なにもしたくはない
しゃくさんしん
光と
憶えている光がある。
私は高校生だった。残暑がはげしかった。
その日は昼前に登校した。田畑と、ガソリンスタンドと、国道と、ショッピングモールと、古いパチンコ屋と、一軒家のあるまちの、ゆるやかな坂の上に学校はある。
坂を自転車でのぼる。蝉が鳴き、その音がふっと止む瞬間、なにもかもから色彩を奪うようなはっきりとした暑気が立ち上るように思う。蝉が再び鳴き始めると、世界や時間は仮死状態から息を吹き返す。
坂の手前にクリーニング屋がある。その前で一人の女性が、コンクリートの地面に打ち水をしている。若い、といってもその頃の私からはひと回りほど上に見えるひと。
蝉が鳴き止む。
女性の白いエプロンが光る。あぶないぐらい明るい。
一切の影が消える、白の単色に世界が染まる。光、それだけがある。
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