロギョロとした目つきで周囲を見渡している。

 明らかにヤバイ雰囲気だ。今まであったどの怪人よりも。でもいつもと違うのはそれだけじゃねぇ。


「お前らぁ! 人間どもを逃がすなよ! 捕まえられるだけ捕まえろ!」

「「「キーッ!!」」」


 人型の不気味な黒い影が、変な奇声を上げながら逃げる人を捕まえてる。


「なんだあれ……」

「あれ……戦闘員って奴じゃ」

「戦闘員?」

「聞いたことがある。組織に所属する怪人が使い捨ての道具として人型の戦闘員を使うって。あれがたぶんそうなんだ」

「じゃああの怪人はどっかのヴィラン組織に所属してるってわけか」

「たぶんそうなる……って、ハル、あれ!」

「なんだよ……っ!?」


 空花の指さす先にいたのは捉えられた奴らの集団。問題はその中に亮平の姿があったってことだ。


「あの間抜け……何してやがる!」

「戻ってこないと思ったら掴まってたなんて。リョウのやつ……」


 あの怪人の様子からして、捕まったままならろくなことにならねぇだろう。

 この状況。そのうちどっかの魔法少女が駆けつけるだろうが……いやダメだ。それじゃいつになるかわからねぇ。

 散々悩んだすえ、気付いたらオレは右腕にハマったままの真紅の腕輪へと向いていた。


「ハル? どうしたんだ?」

「……空花、お前先に逃げてろ」

「先にって。ハルはどうするんだ」

「いいからオレのことは気にすんな! 絶対追ってくんじゃねぇぞ!」

「あ、ハル!」


 呼び止める空花の声を振り切って、オレは一目を避けるように路地裏へと駆け込んだ。

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