41話 使者起動

 王国より派遣された騎士団が一度撤退した直後。第四騎士団の騎士団長バーモント卿が、大陸全土に向かって声明を発表した、大掛かりな風の魔法を用いた拡声魔法の装置を各所に設置していたのだった。


「さて、この大陸に、いや全世界につぐ。我々はビレシワ教団、破壊と再生を司る古き神、ビレシワ神の信奉者である」


 この放送が最後の決戦の引き金であった。


「我々の神ビレシワ様はこの世の浄化をお望みである」


 くどくどと意味不明の生命が続くなか、この声明を聞いていた国王たち。


「バーモント卿め、一体何が言いたい?」

「全くわかりませんな! 王よ、ただ分かることはバーモント卿はアホだったと言う事ですな」

「しかし、あのビレシワの使者なるモノどうすべきか?」


 国王が横に控えているサントスに尋ねる。


「そうですな、まさか我ら騎士団の攻撃でびくともしないとは、アレが卵からかえった場合、おそらくかなり困ったことになりますな」


 サントスの言葉に考え込む国王、少ししてサントスを見ると


「再び準備をし今度は第一と第三で向かうのだ、対大型の魔物用装備を使う事も許可する」

「ほうほう、やる気ですな王よ!」

「アレが本当に神の使者なのかは分からぬが、本当ならロクでもないことになるであろうからな、対応はするべきじゃろ」

「ですな。それでは準備出来次第出発します」


 ――

 ――――


「我らビレシワ教団は世界の浄化を行う!」


 ぶっちゃけ誰も聞いてない演説を繰り返すバーモント卿とその御一行。

 演説が終わると風の拡声魔法を解く。


「これで時間が稼げればよいが、運が悪いと騎士団が動くな」


 普通こんな事いわれりゃ排除されるのは分かるものであろう、実際は無関心の所が多く王国もすでに騎士団を送る始末であった。

 いるよね、こういったやる事全部裏目に出てる人って


「バーモント卿! あれをあれを見てください!」


 兵士の一人が卵を指さした。

 すると神は彼らを見放なしはしなかった、なんと卵にわずかだがひびが入ったのであった。

 バーモント卿やダウ司祭が卵を見る。


「お? おお、バーモント卿よ我らの悲願がついに」

「ええ、しかしこうなるなら時間稼ぎのための演説など不要でしたな」


 この出来事に騎士団の面々は色めき立っていた。


 ――

 ――――


「アジャルタさん聞いたっすか? あの卵そろそろ孵化みたいっすよ?」

「いやねぇ、あの卵だと凄く大きな油黒虫が産まれそうね」


 アンジェリカとマーシャがあの卵について話していた。


「最近は、街じゃその話題ばっかっすよ」

「仕方ないだろ、あんなの今まで見た事無いのと、元王国騎士団のあの声明だからな」


 ゼノが会話に割り込んでくる、それでも街の人たちは普段の生活を送っている。

 ゼノに続いて、リノも会話に入ってくる。


「そうそう、噂では王国の別の騎士団が卵討伐の部隊を編成し、出発したという話ですよ」

「オバさんの作った、油黒虫退治の道具が役に立たないかしらね?」


 アンジェリカは瓶に入った液体を棚に並べながらそういった。


「どうであろうな? 本当に巨大な油黒虫なだけであるなら、主の薬案外役に立つかもしれんな。しかし日に日に嫌な魔力が溢れているな孵化はもう間もなくであろうな、今日か明日か? その辺りであろうな」


 器用にワカメの手で小瓶に液体を移しながらリヴァイアサンも会話に参加していた。


「あの液体を作る魔法陣も改良して、大量生産できるようにしてあるのよー」

「ほほう? 主は中々抜け目がないようだな」

「オバさんは学習する生き物なんです」


 オバさんじゃなくても学習するよ。

 そんなやり取りをしつつ、その日は終わっていった。


 そして次の日、ついに恐ろしい事が起こってしまった。

 高さ約四メートルを超え長さ的に一〇メートル近くの巨大な油黒虫が姿を現していた。


「あらー、本当にまんま油黒虫ねぇ」


 アンジェリカはのんびり言っているが町は大騒ぎであった……

 そして最悪の状況で最悪のタイミングでアンジェリカの耳に届く、サーシャが慌ててアンジェリカの元にやってくると。


「アジャルタさん! チェイニーさんが先ほど街の助産院に運ばれたそうです!」


 そう、チェイニーの出産タイミングにカチあってしまったのであった。


「あらー……困ったわね、これは逃げるって選択肢はなくなったわねぇ」


 アンジェリカ・アジャルタ最大の危機が訪れたのであった……うん、危機なんてほとんどなかったけどね!


 次回へ続く

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