4章 国の波乱

第57話 王都からの離脱

 7級に上がってから、依頼は一休みして、薬師の修行と屋台作りに力を入れている。

 3ヶ月の間に、知り合いがどんどん王都から出ている。


 まず、ファング。

 とある人達とバート達の故郷に行くらしい。

 獣王国といって、俺も来ないかと誘われた。

 やりたいこともあったから、そのうち行くかもと言っておいた。

 つもりなんだが、その人達の1人が遺跡調査の依頼人で話を聞きたいとか。

 これが最後とか言ってるし、お金もくれるって言うんで2日だけ付き合ってやったよ。

 これが意外と面白くてさ、ここらでは珍しい言葉とか見せてくるんだ。

 もちろん漢字もあったし、他の遺跡の言葉もメモくれたんだ。

『次○人になる為○やってきた修○は、□は仙術を覚える△行だったらしい。師○も○老人という七○神の一人とか言う□△ないか。△□老君も聞いた△とあ□有名人だな。』

 遺跡より読めるんじゃないか?

 老人とか七神とかあるな、老君が有名?

 あぁ、仙術あったあった。

 最近使ってないから忘れてたよ。

 見せてあげたら、変わった魔法だと言われた。

 違うんだけど訂正も面倒だからいいよね。


 七神に興味を示していたけど、そんなのいたっけ?

 というか神様多すぎて覚えられないよね。

 聞いてきた彼の名前ジールと言うらしい。

 彼も獣王国に行くらしいので、また何か見つけたら教えてくれと言っといた。

 いつ来るか、早く来いとしつこい。

 早くって言うから10年以内にはと答えておく。


 バートが去り際に10年じゃ長過ぎるって言うから、5年以内を頑張ると返した。

 焦りすぎはいかんぜよ。

 それが7級取って1ヶ月後の話。




 俺は今回の報酬で魔道具付きの屋台を作るんだ。

 さて、何を売るかだが・・。


 メンだな。麺だ!

 俺の何かがピンときた。

 ということで屋台作成を頼もう。

 こういう時こそ、ガンツ商会だよな。


 店長に頼み込んで工房を教えてもらったが、新しい作成は受け付けてないと言う。

 神は俺を見放したかと思った。

 しかし、まだ見捨てられてはいなかった。

 中古の魔改造チューニングはやっていると!

 さっそく中古屋台を頼む。

 蛇口と水の魔道具付けて、火の魔道具でコンロ代わり。

 サイズがちょっと小さめだったので屋台自体も拡張してもらった。

 椅子は樽でいいか?

 樽を載せられるように収納もいるな。

 備品は樽に突っ込めば良い。

 ちょっと歪で、屋台に荷台を付けたような見た目だが、完璧だな。

 完成まで早く1週間。

 金貨5枚。

 魔道具も全部中古だから格安なんだとさ。



 スコーピオンズにも屋台の話をしようとしたが、会った時には依頼ですぐ出かけると言われてな。

 しかも帝国までの護衛らしい。

 そいつは邪魔出来ないな。

 仕方ないので、いくつかニンニクだけ渡しておいた。


 王都でも何回か店を開いたが職人区意外は苦情ばっかりだったよ。

 メンは作ったけどパスタっぽくなってしまった。

 かん水があれば良いのが出来そうなんだがなぁ。

 客の10割が男だよ?

 日に100杯までは売れたかな。

 それ以上は手が足りなかった。

 それが7級取って2ヶ月後の話。



 そして現在3ヶ月後。

 薬師修行も順調だったが、イアさんが急に拠点を移すとか言ってね。

 良い場所無いか聞かれたので、ニールセンかブルーメンと答えておく。

 いや、ブルーメンの中じゃないよ?

 森に良い場所があるんですって。

 だったら教えろって言うから連れて行くことになった。

 落ち着いたら村長達も呼んでみるらしい。

 エリスは王都に残るんじゃないの?

 後から来るのね。

 まぁ、お好きにどうぞ。

 イアさんも、途中で誰かと合流するって言ってたな。

 会ってからのお楽しみだってさ。



 そんな訳で、屋台を受け取ったらすぐに出発だよ。


「お主は誰に話しているのじゃ?」


「え?説明が必要かと思って。」


「ピーちゃんにか?だそうだぞ?」


 アホーアホー。

 ・・・。



 オスクがメインで屋台を引っ張り、メサが全体を軽く浮かせている。

 王都からブルーメンの間は、街が無い代わりに大きめの村がいくつもある。

 その村には詰所があって兵士が行き来しているようだ。

 王都から3つ目の村で懐かしい顔を見た。


「トーマス!久しぶりだなぁ。」


「ノール!久しぶり。まさかここで会うとはね。」


「王都の騎士を受けたんじゃ無いのか?」


「受かったんだが、一度兵士をやる決まりでなぁ。今はここにいる。」


「なんじゃ知り合いか?」


「すみません。ニールセンに居たときの友達ですね。」


「トーマス。こちらは薬師の先生でな。俺が教えてもらってるんだ。」


「ノールが教えてもらうって、相当なお方じゃないか!?」


「俺はそんなじゃないが、先生はすごいよ。」


 まだ昼だったが、結局その日はこの村に泊まった。

 イアさんが許可してくれたんだ。

 トーマスと王都の話をしたんだが、やっぱり悪い噂が多いみたい。

 そろそろ戦争が始まるとか、犯罪が増えてるとかね。

 トーマスも王都に行かず、この街道メインになるかもと言っていた。

 兵士もかなり減っているらしい。

 どこも人手が足りない。

 ブルーメンのことも聞いてみると、意外にも治安は悪く無いらしい。

 ただし、兵士は全員外に出されて、犯罪者達が自治しているとか。

 完全に無法地帯と化している。


 翌日、見目の良い馬車がやってきた。


「貴族紋は無いから、どこかの商会かな?」


「へぇ。ブルーメンと交易かな? トーマスはどう思う?」


「今は難しいと思うけどなぁ。」


「まぁ、最初の1人かもしれないよ。知らないけど。」


 何とも無責任な会話だ。


「なんじゃ。もう来たのじゃ。」


 イアさんが言う。


「イアさんの知り合いだったの?」


「そうなのじゃ。なんでもブルーメンに逃げると言うのじゃ。きっひひひ。」


 久しぶりの魔女笑いきました。

 すると馬車から1人の老人が降りてきた。


「イア様、お久しぶりです。変わらずお若いですな。」


「先生、イア様って呼ばせてるの?ぷぷ。」


 俺がそう言うと、イアさんは少し膨れていた。


「ふん。あいつが勝手に言ってるのじゃ。久しいの。元気か?」


「まぁ何とか。そちらの人は?」


「ワシの弟子じゃな。あとその友人じゃ。」


「そうですか。ジルドールと言う。以後よろしく。」


「あぁ。この感じだと先生の年を知ってる人ですね。こちらこそよろしくお願いします。」


 その人が少し休んだら出発することになった。

 その間にトーマスの気術を見ると前より良くなっていた。

 自分の賦活は出来るようなので、一つ面白い技を教えてみる。


「デコピンな。これに気を込めて・・弾く!」


 ポン!と地面に当たって弾ける。

 弱く撃ったから威力は出ていない。


「すげぇな!出来たら便利じゃないか?」


「緊急時用だな。ぶっちゃけ石投げた方が強いし、疲れない。」


「そうか。まぁ練習してみるよ。」


「最初は近くから弱くだぞ?」


「なんて技なんだ?」


「名前は無いけど、『指弾』ってところかな。」


 ここで横から違う声が聞こえる。


「本当にお主は変な技を使うのじゃ。」


「全くですな。儂も生きてて初めてみました。」


「変と言われたら変かも知れませんけどねぇ。」


 他の人は使ってないから珍しいだろうけどね。


「ノーリよりは、俺の方が得意みたいだよ。」


「そうなのか。」


「ノーリで思い出した。ノールが全然ニールセンに戻らないって言ってたよ。」


「なんか用事かな?」


「ダインさんが会いたいってさ。鍛治の大親方だろ?知り合いだったのか?」


 トーマスがそう言うと横からの視線が強くなった。


「あぁ、街で世話になっててな。ブルーメンの後に一度ニールセンに行くか。」


 ポリポリと頭をかく。

 そろそろ出発となり、挨拶をして出る。




 しばらく街道を進んでから声をかけられた。


「お主ニールセンのダインと知り合いなのか?」


「あれ?言ってませんでしたっけ?」


「特に話題にしてないのじゃ。聞いてなくても当然か。」


「イアさんも知り合いですか?」


「まぁの。あの街は特殊じゃからな。」


「そうですな。儂もあそこだけは手を出したく無いですなぁ。」


「結構良い人多いですよ。まぁ、ブルーメンに居る子も良い子いますけどねぇ。」


「お主は意外と顔が広いのじゃ。森暮らしが好きとか言ってなかったか?」


「人混みが苦手なんですよ。だから王都も住んで無いでしょ?」


「なるほどなのじゃ。」


「ところでジルベールさんは王都暮らしは長いんですか?」


「そうですね。あそこに住んで60年くらいですかね。」


「はは。そこそこですねー。」


「結構長いと思ってましたが?」


 少し険しい顔になる。

 ちょっと失礼言っちゃったかな。


「すみません。私の知り合い長生きが多いもので、イアさんとかドワーフとか。」


「なるほど、それは仕方ありませんね。」


「ジルベール。自分から言わぬがそやつも同類じゃ。」


「え?」


「ノール。お主は時々、木々の前に座って寝てるじゃろ?」


「あれは寝てないですよ。瞑想です。」


「ふん。飯も食わずに1週間も瞑想する奴など見たことないわ。」


「1週間食わず?」


「よくあることですって。」


「あるかボケェ!起こさなかったら、ずっとそのままだったのじゃ!ジルベール覚えとけ、エルフの長生きがこんな感じになる!そやつがすぐって言ったら10年後なのじゃ!」


「なんと恐ろしい。儂は生きてるかどうか。」


 ジルさんのお付きの人達も口を開けっ放しだな。

 そろそろ閉じないと口臭くなるよ。

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