第28話

前回に続き高井柚実視点②です。



 最近、上原さんは昼休みにも佑希と沖田くん達と過ごすようになった。たぶん彼女は倉島に嫌気が差したのだろう。


 あの倉島という男子生徒は私も好きになれない。モテると聞いたことがあるけどど彼のどこが良いのか私にはサッパリ分からなかった。


 昼休みに入ってすぐスマホに匿名のグループチャットへ招待され、普段なら無視するが今日はなぜか興味が出て参加をした。


 ――っ!


 グループチャットのメッセージを見て私は驚いた。身近な二人が名指しで根も葉もない嘘の中傷が書かれていたからだ。


 昼食を食べながら話している二人に目を向けたが、特に変わった様子は無かった。もしかすると二人はグループチャットに招待されていないのかもしれない。いずれにしても佑希に確認する必要がある。


 その日の放課後、いつもの図書室で私は佑希から誘いを受けた。彼から求めて貰えて私は嬉しかった。

 でも彼の様子が少しおかしいことに気付いた。もしかしたらグループチャットのことを知っている?



 家に入るなりリビングで佑希私を求めてきて、その夜の彼はいつものセックスと違って荒々しかった。


 私は佑希に誘われた嬉しさで、何もしなくても彼を受け入れる準備が十分できていた。


 佑希は欲望を吐き出すように私を求め荒々しく扱った。



「なんか乱暴にしてしまってゴメン」


 疲れ果てソファーで横になり、抱き合って休んでいると冷静になったのか佑希が私に謝ってきた。

 何を謝る必要があるのだろうか? 佑希に求められことが私の存在証明でもある。感謝すれども謝られることなど何もない。


 いつもと違う様子の佑希に私は何があったのか彼に尋ねた。

 佑希は何かを隠そうとしている。私はグループチャットの画面をスマホで彼に見せた。


 佑希はこのメッセージのことは知らなかったようで、それを見た彼は怒りに震えていた。

 それでは今日の佑希の荒々しさは何だったんだろうか? 他に何か話たくないことがあったのかも知れない。


 悪意にさらされた上原さんを守ってあげてと私は佑希にお願いをした。こんな私に話し掛けてきて、仲良くしてくれようとしている彼女のことが私は嫌いではない。むしろ好ましく思っていた。だけど積極的に彼女と仲良くしようとは思わない。私には彼女は眩し過ぎるのだ。


 だから佑希にお願いをした。彼は私に似ているが根本的に違う。

 佑希もまた人を避けるように地味に振る舞っているが、私とは違い彼は日が当たる場所を歩くことができる人だ。

 そう――上原さんと同じ道を歩ける人なんだ。だから彼女のことを佑希に任せた。



◇ ◇ ◇



 佑希が暴力行為で処分が決まるまで自宅待機になった。

 臨時のHRでグループチャットの書き込みが公になり、生徒達の聞き取りが始まった。


 グループチャットはすぐに削除され誹謗中傷の首謀者は分からずに調査は終わった。上原さんと佑希が今以上の調査を求めなかったかららしい。


 処分内容が決まり佑希、倉島、谷口の当事者三人は謹慎一週間と決定した。


 謹慎処分を調べてみたが停学とは違い、軽い処分だということが分かり私はホッと胸を撫で下ろした。

 上原さんを守って欲しいとお願いしたのは私だ。佑希に何かあったら悔やんでも悔やみ切れない。


 佑希が謹慎中にグループチャットで書かれていた噂はやっぱり根も葉もない嘘だという話がクラスに広がり、この件も鎮静化してきていた。


 この間にも上原さんは図書室に来て私に話し掛けてきている。ほとんどが佑希に助けてもらったという内容だった。

 上原さんは佑希が私の為に怒ってくれた、カッコ良かったと目をハートにして嬉々として語っていた。

 上原さんはもう佑希にゾッコンになってしまったみたい。微笑ましくもあったが私はなぜか複雑な気分だった。



◇ ◇ ◇



 佑希の謹慎が明けた日の放課後、私は静かな図書室で読書をしていた。


 この一週間は図書室に佑希がいなかった。カウンターに立つ彼の姿を見て私はいつもの日常が戻ってきたという気持ちが込み上げてきた。


 私はこの一週間孤独を感じて寂しかった。私の存在価値は佑希に求められて初めて価値がある。彼がいないこの一週間は私にとって無為むいな時間であった。


 今日は上原さんもまだ図書室に来ていない。佑希を誘うには絶好のタイミングだった。


 私は借りる本を手に持ちカウンターに立っている佑希のもとへ向かった。


「今日、家で待ってる」


 私はそう彼の手を握りひと言告げて図書室を後にした。



「この部屋もなんか懐かしい気がする」


 その夜、佑希は久しぶりに来た私の部屋でそう呟いた。


「十日くらい来なかっただけよ」


 私はそう答えたが実は久しぶりに佑希が部屋にいることに私も懐かしさを私も感じていた。




 佑希は私に優しくキスをしてきた。前の荒々しかった時と違い恋人にするような舌を絡める情熱的なキスをする。


 裸で密着し抱き合っているだけで私の心の穴が塞がっていく感覚になる。

 私はいつも以上に身体が佑希を求めた。


 そして私は疲れて眠ってしまっていたようだ。

 


 目が覚めたが、まだ私の身体は佑希を欲しっていた。


「それじゃあ、もう一回しましょう。私が大きくしてあげる」


 その夜私は何度も佑希を求めた。


 私は溺れていく感覚の中、何回も果てた。



◇ ◇ ◇



『今、高井の家の前にいる。今から行っても大丈夫?』


 突然、佑希からメッセージが届き彼は家にやってきた。


 佑希は今日、上原さんと映画を観に行っていたはずだ。それなのに私の所に来たのはなぜだろう?


 私の前に現れた佑希は髪の毛を切り、シンプルでオシャレな姿に変わっていた。上原さんがコーディネイトしていたと言っていた。


 爽やかなイメージになりとても似合っていた。上原さんは佑希のことをよく分かっている。それに比べて私は彼が変わる為に何もしてあげていない。



「いきなり来てゴメン。なんか急に高井に会いたくなっちゃって」


 佑希から求めてきた時は彼の心に何かしらの刺激があった時が多い。上原さんと何かあったのかもしれない。

 でも、私は彼が求めればそれに応えるだけ。理由はいらない。それが佑希と私の関係だから。


「ん、別に誰もいないから大丈夫。私も佑希に会いたいと思ってた」


 佑気に会いたくなったと言われたことが嬉しくて、つい私も会いたかったと言ってしまった。

 佑希は目を丸くして驚いていた。私がそんなことを言うとは思っていなかったのだろう。私自身もこんなことを口走ってしまったことに驚いている。


「今日は楽しかった?」


 普段他人もことなんか気にしていないのに今日の私はおかしい。変に上原さんのことを意識している。


 佑希と映画に行ったから?

 上原さんが佑希のことが好きだから?


 私は少しずつ変わっていく佑希と、それに影響を与えている上原さんが羨ましかった。


 変わっていく二人を見ていると、何も変わることのない自分自身がまた嫌いになった。


 私もまた変わりたいと心の奥で思っている。


 でも、どうすればいいのか誰も教えてくれない。

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