そいじゃあ行きますか!

ずるずるっ ソファーからずり落ちる音が聞こえる。



(す ストーカーって……まぁ女性からしたら大事か)



「警察には相談したのかな?」



「はい……相談はしたのですが、基本的には被害がないことには警察は動けないらしく」


「巡回自体は増やしてくれるみたいなんですが……」



そうなのだ警察というのは基本的には被害がない限り、捜査等の動きは見せてくれない。


鏡花の言っている巡回の頻度を増やすのが精々だ。


「そうですか、では具体的なストーカー行為についてお聞きいたします」



イルカの言葉を聞いた鏡花は暗い顔をした。


(当たり前だわな、ストーカー事態恐怖でしかないのに警察も動いてくれない、最後にすがるのはこんなおっさんなのだから心配で仕方ないだろう)



「大丈夫です鏡花さん、今までの依頼の中でストーカー被害の受けていた依頼人の方は結構いらっしゃいます。」


「ですが、すべて解決に導きました!」



イルカは力こぶを作り安心させるように微笑んだ。



「ありがとうございます。すべてお話しいたします」


わずかに目じりが下がった鏡花がストーカー被害について話すことを了承してくれた。



「では、まず最初に被害に合われたのはいつ頃からですか?」



「2ヶ月ほど前になります」



(微妙な期間だな……)


イルカが思ったのはストーカーが実際に被害者に接触また、実害を与えてくるまでの猶予があるかないかである。


実際、前のストーカー被害者の場合3ヶ月半ばぐらいで接触を図ってきて現行犯で逮捕されていた。


(さすがに相談に来て明日襲われましたは後味が悪すぎる。)



「では、今の被害状況を教えてください」



「最初は付後ろをつけてくるだけでした。バイト帰りに毎日後ろから足音が聞こえてきて……それだけだったら気のせいで済ませるのですが、足音は近づいたり遠ざかったりそれが何日か続き2週間がたった頃、足音と笑い声が聞こえてきて怖くなって必死に逃げてやっと家についたと思って玄関のドアを閉めたら……」



「ドアノブをガチャガチャと強い力で押したり引いたりされて……」


(聞いているだけで怖くなってくるな、それに鏡花さんの顔色が悪い)


イルカはソファーを立つ



「鏡花さん紅茶でも入れましょう」


「あっはいありがとうございます」



「鏡花さんは一人っ子?」



「いえ、妹が1人」



「そっか妹か~妹な~俺にも妹的な存在がいるんですよ」


「その妹がこの間、あっ高校生なんですけどね。学校で私のお兄ちゃんは何でも屋をやっているって言ったんですよ」



紅茶を入れながら突然イルカが話し始めたため鏡花は少し困惑していた。



「そしたらクラスのみんなに笑われたそうなんだですよ」


「それで妹はなんて言ったと思います?」



鏡花は聞き返す。


「……なんて言ったんですか?」



「『お兄ちゃんはどうしょうもない人だけど笑われるような人じゃない』って」


「私はこの言葉を聞いてすごく複雑になりましてでも話している本人はドヤ顔ですよドヤ顔を」



クスクスとイルカは笑いながら話し鏡花もつられるように笑った。



「もう何も言えなくて黙ってアイスを買い与えましたよ」



「仲良しなんですね。妹さんと」


「ええ、でも家族ってそんなものですよ」



「だから鏡花さんの妹さんも鏡花さんが暗い顔してたら心配するんじゃないですか?」


はっとしたような顔で鏡花はイルカを見る。



イルカはそっと淹れ終わった紅茶を鏡花の目の前に置き、安心させるようにそして言い聞かせるように言う。



「安心してください、もうあなたに危害が加わる事がないよう私が全力をつくします。だからゆっくりで大丈夫です。話してください」



それから鏡花は先ほどまでの暗い顔が嘘だったかのようにポツリポツリとゆっくり話し始めた。



鏡花の話しによるとストーカーが家まで来たのはその一回だけだったようだ。


その後は付きまとってくることはあったが直接危害が加わるようなことはなかったと。



「……最近は無言電話なんかも頻繁にくるようになって」


(無言電話か…大分絞られるかもな。)



「直近3ヶ月で鏡花さん自身、身の回りの変化はありましたか?」



「例えば、習い事を始めたとか大学の帰りに絶対寄るところができたとか」


「大学の中でも良いですけどね。サークルとか」



「いえ、サークルも入ってないですし習い事も始めてないです」


(うーんそれじゃあ大学内か…範囲が広すぎて少し大変かもしれない)



「あっ!そういえば前のバイト先から家に近いバイト先に移動になりました」



「移動ですか?」


「はい、チェーンのファミレスなのですが元々電車で三駅の所でバイトをしていて、大学の関係とかで家に近い場所にバイト先のご厚意で移動させてもらいました」



(ようやく当たりがついてきたか、だがバイト先かどうするか……)




「あっもうすぐでバイトの時間なので……」


「そうですか」



イルカに話したことで安心したのか鏡花は微笑みながらお礼を言う。



「ありがとうございました。とりあえず今後どうするかはまた明日事務所に来ますので……」


イルカは戸惑った。


いくらここで話したといっても解決したことにはならない。


鏡花は話した事で安堵し今は恐怖が薄れているのかもしれない。



(このまま返すのは不味いかもな……決めた!)



「そいじゃあ行きましょうか!」


とイルカが大きな声で一言



「えっ行くってどこに?私今からバイトにーーーー」



「ええだからバイト先に!」



「えっえぇぇぇぇぇぇ!」


鏡花の声が汚い事務所に響く。



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