第2話Part.2~野営の準備をしよう~
「それじゃあチャチャっと野営の準備をするか。ミリアとアンは薪になりそうな木を拾ってきてもらえるか?たくさん必要になるから2人で行ってくれ」
「了解であります!」
「分かりました」
野営地に着いて一息ついた後、しっかりと野営ができるように準備することにした。ミリアとアンには薪集めをお願いした。調理で必要になるし夜にも火を燃やし続けなければならない事情があるため薪が結構な数必要になるのだ。
俺は地に下ろしていた背負子から小さな布袋を取り、中に入っていた石を4つ出した。この石は透明でキラキラと輝いた宝石のような輝きを見せる石だ。
先達がここで野営した際に残していった石を積み上げて作った簡素な竈を中心とした場所に4つの杭が刺されている。その杭の頂点は小さくくり抜かれている。これも先達が遺した物で、俺はこのくり抜かれたくぼみに4つの石を嵌め込む。
残りの工程はまた夜に行うのでこちらの準備はこれで終わり。次は俺たちが眠るルーゲを準備する。
ルーゲは野営時の寝所といったところで骨組みを組んで建てる天幕だ。俺は再び背負子からルーゲに使用する骨組みとコーと呼ばれる獣の皮を加工した布を取り外してルーゲを組んでいく。あまりかさばらないように2、3人が眠れるくらいの小さめなルーゲで、色はコーの色である暗い灰色。
こちらの方が夜に魔物から見えづらく、襲ってきても気づかずに帰ってしまうということがたまにあるのだ。無論襲われた時点で相当危険であるのは間違いないが。
2人が戻るまで俺は残っている竈の確認と夕飯のために鍋の準備もしておく。匂いに釣られて魔物が来ないとも限らないので食材はまだ出さずに置いておく。
「ただいま戻りました!」
「これくらいあれば足りますか?」
「それだけあれば十分だ、ありがとう」
そうこうしているうちに薪の枝を頼んでいた2人が戻ってきた。2人とも両手いっぱいに薪を持ってきてくれていた。これだけあれば朝まで持つはずだ。
俺は2人に感謝して集めてきた薪を竈の近くに置いておくように言った。
「とりあえず野営の準備はできた。あとは身体でも洗っておくか?」
「そうですね……ロデードでは浴場がありませんでしたし」
「賛成であります!」
とりあえず野営の準備ができたので次に汚れた身体を洗うことにした。大きな街や温泉が出る場所では浴場があるのだが、残念ながらロデードの町には浴場は無く、風呂に入れないまま数日を過ごしていた。だがこの川なら流れも穏やかであるので身体を洗うことができる。
慣れているとはいえやはり身体を洗わないままというのは気持ち良いものではないし、日が落ちてしまう前に身体を洗ってしまうことにした。
「それじゃあ先に洗ってくると良い。ほら、石鹸だ」
「わわっと。使っても良いのでありますか?」
「もちろん。できうる限り清潔にしておいた方がいい。病も少なくなるはずだ」
俺は先に2人に水浴びをすると良いと言って、ロデードの町で購入しておいた石鹸をアンに投げ渡す。街の外で病になると非常に危険な事態に陥るのでなるべく清潔にしておいた方が良いし、気持ちの面でも良い影響を与えてくれるはずなのでこういったところには心配りをした方が良いと思うのでこの辺りは惜しみなく金を掛けている。
「ありがとうございます」
「街道側を見ておくから、そっちで何かあったらすぐに呼んでくれ」
2人は感謝の言葉を言ってから川の方へ行く。俺は2人の方は見ないようにし、街道の方から魔物や他の冒険者が不意に川の方へ行ってしまうのを防ぐため街道の方を見ておくことにした。
街道側の方は見晴らしが良いので何かが近づけばすぐに分かるので、俺は今日使用した剣を手入れしながら2人の水浴びが終わるのを待つことにした。
川に着いた2人は服を脱いで水浴びを始めたらしい。しばらくすると後ろからバシャバシャと水が跳ねさせる音と2人の楽しそうな声が聞こえてきた。どうやら2人で水を掛け合って遊んでいるようだ。俺はその2人の声を聞きながら街道側を見張り、そして剣の手入れを始める。
「ミリアさんも胸が大きいでありますね!」
「えっえぇっ?!アンちゃん、声が大きいよ」
「……そうでありますか?」
「う、うん。で、でもそれがどうしたの?」
「いえ、自分はこの胸で鎧が合わないのでアレを使用してるわけですが、ミリアさんも苦労されていそうだと」
「そ、そうだね」
手入れをしている最中不意に耳に入ってきた会話、アンから振った自分たちの胸が大きいという話。ミリアの方は驚いて声が大きいと言って窘めてたものの、一度耳に入った2人の会話が気になってしまい、そして会話している2人の様子を想像してしまった俺の耳は少し声を抑えようともその会話を聞き洩らさぬと2人の声をしっかりと捉えてしまっていた。
「そ、そうだね……私も服を選ぶとき少し苦労してる……かな?私のは鎧じゃないから全く無いわけじゃないけど」
「戦闘の邪魔にもなってしまうし、どうにかしたいのでありますが……」
「難しいよね……」
「それにあの胸当てを着ていると街で妙に視線を感じるので少し恥ずかしいであります……」
「じゃあもしかして街で着ていたあの服は」
「はい。視線避けだったのでありますが、余計に人から見られるようになりました……」
アンと初めて会った時に着ていた全身を覆う頭巾と外套はあまり人からジロジロ見られないようにするためだったらしい。だが今度は怪しくなりすぎてすれ違う人ほとんどに訝し気な視線を向けられてしまうことになってしまったと嘆いていた。
頭巾をつけていなければそんなに訝し気な目を向けられることもなかっただろうにと俺は思った。外套だけなら街中で鎧の上から被っている者を割と多い。どうして頭巾まで被ってしまったのか。
そう言いたいところではあるのだが、ミリアはこの会話を人にあまり聞かせたくなさそうなのでその答えは俺の心の中でしまっておくことにした。
「ブレイドさん。お先にありがとうございました」
「ありがとうございました。次はブレイド殿ですね。お背中をお流しします!」
「アンちゃん!?」
「えっ!?い、いやいいよそんなこと」
「しかし、弟子は師の背中を流すものだと聞いています!」
「あ、あぁ~そんな話も聞くけど、俺は背中を流されなくても良い師匠だから……。師がそう言うんだから流さなくていいから」
「……了解であります」
さっきの胸に関する会話からしばらくした後ミリアとアンは川から出てきた。2人は服を着替えていた。2人とも同じ服ではあったが、さっきまでの旅路で彼女らの服も少し汚れていたのですぐに分かった。
次は俺の番なのだがアンが弟子は師匠の背中を流すものだと言って一緒について来ようとした。俺もミリアも驚きの声を上げ、俺は弟子に背中を流してもらわなくても大丈夫な師匠と我ながら、おまえは何を言っているんだという理由でそれを断った。
アンの方もあまり納得はいっていないようだが、師がそう言うんだからという言葉で渋々引き下がる。
俺はこれ以上何か言われないためにもそそくさと川の方へ行き、身体を洗うことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます