第27話 >強制切断アラート

「吉沢さん、強制切断アラート出てます」


 機能テスト確認作業中の画面に表示されたポップアップに、西村は同僚に声をかける。

 彼らは『ゲート・オブ・ラビリンス』の運用部門で、今は未実装機能の動作検証の真っ最中だ。


 従来型のゲームと違い、フルダイブ式ではプレイヤーの強制切断は精神に悪影響を及ぼす可能性がある。一秒を争うほどではないが、急ぎプレイヤーに連絡を取り、安全確認を行う必要がある。少々驚くくらいならば良いのだが、昏倒していることに誰も気づかなければ重大な事故になりかねない。


「プレイヤーIDは何番だ?」

「二十三番です。サポートチームへの連絡はしました」


 技術者である彼らがプレイヤーに直接連絡することはない。それは対ユーザー部門の仕事である。

 必要な手続きを進めつつ、二人は強制切断直前のログの調査を始める。回線の問題ならば二人にできることはないが、プログラムの不具合に起因するならば急ぎ問題箇所を特定して修正しなければならない。


「おいおい、この人もう農園ファーム取ったのかよ。って、原因これだろ絶対」

農園ファームのテストって終わってましたっけ? なんで買えるんですか?」

「あー、確かに買えるようになってるな。けど、データの中身空っぽだぞこれ。そりゃ動かんわ」


 どうやら誰かの手違いで、本来はまだ入手不可能なはずのアイテムを入手してしまい、データに矛盾が生じてしまったようだ。


「一旦、隔離しますね。今再ログインしたらまたすぐ落ちちゃいますし。」


 プレイヤーに大したダメージが無いならば、再ログインの可能性は十分にある。だが、次の強制切断でも平気である保証はどこにもない。サービスインしたばかりのゲームで事故を出すわけにはいかない。


 プレイヤーには不満があるかもしれないが、安全策を取るに越したことはない。そう判断して西村は処置を急ぐ。


「吉村さん、隔離終わりました」

「じゃあ、サポートチームから連絡してもらって、農園ファームのデータ修正だな」


 二人が一息ついている間に、プレイヤーID二十三番のログインが通知された。と思ったら、凄い勢いで通報が発信されている。


「うっせえよ! 一回やれば分かるから!」


 悪態をつくもプレイヤーID二十三番に聞こえることはない。延々と『通報がありました』とポップアップが表示される。サポートチームに早く連絡入れろと怒鳴り込んでやりたくなるが、そのサポートチームの方では通報の通知は警告音付きだ。



 サポートチームの取れる手段は大きく分けて二つある。

 ゲームマスターとしてゲーム内の機能を利用しての連絡が、サポートチームの取る方法のメインだ。大抵の場合はユーザーはログイン状態にあるため、それで事が済む。

 連絡を取るべきユーザーがゲームにログインしていなければ、ログイン前に登録されている利用者情報を参照して、ゲーム外からの連絡、つまり電話やメールをするしかない。


 強制切断の連絡を受けて、城内しろうちはすぐに後者であると判断して顧客情報データベースへのログインを行う。


「ID二十三、プレイヤー名ユズで本名が野村のむら柚月ゆずき。二十五歳女性ね、と」


 画面に表示された情報が、間違いなく連絡すべき対象であることを確認していると、右上の状態表示が赤色のオフラインから緑色のオンラインに変わった。


「二十三番さん、ログインしてきました。ゲームマスター対応で良いですか? 現在、隔離状態なのですぐにお願いします」

「分かりました、田中ミディアさんに行ってもらいます」


 そうしている間にも、技術チームから障害情報が送られてくる。強制切断の原因は明らかに運営側こちらの不手際が原因ということで、暫定対応は数分、恒久対応には数時間を要するらしい。


 暫定対応中はプレイヤーはゲームに入れない。そこはきちんと説明してもらわないとならないだろう。

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