15「再びの対峙」

 二人共に、にこやかな表情をしております。お客様たちはこの場の主役二人を邪魔してはいけないと、道を空けました。そして私たちからも距離をとります。

「よく来てくれたなあ。ほっとしたぞ」

 アルフォンス様の問いかけに兄は顔をこわばらせました。納得はしましたが、しぶしぶここに来たのです。何かを言わねば、と思いつつ何も言えないようです。

 ならばと、私は顔を上げました。

「本日はお招きいただき、ありがとうございます」

「私は今でもそなたのことを、大切な幼なじみと思っている。これからも我がビュファン家を助けて欲しい」

 これがアルフォンス様の理論なのです。身勝手なのか合理的なのか、あるいはその両方なのかは分かりません。ただこちらが圧倒的弱者であり、従うしか道がないとの現実があるだけです。

「よく分かっております」

「理不尽かとは思うが、それが皆のためなのだ。どうか納得して欲しいのだ」

 アルフォンス様はそう言って頭を下げました。衆人環視の中でです。

 これには兄も少々驚いたようです。

 相手が下に出ているのに、何も返さないのでは、やはりこちらの立場が悪くなります。

 さすがに兄も気がつきました。

「いや、俺も熱くなりすぎていたかもしれん。その点は詫びる」

 そして兄も頭を下げました。

「私ももう気にしません。皆の幸せを願っております」

 こちらを眺めているソランジュ様の微笑が、まるで勝ち誇っているように見えてしまいました。

 私は気持ちを切り替えます。

「兄も早く婚約者を探せば良いのですよ」

 話をそらしてしまいました。兄はどのような表情をしてよいのか分からないようです。

「うむ。私もそう思うぞ」

 アルフォンス様が更に追い打ちをかけます。ゴメンなさい。お兄様……。


 今宵の用件が終り、私たちはその場を離れます。

 騎士の仲間たちが集まってきました。冷やかすように肩を叩き、気さくに話しかけてきます。

 殿方はうらやましいです。

 私はここでは、独りぼっちですから。

「お兄様。外の風に当たってきます」

「うむ」

 私は一人バルコニーに出て振り返り、窓越しに会場を眺めます。人の動きや、アルフォンス様の取り巻きの姿などをです。

 そこはかつて婚約者であった、私が中心にいた場所でした。


「帰ろうか。用事は済んだ」

 兄も外に出て来ました。

「はい」

 招待されそれを受けた。

 互いに頭を下げた。

 和解の成立です。

「時が解決いたしますわ」

「王国の臣下として責務は果たす。それが騎士だからな。しかしもう友ではない」

「いけません!」

「そうか?」

「はい」

「お前は優しいな。帰ろう」

「はい」


 私にもっと力があれば。

 背後精霊に祈らずにはいられません。


 馬車の手前で、兄は立ち止まり振り返りました。私もつられてその先を見ます。

 窓に二人の人影が見えます。アルフォンス様とソランジュ嬢でした。

「あいつめ、いつまで見送ってやがるんだ」

 兄上は苦々しく舌打ちいたします。招待客たちにこれほど譲歩していると、見せつけているのです。こちらはその礼を受け入れるしか、もう道はありません。

「私たちに礼をつくしてくれているのですよ」

「ふん……」

「あの二人は幸せになると思います。お兄様も、早くバシュラール家の跡継ぎ作りに励んでくださいな」

「俺は妹を悲しませる、最低の兄だな……」

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