最終章 半端でも仙人

第143話 毎度のことながら説明不足

 翌朝、エリンがエルフやドワーフ達を連れてやって来た。


「やぁやぁ! みんなも入ってくれ!」


 途切れなく入って来ると、総勢20人程もいる。

 その中の一人がノーリ。

 目でどういう状況か合図を送るが、眉毛と鼻を大きく動かしている。

 その動きだと「今日は晴れだ」と言いたいようだ。

 何が言いたいかわからん。

 近づいて聞いてみる。


「どういう状況なんだ? というかあの合図は何だったの?」

「儂も急に連れてこられてな。それをお主に聞こうと合図を送ったんだが」


 お互いの合図は完全にすれ違っていたな。

 今度からちゃんと言葉で聞こう。


「今日連れて来たのは、新しい仲間を教えようと思ってね! ほら、この子達!」


 首根っこを掴まれて、ぶら下げられているイツキとアオイ。

 俺は城の続きのことかと納得したが、他の人たちには唐突で、理解しきれていなかった。


「ノール。儂らにも教えてくれ」

「そうだよねー」


 イツキの能力と、長命種になる可能性を教えると、ようやく理解してくれた。


「なんじゃ。長命種の仲間か。そっちのヒョロイのもか?」

「アオイは長命じゃないけど、瞑想で気は覚えたよ」

「ほほぉ」


 良くわからない反応。

 まぁ、おいおい仲良くなってください。

 それよりも、未だにイツキ達は状況が掴めていないぞ。


「エリン。ちゃんと説明したのか?」

「いいや? これからだよ!」


 説明してから連れて来いよ!

 他の妖精族も慌ててるじゃないか。


「君達2人を妖精族の里へ招待しよう!」

「へ?」

「えぇ?」


 そんな話じゃわからないだろ。


「エリンはもうすぐこの国を出るんだが、お前達2人を連れて行きたいって言っている。イツキもエリンに教わってるんだろ?」

「まぁ、教えてもらってるかな」

「アオイもイツキと行きたいんだろ?」

「僕は……えっと」


 はっきりと返事はしてないが、イツキと一緒に居たいというのは知っている。

 俺の予想だと、ここにいても、そのうち他の国も行きたいとか言だすと思っている。


「行こうと思って行ける場所じゃないんだ。行ってこいよ」

「そう……だな。アオイ。行ってみよう!」

「そこまで言うなら」


 エリンはニヤニヤしているが、本当はお前が言うことだぞ?

 周りの人たちも呆れてるじゃないか。


「そんで、儂らはどうするんじゃ?」

「あぁ! 君達も一緒に連れて戻ろうと思ったんだ」

「エリン様が? 別に自分でも戻れますぞ?」

「それについては、別の場所で話すよ。今はこの子達を紹介したかったんだ」


 エリンは、2人に明後日迎えに来ると言うと、他の人たちを連れて出て行った。

 嵐が去り、静かになったリビングで一息つく。


「とりあえずお茶飲みましょうか?」


 ポットにお湯が入ると、ハーブの爽やかな良い香りが漂う。

 落ち着きを取り戻し、茶を啜りながら話し合った。


「僕らは良いですけど、カオルちゃんと実さんはどうするんですか?」

「残るよ」

「妖精族の里は、行きたくないんですか?」

「行ってみたいとは思うけど、やることあるからねぇ」


 窓の先を見ると、メサ達がせっせと水やりをしている。ちょうど畑が見える位置で、管理がしやすくなっている。

 それがわかったのか、「あぁ」と呟いて、アオイは納得していた。


「実さんは、ピースさんに薬を教えないとですよ。私もピースさんに会いたいです」

「そっちもあったか。手紙は送ったんだよね?」

「送りましたが、まだ返って来て無いです」


 侵略の対策もあるし、ゴンがいつ来るかわからないだろ?

 うーん。

 やることがある時って一気に溜まるんだよな。


「はぁ。何から手をつければ良いか」

「じゃ。俺らは準備始めるから!」


 イツキめ。

 自分は関係ないと思ってスルーしたな。

 頼るわけにも行かないし、1つずつこなしていくか。


「ほれ、お前らも準備始めろ。そんなに時間ないぞ?」

「「はい!」」


 2人は街へ繰り出して、足りないものを買いに行った。

 俺の方は、とりあえず、畑でニンニクの改良を急がせるとして。

 カオルの訓練もするか?


「カオルは」

「はい?」

「強くなりたいのか?」

「……はい!」


 それなら、今から訓練だな。


「よし。ペロに夜まで賦活をかけ続けろ」

「え? 夜まで?」

「そうだ」

「ずっと?」

「そうだ」


 もう昼なんだから、そのくらい出来るだろ。

 カオルの背中を押して、ペロのところへ向かわせる。

 その後、畑へ行くと、傭兵とくらげが種植えに勤しんでいた。


「お? 農場長!」

「農場長?」

「実さんのことです。農場主は別にいるので、農場長にしようって」


 なるほど。

 確かに主だと誤解するよね。


「畑の進捗はどう?」

「種植えの動員数を増やしたので、今日中に8割といったところでしょうか」

「それなら明日には全部いけるね。それで、水撒きも少し多めの人員でお願いしたいんだけど、どうかな?」

「うーん。報酬プラスなら相談に乗れますが」


 よし。

 追加報酬は予想通り。受けられないって話じゃなくて良かった。

 ここで話しても決められないということで、こいつと館へ向かう。

 こいつの名前なんだっけなぁ? 少女副長の補佐してた人だよ。歩きつつ思い出そうとしてたら、館についてしまった。


「いえ。収穫物の追加は十分なので、他のでお願いします」

「他のって言ってもなぁ。例えばどんなの?」


 やり手の受付嬢が笑うと恐ろしいな。

 どんな注文が来るのやら。


「薬草です」

「薬草?」

「師団長から、ノールさんが薬草栽培の第一人者だと伺っています」


 薬草って言っても色々あるからな。

 どのことを言っているのか?


「おう。よく来たな」

「ノーリ! 薬草作ってくれって言われたんだけど?」

「作ってくれるのか? 助かるわい」

「いやいや。どの薬草かわからないと作れないよ」


 詳しく聞いてみると、体力回復と傷の治療に使いたいらしい。

 確かこっちだと元気草だっけ?癒し草でも良いけど。

 そっちは良いけど、あとはパワーマッシュか。

 それは育てたことないな。


「とりあえず、癒し草は作ってみる。だけど、パワーマッシュは出来るかわからないよ?」

「かまわん。お前が作れんかったら、他のやつじゃ無理じゃろ」

「じゃあ、そういうことでヨロシク」


 エリンのことを尋ねてみると、他の人の帰り支度を手伝っているらしい。ちなみにノーリは帰らない。傭兵団の奴らが頼りなくて離れられないとか言ってる。

 何度か話すうちに昔のことを思い出して来た。他人の面倒を見るのが好きな奴だったな。こいつのことだから、愛着が湧いて離れづらいのだろう。


「俺は残るから、またしばらく頼むね!」

「儂らの方こそな!」


 拳を付き合わせて笑い合うのも悪くない。

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