無剣騎士物語

まんぼ

序幕

 重い鉄扉が開かれ剣士はその部屋に入る。

遠くから民の歌う声、笑う声が聞こえている。

それから、宴の主賓である筈の英雄を探す声が。

 剣士は輝く抜身の剣をそのままに部屋の奥へと歩む。

その歩みは常に確かで、常に前に進み続ける歩みであった。

そしてそれは、これからもけして変わる事はないだろう。

剣士は立ち止まる。

白刃から、陽光をも凌ぐ輝き放つ剣を見つめて剣士は言った。

「これで戦いは終わりだ。これからは、男は鍬を持ち女は種を持ち子は実りを待つ日々が来るだろう……俺は、もう、この地には要らない」

 剣士は輝く剣をそっと壁の剣掛けに置いた。

 剣士の一握から解き放たれた刀身から光が消えていく。

「御別れだ、友よ。お前はこの豊かな世界に生きてくれ。俺は……」

 剣士は言葉を最後まで言わなかった。だが、彼が何を言おうとしたか彼女には解った。

だから、何も言えなかった。

 剣士は静かに踵を返す。

重く鉄扉が開かれる。新たな、最期の旅の為に開かれた扉が。

「願わくば、我等の道がいつか重なりますよう――」

 剣士は振り向かず、最後にそう言った。

 扉は閉められる。

そして、静寂が訪れる。


 その静寂は、幾千の夜を越え、続いた――。

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