第16話 人魚の楽園

 魔法をぶっ放した事により領主であるエルネストに呼び出された。

 彼は辺境伯と呼ばれている男だ。

 30代ぐらいのいかつい顔をしていた。

 貴族らしい見栄を現すかのような勲章で飾れらた服を着ている。

 あまり関わりたくないな。

「無闇矢鱈に魔法を使うことは禁じられているはずだ。

どうしてあんな魔法を使ったのか説明してくれ」

「村を救うためです。

あのまま黙って破壊されるを見ている事はできませんでした」

「あの魔獣が襲ってくることを予期していたのか?

相当な準備がなければあれ程の魔法が使えるはずがない」

 準備したら魔法が強力になるのか?

 即席で魔気を貯めて放ったから威力が足りなかった。

 いや……。


「木竜の魔石を使った杖です。

魔気を増幅して強力な力となります」

「この様なものまで……、これは王家の紋章がどうして?」

「姫様に貰った物です」

 彼の顔色が青ざめていた。

 王家は凄い権力があるらしい。

 直ぐに杖を返して貰え村を救ったとしてメダルを貰えたのだ。


「今後は危険なことをなさらずに、我々に頼ると良い」

 魔導鎧は彼の様な貴族しか持っておらず村には1つしか無い。

 彼だけがあの様な驚異から村を守っているのだ。

「では一つ相談があるのですが、人魚の事についてどのように考えていますか?」

「数年前までは干渉することもなく、

たまに見かける程度だった。

だがここ最近は揉め事が多くて手を焼いている」

「魚が減っている為ですよね。

争わないように彼らと棲み分けをして欲しい」

「どうして人魚の肩を保つのか知りたい」

「俺の使用人が幼い頃に人魚に助けられたらしいんだ。

恩に報いるために争いを止めたい」

 彼は目を閉じ黙った。

 この沈黙は怖いな。

「あの魔獣は人魚が送り込んだと噂するものが居る。

人を救ったという話も聞くし、果たして何が真実なのだろうか?」


 彼の立場では判断出来ないという。

 交渉は一旦は保留と成った。


 開放された俺は浜辺を歩いていた。

「魔獣も居ない平穏な浜辺なのにな。

人魚が送り込んだというのも案外事実なのかも知れない」

 黒い渦のような物が空中にふわりと浮かんでいる。

 魔気が異様に集まって出来ているようだ。

 これを使えば強力な魔法が使えるんじゃないのか?


 触れようとした時、それは形を変えていく。

 西瓜ぐらいの大きさのカニへと変貌し落ちた。

 それが魔気を吸い取りみるみる大きく成っていく。

「神様の贈り物って言ってたのはあながち嘘じゃないんだな。

これをみたら誰だってそう思う」

 このカニはあの殺戮カニじゃないのか?

 大きくなったら襲われる。


「炎よ槍となり貫け!」

 言葉に発すことで印象を深めより形をハッキリとさせる事が出来た。

 何も言わずに想像だけで行うのが良いとされているが、無言で行うのは苦手だ。


 生まれてすぐに燃やされるのか。

「可愛そうだが人間を殺す化け物を生かしておくわけにはいかないんだ」

 人魚は人の言葉を話したから、カルメラの思い出を聞いたから……。

 命に差があるのか?


 魔石だけを残し燃え尽きた跡を見ていた。

 そこにカルメラがやって来る。

「領主様のところへ行ったら、

帰ったと聞いて探しましたよ」

「魔獣って突然湧いて出るんだな?」

「ええ、原因は解ってないです。

黒い塊から生まれ出ると聞きます」

「この浜辺でそれを見たんだ」

「ここにですか?

この浜辺で魔獣が発生した話は殆ど聞きません」

 だから海水浴が出来たのだ。

 何か異変が起き始めているのか?


「ん、それで俺に何のようだ?」

「姫様と連絡を取りまして、

保護区を作ってくれると約束を取り付けました」

 ジュリエンヌは取り入るのは上手そうだとは思っていたが、やってくれたな。

「保護区か、養殖とかの話はなかったことになるのか。

うーん、良かったのかも知れないな」

「いいえ、その計画も進めるようで、

色々と手配してくれています」


 屋敷に戻りジュリエンヌと合流する。

 彼女は紅茶を飲みながら計画を文書に纏めていた。

「ざっと草あんだけど考えてみたわ。

考えを聞かせて欲しい」

 彼女の字は綺麗で読みやすい。

 これと彼女の顔を見たら間違いなく惚れてしまうだろうな。


 島全体を網で覆ってその中で魚を飼うという内容だ。

「あまり膨大な量の網が居るんじゃないのか?」

「網は工場で作れるから、

安くて丈夫なものを用意することが出来るわ」

 物の価値が良く分からないところがあるな。

「なんで工場で作っているんだ?」

「それは魔獣を捕縛したり撃退する時に多用しているからよ。

足を絡めたりしなければ鈍足な魔導鎧では逃げられてしまうわ」

 戦闘で使われる物は大量生産されるているのか。

 なるほどな……。


「俺よりも知識がありそうだし、

君に任せたほうが良さそうだ」

「当然よ。

私に任せなさい」

 金銭が絡むと彼女は才能を発揮するようだな。

 彼女がさらさらと掛け上げた書類を読む。

 数年先まで計画が立てられているな。

 2年で利益を出す予定なのか……。

 結構な利益を見込んでいるようだけど、これが本当に実現するのかは解らない。

 

 ふと山積みにされた書籍があることに気づく。

 計画を作るために調べたのだろうか。

「無理してないか?」

「気を使ってくれてありがとう。

でも今が一番面白い時なのよ」

 彼女も俺と同じなのか。

 熱中して周りが見えなくなる。



 数日が過ぎ、人魚と待ち合わせの為に浜辺に向かった。

 既に人魚が居た。

 だがその人魚の前に黒い渦が出来ていた。

 そこに手を突っ込んでいる。

 まさかあの黒い渦を作り出していたは人魚なのか?

 人魚は俺に気づくと微笑む。

「仲間と話してきました」

「それより何をしているんだ?」

「これを放置すると危険な魔獣が発生します。

だから取除ているんです」

「もしかしてずっと取り除いていたのか?」

「はい、私達の住む場所にも現れて危険なので、

見回って見つけ次第に……。

でも人間達に襲われる危険性が上がったので近づけずに見逃すことも多くなりました」

 それであの魔獣が育って巨大化したのか。

「身勝手な俺達に愛想をつかさないのか?」

「いえ、助けて頂いて感謝しています。

それであの件はどうなったのでしょうか?」

「それは彼女から説明を聞いてくれ」

 ジュリエンヌは人魚にわかりやすいように説明した。


「解りました。

では人と人魚がお互いに暮らせる世に成ることを」

 握手を交わし話は終わった。


「それで君の名前は?」

「私には名前はありません」

 人魚は海へと去っていった。


 人魚のハーレムはやっぱりないようだ。

 うーん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る