24「人知れずの教会」

 宿の玄関に出て、二人でジョルジュとラシェルを見送ります。

「じゃっ、行ってくるよ」

「危険な場所には近づかないように……」

 ラシェルはウキウキ気分を押し殺しながら言いました。私の性格をよく知っているのです。

「大丈夫よ」

 二人は仲良く温泉場に向かいました。どうぞよい温泉を。

 さて、残された二人はどうなりますでしょうか。

「リーダーはどこに行くの? 付き合うよ。俺は取り敢えず教会に行けば、あとは街中をブラブラしたいだけだし」

「ディアーヌって呼んで。私も教会に行きたいわ。それと森の散策かしら」

「じゃあ、俺も行くか。一応護衛だし」

「街歩きも付き合うわよ」

 殺風景な街並みですが、鉱山街のような活気があり、別段問題があるようには見えません。シルヴが通行人に教会までの道順を聞いて、目的地に向かいます。

 街外れに森を背にした教会が見えました。

 私たちは無人の聖堂に入ります。左右の窓は何枚ものステンドグラスになっていました。

 とても美しいです。そのひと女性を透けた光が、聖堂の中を色とりどりに照らしております。

「これなのですね……」

「知ってたのか?」

「ええ、知り合いから聞いていました」

 手前の左右二枚は少女で、次の二枚は成長し剣を持つ姿。そして次は戦いの装備を着込み、最後は鎧を身に付けた騎士姿の二枚です。

 正面には女神ルーミーナの彫像。その後ろには女性聖騎士のステンドグラスがあります。

「シルヴはなぜ知っているの?」

「我が家では昔から有名な女性なんだ。アテマ王国で聖騎士となり、現ブルクハウセンに渡って魔人を倒して平定した。そしてここ、ルフェーヴル王国にやって来た」

「ここの街にいたのかしら?」

「いや、実は聖騎士の絵画やステンドグラスは、あちこちの小さな街や村に何点かあるんだ。そこのどこかかもしれないし、ここかもしれない……」

 実は私は、アスモデウスから聞いて知っていました。この街こそが、聖騎士様が天寿をまっとうした地であると。名前を変えて、住む場所をあちこちに移動していたそうです。本当の名前は、もう分からないそうです。

「このステンドグラスは素晴らしいなあ」

「そうねえ……」

 教会は神が信仰の対象ですが、それよりも神の啓示を受けた人間が身近な対象として人気です。聖人、聖女、そして聖騎士などです。

「以外ねえ。シルヴの憧れが女性騎士だなんて」

「純粋に伝説の聖騎士へ、だよ!」

「ムキにならないでよ。私の憧れでもあるわ」

 同じ女性の伝説ですから。

 この人がアスモデウスさんと旅をしていたのですね。私と同じように……。


  ◆


 続いて森を散策しますが、小物魔獣の気配すら感じません。貴重な鉱山があるせいか、討伐には熱心なのかもしれません。

「街に行きましょうか」

「うん。ここは街の方が危険かもしれない」

「?」


 屋台で買い食いしつつ、シルヴは少々治安が悪いような地域に向かいます。森が平和なのに街が危険などとは不思議な場所ですね。

 ガラの悪そうな冒険者ふうの人たちが、ジロジロとこちらを見ています。

 気が付けば後ろに三人が歩いています。前方には五人がたむろしていました。

 どうやら囲まれてしまったようです。

 シルヴが立ち止まりました。

「どうだい? 希少金属を秘匿するにはもってこいの場所だろ?」

 と顔を近づけて小声で話します。

「知ってて来たのね。これからどうするの?」

 不安はまったくありません。相手はどうみても、数が多いだけの小物です。

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